1235.歓喜の、祝勝会。

 翌々日の夕方、レオニールさん達『強き一撃クラン』の一行が戻って来た。


 『エリアマスター』撃破の報は、すでに迷宮都市中に行き渡っていて、多くの冒険者や市民が『冒険者ギルド』前の広場に、詰めかけている。


 迷宮入口からレオニールさん達が出てくると、大歓声が湧き上がり、ボルテージマックスの状態で迎えられた。


 みんな誇らしそうな顔をしていて、俺もなんだか嬉しい。


 本当は休みたいところだろうけど、これから祝勝会が始まるのだ。


 『冒険者ギルド』主催で、盛大な祝勝会が準備されているのである。


 『エリアマスター』討伐を達成した場合、迷宮都市をあげでお祝いするので、都市中がお祭り騒ぎになるらしい。


 ギルドが主催で祝勝会を行った後は、迷宮都市の三つの区をパレードする予定になっている。

 中央通りを南区から中区、北区へと進み、往復パレードするとのことだ。


 俺たち、そして『ツリーハウスクラン』のメンバーも、このお祭り騒ぎに集まっている。


 『冒険者ギルド』から迷宮入口へと続くスペースの前にある大きな広場に、ステージが設置されている。


 『強き一撃クラン』のメンバーが、集まった人たちに手を振りながら登壇する。


 大歓声の中、祝勝会が始まった。


 最初にギルド長から、『エリアマスター』討伐の結果が報告され、クランを代表し、クランマスターのレオニールさんが挨拶をした。


 もちろん観衆は大歓声を発し、大盛り上がりだ。


 太守のムーンリバー伯爵も来ていて、祝辞を述べていた。


 普通なら、来賓やいろんな関係者が挨拶をするところだろうが、挨拶はムーンリバー伯爵だけだった。


 こういう式典で退屈になる祝辞パートが、短かったので助かった。


 まぁそもそも冒険者相手に、ダラダラ挨拶しても、場が荒れちゃうだろうから、あえて最低限にしたのだろう。


 祝辞の後は、討伐を成し遂げた『強き一撃クラン』のメンバーが、一人ずつ紹介された。

 集まった人たちから、大きな歓声を送られていた。


 構成しているパーティーごとに、紹介されていたのだが……最後のメンバーの紹介が終わり、司会のギルド職員が次のプログラムに移ろうとしたときに、レオニールさんが走り寄り、拡声の魔法道具を奪うようにして取った。


「みんな、聞いてくれ! 俺たちが攻略できたのは……実はここにいない助っ人メンバーのおかげでもあるんだ! 

 彼らの力がなければ、サブマスター戦もマスター戦もどうなっていたかわからない。

 俺たちのクランのメンバーではないが、一緒に討伐を成し遂げた仲間として、紹介させてほしい! 

 それは……『ツリーハウスクラン』のクランマスターである、『キング殺し』こと、グリム=シンオベロン卿! 

 そして、彼のパーティー『シンオベロン』のメンバー……『愛と武勇の女神』ニア様、可愛く強い天才児コンビ、リリイくんとチャッピーくんだぁ! 

 さぁ、ここに上がって来てくれ!」


 突然レオニールさんがそう言って、俺たちのほうを指差した。


 なに、この急展開!?

 ……何も聞いてないんですけど……。


 そして会場は……大歓声が起こっている。

 『キング殺し』コール、アイラブユーコール、天才児コールが、交互に起きている。

 アイラブユーコールは、本当は『愛と武勇』って言っているんだけどね。


 しょうがないので、ニア、リリイ、チャッピーを連れて登壇することにした。


 俺たちの登壇を見て、さらにボルテージが上がって……地鳴りのような歓声になっている。


「驚かせてすまない。どうしても君たちのことを、紹介したくてね」


 レイニールさんがそう言って、爽やかな笑顔を作った。

 何このキラースマイル……。


 俺に手を差し出してきたので、俺も手を出して握手をした。


 するとまたもや大歓声が……。

 『キング殺し』コールと『金獅子コール』が、交互に沸き上がった。


 ニアはノリノリで人々に手を振っているし、リリイとチャッピーは恥ずかしいのか、くねくねしながら手を振っている。

 とても可愛い。


 俺たちは、そのままステージに残るように頼まれ、『強き一撃クラン』のメンバーの横に並ぶことになってしまった。


 そして、次のプログラムは、『エリアマスター』討伐を達成した者に対する『冒険者ギルド』からの記念メダリオンの授与だ。

 なぜか俺たちの分まで用意されていた。


 どうも初めからレオニールさんは計画していて、かつギルド長たちとも、打ち合わせをしていたようだ。


 レオニールさん達は、さっき迷宮から帰って来たばかりなのだが……。

 たぶん……ギルドの迷宮調査部のスタッフが、何度か行ったり来たりして打ち合わせをしたのだろう。


 渡されたのは、拳大ほどもある大きなメダルで、金で出来ている。


 表面には、剣と杖がクロスした『冒険者ギルド』の紋章が彫られていて、裏面には『迷宮上層 西エリア エリアマスター討伐』という文言が彫られている。


 次に行われたのは、『サブマスター』と『エリアマスター』戦での戦利品の紹介だ。


 アナウンスを担当しているギルドスタッフによれば、一番の盛り上がりイベントということだ。


 そのアナウンスを聞いて、集まった人たちも期待に目を輝かせている。


 『エリアマスター』の討伐は、久しぶりの快挙ということなので、祝賀イベントに初めて参加する冒険者も、かなり多いようだ。


 戦利品が、一つずつ紹介され、その度に、会場が沸いた。


 『サブマスター』の戦利品は……『ワームウイップ』という魔法の鞭、『リカバリーワームアーマー』という魔法の軽鎧、『ディグランチャー』という穴掘りの魔法道具の三つだ。


 『エリアマスター』の戦利品は、五つある。

 『魔鎌 オオカマキリ』という大鎌、『伸縮の鎖鎌』という鎖鎌、『マンティスシールド』という大盾、『ゲッコウパール』『ゲッコウクリスタル』という特別な宝石の五つである。


 この中で、『リカバリーワームアーマー』と『伸縮の鎖鎌』と『マンティスシールド』は、『強き一撃クラン』で使用すると発表された。


 それはいいのだが……なぜか『ワームウイップ』と『ディグランチャー』は、今回の討伐に協力してくれた俺たち『シンオベロン』に進呈すると突然レオニールさんが宣言した。


 今思いついたわけではなく仲間内では話し合っていたようで、レオニールさんの宣言と共に、他のクランメンバーたちが拍手をした。


 ここで断るなんて空気の読めないことはできないし、せっかくの厚意なので、ありがたく頂戴することにした。


 鞭は使い手がいないという事だったので、俺にくれるのも理解できるが……穴掘りの魔法道具は、魔物との戦闘でも有効に使えることをリリイが証明したので、『強き一撃クラン』でも使いたいのではないかと思うが……。

 感謝の気持ちというか、一緒に『エリアマスター』を討伐した仲間としての配分という意味もあるのだろう。


 これらの戦利品は、『波動複写』でコピーして密かに使うことはできるのだが、正式にもらえたことによって、人に見られる場面でも、堂々と使える。

 その意味ではありがたい。


 残りの戦利品の『魔鎌 オオカマキリ』『ゲッコウパール』『ゲッコウクリスタル』と、『サブマスター』であったミミズ魔物のキングの素材と、『エリアマスター』だったカマキリ魔物のキングの素材については、後日公開オークションが行われることが発表され、さらに会場は沸き上がった。

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