第020話 忍び寄る影

 木々がまばらとなり、もう少しでサーベンの森を抜けようかというころ。僕は魔法の鞄からスマートフォンを取り出して時間を確認した。


「えーと……」


 画面を解除すると朝の七時台だった時間が一八時ぴったりに表示を変えた。


「一八時か。このまま何も起きなければ昨日みたいに滑り込まなくて済みそうだね」

「ふふ、昨日は危なかったもんねー」


 昨日、森の奥まで行きすぎてしまった僕たちが北門に到着したのは、一九時を少し回ったくらいだった。確かに夕焼けから薄暗くなりかけていたけど、空は十分明るくてまだ大丈夫だろうと思っていたのだ。


 それなのに、あともう少しというところの距離まで来たら、数人の兵士が出てきて門を閉じ始めたのである。


 身隠しのローブを使って出入している僕たちは、大声を出してその作業を止めてもらう訳にもいかず、僕とエルサはアクセラレータを使用して文字通り滑り込んだのだ。


 露出の多いエルサが擦り傷を負ってしまい、その治癒のために僕がヒールを掛けたのは言うまでもない。まあ、詠唱の練習になったからいいんだけど、問題はそこじゃない。


 野営道具がない僕たちは、万一閉め出されでもしたら一晩でも野宿するのが大変だったりする。


「そろそろ、野営道具も揃えないとだよな……」

「移動するの?」

「ん? ああ、違うよ。それもあるけど、それはまだいいかなとも思ってる」


 僕のセリフからエルサは、帝都を離れると勘違いしたようだ。エルサが仲間になったことで冒険者として十分やっていける目途が立ち、明後日の奴隷解放の儀を済ませれば帝都にいつまでも居座る必要はない。


 実際、つい先日ロックランクからアイアンランクに昇級しており、異例のスピード昇級だと言ってミーシャさんがはしゃいでいたほどだ。


 それが故、やっかみなのか知らないけど、尾行されることが多くなった。それでも、身隠しのローブのおかげで全ての尾行を撒くことに成功している。


 厄介ごとが多いけど、サーベンの森での狩にも慣れてきたことも事実なのだ。だから、当初の計画を変更してもう少し帝都で冒険者ランクを上げるのもありかなと、僕は考えていた。


 だって、その方が先輩たちを見返すのに都合がいいのだ。


 僕が帝都の冒険者ギルドでどんどん昇級していったら、そんな僕を追放した先輩たちは絶対恥をかくに違いない。


 そうしたら、もし再開したときに先輩たちはなんて言ってくるかな。


『片桐……あのときは、すまなかった! 追放を取り消させてくれ』と内村主将。

『魔法袋を置いていけと言って悪かった。俺の魔法袋をやるから許してくれ』と高宮副主将。

『いやーマジで、ヤベーっす! 弟子にしてください、師匠!』と山木先輩。

『康平くん……私をおいていかないで……あなたのことが好きなのっ!』と葵先輩。


 そんな絶対起こり得ないことを妄想をしていたら、僕の頬が緩んでニヤニヤが止まらなくなった。


「こ、コウヘイ……?」

「ん?」

「その顔、気持ち悪い……」


 至極まともな突っ込みをエルサにされた僕は、妄想の世界から帰還した。


 あ、あぶな……いったい、僕は何を妄想しているんだ、と一人反省する。


 そんなことを考えながら帝都に戻る道中。


 突然――背筋がぞくりとした。


「エルサっ」

「わ、わたしも感じる。この先、きっと近いよ」


 エルサも力の波動を感じたのだろう。魔獣との戦闘でもいつも冷静なエルサが、緊張するように顔を歪ませてエルフ耳をペタリと下げている。


 姿が見えないにもかかわらず、大気を震わすほどのプレッシャーがヒシヒシと伝わってくる。僕は、つい数週間前に対峙した中級魔族ドーファンに勝るとも劣らない力の波動を感じで確信した。


「この波動は間違いない! 魔族のものだ!」


 どうする? いや、どうするも何も逃げるしかないだろう。


「エルサっ、早く帝都に戻って伝えないと!」


 僕はエルサの手を取って足り出す。


「伝える?」

「うん、騎士団や先輩たちに伝えないと! あと、住民の避難もさせないと!」


 はっ、情けない!


 ほんの数分前まで先輩たちのことを見返すとか考えておきながら、謎のプレッシャーの正体が判明した途端逃げるとは。


 情けない……本当に情けない!


 でもっ!


 この場には、僕とエルサしかいない。そうなったら、僕がすべきことは一つ。


 エルサを守り抜くこと――ようやく得た仲間をこんなところで失う訳にはいかない。


 中級魔族は、死の砂漠谷で倒したことがある。けれども、それは数千人の騎士たちと共に先輩たちの力があってこそ成し遂げられた偉業だ。


 そもそも、なぜ魔族が現れたのだろう。ドーファンの敵討ちか?

 いや、そんなことを考えている場合ではない。


 一刻も早く魔族出現の報を届けなければと帝都を目指してひた走る。


 が、


 それは許されなかった。


 森を飛び出して直ぐのことだ。

 側面から濃密な魔力の塊が迫るのを感じ取った。


 僕は、そちら側にいたエルサの左腕を咄嗟に掴み、背後に隠すようにその身を引き寄せてから前に出てラウンドシールドを構える。


「エルサっ、来るよ!」


 直ぐそこに肌を焼くような熱量を帯びた視界を覆うほどの巨大な炎が迫っていた。


「マジックシールド!」


 咄嗟に魔法障壁を半円状に展開させ、補強するように数枚さらに追加する。


「た、頼む。もってくれ!」


 僕は、魔法障壁を支えるように右腕も前に突き出して全力で両足を踏ん張る。そして、巨大な炎が魔法障壁に衝突する。


 一枚、二枚とあっという間に半透明のシールドがオレンジ色から赤色に染まって弾け飛び、炎がシールド全体を覆い尽くそうとしたとき。


 腹を抉るような轟音が響いた。


 何枚か突破されてしまったものの、なんとか防ぎ切れたようだ。


 そのことに僕が安堵したのもつかの間、もやの合間からぼんやりと人影が浮かび上がる。


「だ、誰だ!」


 魔族と予想しつつも、魔法を放ってきた相手を誰何すいかする。


「コウヘイっ、また来るよ!」


 エルサの叫び声と同時にその人影の前に真っ赤な火球が形成されていく。


 どうする? さっきの魔法障壁で魔力を使い果たしてしまった。

 具現化した障壁の枚数が連想した枚数と違ったことから、魔力不足で発動しなかったと思われる。


 エルサに魔法を撃ってもらうか?

 いやっ、詠唱が間に合わない。


 僕が自問自答しながら必死に対策を考えるも、間に合わない。


「ごめん、エルサ!」

「え、なに! ひゃんっ!」 


 エルサには悪いと思いつつ、この状況を打開するために魔力を吸収させてもらう。

 その魔力で身体強化してから魔法障壁を展開させた。けれども、先程よりも展開に成功した障壁の枚数が少ない。


「くそっ、魔力が足りない!」


 焦りから出た僕の言葉に反応するように、エルサが僕の右手を握る両手に力を込めてきた。さらに魔力を吸収してもらうつもりなのだろう。


 僕はエルサから魔力を吸収すると共にダメ元で大気からも魔力を吸収する。いまは少しでも多くの魔力が必要だ。


 すると、エルサから流れ込む魔力と遜色ないほどの魔力が僕の中に流れ込んできた。


 なんだ? ふと、違和感に眉を寄せる。


 先程の衝撃で発生した靄が青白い粒子となって僕の中に流れ込んでくるではないか。


「も、もしかして……魔法も吸収できるの、かぁ?」


 そんな願望といってもいいほどバカバカしい思いが、僕の頭をよぎって口から漏れる。


 そんな最中、再び巨大な炎が僕たちに向かって飛んでくる。時間切れだ。


 こうなったら一か八かの勝負。


 ラウンドシールドを前に突き出して僕は叫んだ。


「頼む! 吸収してくれぇええ!」


 目前に迫る巨大な炎。そして、衝突の衝撃と轟音が響く――ことはなかった。


 マジックシールドは半透明のまま。炎の塊が青白く光って小さくなっていく。

 それと同時に魔力の奔流ほんりゅうが僕の体内を駆け巡った。


 ただそれは、エルサから吸収した時に感じる温まるような感覚ではない。体内から焼き焦がすような痛い熱を帯びていた。


「ぐっ」


 僕はその苦しさに耐え切れず膝を突いてしまう。


「こ、コウヘイ!」


 心配そうに叫んだエルサが僕の前に屈んで様子を窺ってくる。その悲しそうに眉根を寄せたエルサに対し、僕は満面の笑みを無理やり作ってこたえた。


「やった! 成功だよ、エルサ!」


 僕のぎこちない笑みを見たからなのか。あるいは、魔法を吸収する作戦を知らなかったからか。エルサは、何を言っているのか理解できないという風に目をしばたたかせるばかり。

 説明したいのは山々だけど、まだ戦闘は終わっていない。


「エルサ、あとで説明するからいまはあっちに集中しないと」


 僕たちから十数メートル離れた先には、全身を覆う魔法士のような漆黒のローブを纏った四人の姿があった。

 いまのところ、彼らが追撃してくる様子は見られない。というよりも、動揺しているようだ。

 奥の一人だけは微動だにしていないけど、手前の三人が何かを話し合うように顔を見合わせていた。


 エルサがチラッとその様子を窺って立ち上がる。


「あ、ごめん。でも、大丈夫、なの?」

「うん、もう大丈夫。もしかしたら、生きて帰れるかもしれない」


 魔法を吸収できることが判明したとは言え、さすがに僕一人で中級魔族を倒せるとは思えない。けれども、僕は直ぐにこの場から逃げ出すことを戸惑ってしまう。


 それはなぜか?


 騎士団の弓騎士と魔法士と思われる二人が、魔族たちの背後で地に伏しているからだ。

 馬二頭はダメだろうけど、あの二人はまだ息があるようだ。微かに地を這うように手足を動かしている。


「エルサ、どうする?」

「ど、どうするって……何を考えてるの? ダメ、ダメだよ!」


 僕が何を言わんとしているのか察したエルサが僕の右腕にすがり付いて来る。やはり、魔法眼で相手の魔力が見えているのだろう。エルサの怯えようからその凄さを大体理解した。僕たちが敵う相手ではないようだ。


 ふぅと息を吐き出してから僕は、ラウンドシールドを嵌めた左手でエルサの手を丁寧に解きながら言った。


「大丈夫、わかってるよ」

「じゃ、じゃあ」


 僕の優先順位は変わらない。エルサの身の安全だ。

 それは、裏を返せばエルサをこの場から逃がせばいい。エルサを庇いながらが無理でも、僕一人なら生き残れる可能性は十分ある。


「うん、安心して。エルサの命を危険な目に合わせるつもりはないよ」


 エルサの強張った表情が解けていく。


「でも……」

「え?」

「僕には、彼らを見捨てることはできないや」


 僕がそう言った途端に、エルサは青みがかった銀色の瞳を動揺したようにうろうろ動かして声を震わせた。


「なにを、言ってるの? わ、わたしたちが勝てる相手じゃないよ。見えるの……わたしには見えるの。あの禍々しい、真っ黒な魔力のオーラが!」


 やっぱりか。それは僕もわかっている。

 いまでも即座に逃げ出したいほどのプレッシャーを感じているのだ。


 そもそも、僕に彼らを救う義理はない。それでも、ここで僕が逃げたら間違いなくあの二人は殺されてしまう。


 勇者でもなければ、そのパーティーから追放されたゼロの騎士である僕が何の役に立つのだろうか?

 死の砂漠谷での戦闘のように、殴り飛ばされて地べたを這いつくばり、気を失うのが関の山だろう。下手したら死んでしまう。

 

 だがしかし、それは過去の話だ。


 いまの僕は、魔法が使える。しかも、ただの魔法ではない。無詠唱魔法だ。さらには、相手の魔法まで吸収できることが判明した。


 そう。いまの僕には、戦う力が、彼らを守れる力が、あれほど切望した力が、確かにあるのだ。


 それなのにどうして逃げ出すことが出来ようか。

 これはまさに、ゼロの騎士という汚名をそそぐ絶好の機会――過去の僕と訣別するチャンスなのだ。


 だから、いまここで僕が逃げ出す訳にはいかなかった。僕自身のためにも。


「エルサだけでも逃げて。時間は僕が稼ぐから」

「そうじゃないよ、コウヘイ!」


 エルサが聞く耳を持ってくれない。おそらく、エルサからしたら僕の方がそう見えるかもしれないだろう。


 僕が倒せる相手ではないことは理解している――いや、倒せなくてもいいのだ。


 帝都の城壁からここは丸見えのハズ。あれだけ派手な魔法が二度も行使されれば、警備隊が異変に気付いて駆け付けてくれるかもしれない。それならばと僕は説明を加えた。


「大丈夫だよ。もう少しで警備隊が気付いて駆け付けてくれるから」

「嫌ぁ! だからダメだって! それならわたしも残る!」

「エルサ! 違うんだ。エルサには援軍を確実のものとするために知らせてきてほしいんだよ」

「だって! その間にコウヘイに何かあったら、わたしはどうすればいいのぉ」


 互いの主張が噛み合わず、頑として動こうとしないエルサを前に僕は決断を迫られる。けれども、予想以上に時間を無駄にしてしまったようだ。手前の魔族三人が近付いて来る。


 僕はそのことに歯噛みしてエルサを庇うように前にでる。


「いざとなたら一緒に逃げるよ。ただ、できるだけあの二人から離れたいから、少しずつ下がって」

「う、うん。わかった」


 倒れている二人には悪いけど、こうなってはエルサの命を優先せざるを得ない。

 一先ず、戦闘の余波に巻き込まないために、魔族が近付いて来るのに合わせて帝都の方に向かって後退る。


 すると、その行動がしゃくに障ったのか一番手前の魔族が叫んだ。


「貴様ぁ何をしたのだ!」


 違った。どうやら魔法を吸収されたことが理解できていないようだ。


「何って、吸収しただけだよ」

「くっ、やはり……遅かったか……」


 理由を知った彼らは立ち止まった。信じられないのだろう。


 それにしても、遅かった? 意味がわからない。


「コウヘイ、バラしちゃってよかったの?」

「あ、そうだ……」


 エルサに指摘されて気付いたけど、素直に教えてどうするんだよバカ、と内心で後悔する。


 ただ、そんなことを嘆いている暇はない。魔族たちは、無言で頷き合ってから三人が剣を抜き身にしたのだ。


「まさか、魔族が剣を抜くとは――エルサは後ろに下がって弓で援護して!」

「わかった。気を付けてね」


 エルサに指示を出している間に敵が目前に迫っていた。

 馬鹿正直にも魔族の一人が真っ正面から剣を振り下ろす。対して僕はラウンドシールドを前にして半身で待ち受ける。


 火花が散った。


 重い! 片手剣なのにもっと重量がある鈍器で殴られたような衝撃が左腕を襲った。そして、すぐさま僕は飛び退く。

 横からもう一人が迫っていたのだ。


「ファイアボルト!」


 剣を振り下ろしたところを狙い撃つ。が、難なく避けられてしまう。


「ちっ、さすがは魔族だ」 


 ただ、一人目の攻撃の重さや、二人目の反応速度からして中級魔族のそれとは思えなかった。魔法が使えるようになったことで僕の能力が上がっているとは言え、中級魔族との差は歴然だ。


 しかも、エルサを狙ったもう一人の魔族は、呆気なくエルサの矢を眉間に受けて既に絶命したようだ。


 おそらく、下級魔族なのだろう。となると、向こうの方で腕を組んで仁王立ちしているのが中級魔族に違いない。


 僕がそんなことを考えていると、最初に剣で攻撃してきた一人がエルサに向かって魔法を放とうとした。


「させるか!」


 僕は、アクセラレータの脚力で突進する。それに気付いた下級魔族が魔法を中止させて避けようとしたけど、エルサの方が速かった。エルサのサンダーアローが彼の片足に命中してその場に膝を突かせる。

 最早、格好の的だ。瞬く間に距離が縮まり、もう避けられない距離。魔族の特徴である白目まで真っ黒な双眸と目が合った。


「終わりだ!」


 僕が叫び終わったのと同時に全身の体重が乗ったラウンドシールドが真っ正面から顔面にめり込み、その下級魔族は勢いのまま地面に後頭部を打ちつけ転がって動かなくなった。


「うげっ」


 原型をとどめないほどぐちゃぐちゃになった顔を見た僕は、思わずそんな声を漏らす。


 そのすきを狙ってもう一人が接近してくるけど、エルサの援護射撃によりたたらを踏んで立ち止まる。

 あっという間に二人を倒し、中級魔族以外ではコイツで最後だ。


「どうしたの? かかってきなよ」


 そう言ってから僕は、ラウンドシールドを嵌めたまま左手を相手に見えるようにして指先をクイクイっとさせる。


 途端、内心で僕は、くぅうううー! と叫んだ。

 僕らしくないセリフなのは承知している。でも、言いたかった! 言いたかったんだ!


 すると、「く、小癪な!」と小物然としたセリフ吐きながら僕に襲い掛かってきた。


「目的はなんだ!」


 二合、三合と剣とメイスを打ち合いながら、なんとか理由を探ろうとするも相手は答えない。苦し紛れに相手がいったん距離を取ってウォーターボールを撃ってきた。


 けれども、魔法を吸収できることに気付いた僕にそれは悪手だ。さっきと同様に青白い粒子となって僕に取り込まれた。


 今回はまったく痛みを感じることがなく、僕は余裕の笑みを浮かべて言い放った。


「魔法は無駄だよ。忘れたの?」

「わ、私としたことが……」


 僕のセリフでそのことを思い出したのか苦虫を嚙み潰したような表情をしたのち、その下級魔族は剣をその場に落としていきなり狂ったように大声で笑い出した。


 それを見た僕は、気でも触れたのか? と苦笑い。それとも、何か秘策があるのかもしれないと警戒したそのときだった。


「な!」


 なんとその下級魔族は、懐から取り出した短剣を己が胸元に突き入れ、膝からそのまま崩れ落ちたのであった。


 そのことに驚きながらも、僕は生死を確認するために注意しながら近寄る。すると、彼はまだ生きており、意味不明なことを言った。


「ヒューマンよ……己の過ちに気付かず苦しみながら滅ぶがよい。魔族が世を統べる日は近い……」

「そ、それはどういうことだよ」


 返事はない。どうやら、息絶えたようである。


 そこへエルサが駆け寄ってきた。


「コウヘイ、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。でも、まだ――あれ?」


 エルサに注意喚起するために僕が全身黒尽くめの中級魔族がいた場所に視線を向けたら、もうそこには姿がなかった。


 それから一分もしない内に帝都最強の翼竜騎士団が空から舞い降り、そして、騎乗した内村主将と葵先輩が近衛騎士団と共に駆け付けてきた。


 中級魔族は、援軍を察知して逃げ出したのだろうか。理由はともあれ無事に助かったと思った途端、僕は腰が抜けたようにその場に座り込んでしまう。


 本当に危なかった。下級魔族だけであれば問題なかったけど、あのまま中級魔族を相手することになっていたらどうなっていたことやら。


 生き残った安堵から僕は、人目をはばからずエルサと抱き合って生還したことの喜びを分かち合ったのだった。

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