1223.特殊スライムへの、儀式。

 日没を過ぎ、俺たちは迷宮都市郊外にある『スライムの神殿 月の院』にやって来た。


 相変わらず侵入防止のための幻惑の結界が張ってあるので、上空から結界の中に降り立った。

 上空から近づく者に対しては、幻惑の効果が薄いので神殿の位置がピンポイントで分かっていれば、結界を突破して降り立つことができるのだ。


 一緒に来たのは、ニア、リリイ、チャッピー、『エンペラースライム』のリンちゃん、そして百八体のレベル1の『スライム』たちだ。


 『スライム』がほとんど見受けられない『アルテミナ公国』で、リンちゃんが迷宮都市近郊を広く散策して探し出した『スライム』たちに『増殖』スキルで分裂してもらった。

 レベル1の『スライム』ができるようにしてもらったのだ。


 正確には『増殖』スキルは、レベル6で発現するので、野良の『スライム』たちをレベル6まで上げてから、分裂してもらったわけである。


 レベル1の『スライム』とレベル5の『スライム』の二体に分かれるという感じで、レベル差をつけて分裂することもできるのだが、レベル1の『スライム』六体に分裂することもできる。


 その割合はリンちゃんに任せたのだが……なぜかレベル1の『スライム』が二百十六体用意されていた。

 つまり百八体が二セット分という状態になっていたのだ。


 だが今回は、百八体いれば良いので、残りの『スライム』たちには、待機してもらうことにした。

 『アポロニア公国』にあるという『スライムの神殿 太陽の院』でも特殊スライムの儀式ができるというので、その時に動員しようと思っている。


「お待ちしておりました。日が暮れ、月が出ておりますので、条件は満たしております。我々の準備も済んでおります」


 執事風『スライマン』のスラリーさんが、出迎えてくれた。

 隣ではメイド風『スライマン』のスラミティーさんが、笑顔でお辞儀をした。


 迷宮中層の『スライムフロア』を訪れたときに、帰り際に見せてもらったが、この『スライムの神殿 月の院』と『スライムフロア』を繋ぐゲートが設置されていたのだ。


 そのゲートは、『スライムハウス』の中の一つに設置されていて、俺が持っている『対鏡の門ツインミラーゲート』に似た形だった。


 『対鏡の門ツインミラーゲート』は、俺がダンジョンマスターをしているテスト用第四号迷宮『トラッパー迷宮』で手に入れた『究極級アルティメット』階級の魔法道具だ。


 普通のドア二枚分ぐらいの大きさの鏡が、二つでセットになっている。


 『スライムハウス』に設置されていたゲートは、鏡にはなっていなくて、ただの大きな枠なのだが、形やサイズがよく似ていたのだ。


 この『スライムの神殿 月の院』には、もう一つゲートが置いてあって、それは『アポロニア公国』にあるという『スライムの神殿 太陽の院』と繋がっているらしい。

 やはり二つで一セットの魔法道具のようだ。


 そしてなんと、それを使えば『アポロニア公国』に、一瞬で行けてしまうわけだ。


 まだ『アポロニア公国』を訪れたことがない俺にとっては、非常にありがたい。


 無事に『スライム聖者』の『称号』を手に入れて、『太陽の院』にも行けるようになりたいと思っている。


 それをきっかけに、『アポロニア公国』に行くことができる。


 キナ臭い東小国群の中で、火元とも言えるのが『アポロニア公国』だからね。


 『アポロニア公国』が召喚したという勇者及び『アポロニア公国』自体が、俺の中ではやばい勇者とやばい国という認識なのだ。


 追放された『水使い』のアクアリアさんが、嘘をついていると思えないからね。

 もちろん『虚偽看破』スキルでも、確認済みだ。


「では早速、儀式を始めたいと思います。百八体の『スライム』たちは、円が描かれている場所に移動してください」


 スラリーさんが、『スライム』たちに指示を出した。


 いよいよ始まる。


 この『スライムの神殿 月の院』を守っている百八体の『アイアンスライム』が……彼らは合体して『ロザリオスライム』になるわけだが……先輩として、俺が連れてきた『スライム』たちを誘導している。

 みんな楽しそうにバウンドしているのだ。

 これから特殊なスライムになるという緊張感は、この子たちには全くない。

 いつものように、楽しそうにバウンドしている。


 『スライム』たちが位置するところには、小さな円が描かれている。

 一種の魔法陣のようだ。

 それが数珠繋ぎの大きな円になっている。


 その中心に俺が立つようだ。

 スラリーさんに、手で誘導された。


「この儀式には、上位種の『スライム』が必要です。リンちゃん、お願いします」


 スラリーさんが呼ぶと、リンちゃんが楽しそうにバウンドしながら、俺の隣にやって来た。


 この二人は、迷宮中層の『スライムフロア』で出会って、もう仲良しになっているのだ。


「リンちゃんの体組織を、ほんの少し百八体の『スライム』に注入してください」


「リン、わかった。あるじのため、がんばる!」


 リンちゃんはそう言うと、楽しそうにバウンドしながら、『スライム』たちを回り、体組織の一部を体の中に注入した。

 注入し終えた後、お互いに三回バウンドするのが、とっても可愛い。


「月の光は、十分に浴びることができていますし、上位『スライム』の体細胞も注入されました。これで準備は整いました。最後にマスターが、発動真言コマンドワードを唱えてください」


 そう言うとスラリーさんは、俺に発動真言コマンドワードを耳打ちした。


「集いし『スライム』たちよ、月の光を浴びて新たな可能性に覚醒せよ! 今変身のムーンライト!」


 俺は、指示された発動真言コマンドワードを唱えた。


 すると『スライム』たちが、プルプルと震えだした。


 そして柔らかな光に包まれていく……


 その光も数秒で消える。


 ……現れたのは……あれ?


 ……金色の『スライム』だ。


 ……『アイアンスライム』になって、銀色になるはずなんだけど……?


 『波動鑑定』で確認をしてみると……


 え!

 どういうこと!?


 なぜか『スライム』たちの『種族』が、『オリハルコンスライム』となっている。


 ……どういうこと?


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