1222.スライムフロアの、スライムハウス。
「石版に書かれていた内容によれば、君を見つけ出して、君に認められれば……『スライム聖者』の『称号』を手にできるとなっていたと思うけど……?」
俺は、『スライム』の特殊クラスである『スライマン』のスラリーに尋ねた。
「はい、確かに形式要件を満たしました。
あとは……実際に百八体の『スライム』たちとともに『ロザリオスライム』を誕生させることによって、『スライム聖者』の『称号』が手に入るでしょう」
「なるほど、そういうことか。じゃぁもう一度、あの『スライム神殿 月の院』に行かないといけないよね?」
「はい、そうなります。私がご案内しますが、まずはゆっくりこの『スライムハウス』で休んでください」
「『スライムハウス』……?」
「この球形の家のことです。このフロアを『スライムフロア』と呼び、この家は『スライムハウス』と呼んでおります」
「お客様、お茶のご用意ができております。どうぞ中へお入り下さ〜い」
そう言って現れたのは、メイド姿の女性だ。
正確には……メイド風の軽鎧と言ったほうがいい感じだ。
この姿もおそらく……なくなった冒険者の遺体を吸収したのだろう。
この子が、もう一体の『スライマン』のようだ。
「ちゃんと挨拶をしないといけませんよ」
スラリーさんが、上司っぽい感じで注意をした。
「ごめんなさい、私ったら。『スライマン』のスラミティーです。私はメイドポジションです。
スラリーは執事ポジションなのです。
そんな感じで、お客様をもてなしちゃいま〜す!」
めっちゃ明るい感じで言った。
落ち着いた感じのスラリーさんとは、対照的なキャラだけど……これってこの子たちの個性なのかな……?
それとも、吸収した人間に影響されたりしてるのかな……?
そして、ポジションて……なに?
これも『スライム聖女』に言いつけられているんだろうか?
俺たちは案内されるまま……『スライムハウス』に入った。
最初の球体は……玄関とロビーを兼ねたような場所のようだ。
椅子もいくつか置いてある。
次の球体から、五つ連続して通路のような役割になっていて、それぞれの球体の左右に別の球体が接続している。
まっすぐ進んで六つ目の球体が、応接間というかラウンジのようになっている。
お茶をする場所は、ここのようだ。
スラミティーさんが、早速お茶を運んでくれた。
この香りは……麦茶だ!
「そのまま飲んでも美味しいですけど、砂糖を入れるともっと美味しいですよ」
スラミティーさんは、そんな説明をしながら砂糖の器も置いた。
「これは麦茶?」
「はい。よくご存知ですね。この都市では、ほとんど飲まれていないはずですが」
やはり麦茶だった。
『コボルト』の隠し里で、ご馳走になって以来だ。
俺は、砂糖が入った麦茶をキンキンに冷やして飲むのが好きだったんだよね。
麦茶は一般的に普及していないようで、売っているのを見たことがないのだが、どこかで買っているのだろうか?
「美味しいよね。どこから仕入れているの?」
「『スライム聖女』様が作ったものを、保存しているのです。『種族固有スキル』の『体内保存』で保存してるから、傷んでませんよ」
なるほど、そういうことか。
それにしても、この二体の『スライマン』は、本当に人間のように話す。
「君たちの他にも、『スライマン』はいるのかい?」
俺は、砂糖入りの甘い麦茶をすすりながら尋ねた。
「はい。当時は私を含め四体おりました。今は、この迷宮には我々二体しかいません」
スラリーさんが答えた。
さっき執事ポジションという話が出ていたが、そう言われると、本当に執事のように見えてくる。
スライム執事とスライムメイド……なんかいいかもしれない。
まぁそんなことは、どうでもいいんだけど。
「他の二体は、どこかに行ったの?」
「はい、今は『スライム神殿 太陽の院』におります」
え、……さらっと答えてるけど……もう一つスライム神殿があるのか!?
「太陽の院……?」
「はい、もう一つのスライム神殿で、『アポロニア公国』にございます」
なんと、『アポロニア公国』!
俺の中では……いろんな意味で今ホットな国だ。
「じゃぁ、スライム聖女の言いつけで、そこを守っているってこと?」
「はい、そうなります」
「そこも……特殊なスライムにクラスチェンジする儀式ができるってこと?」
「はい、できます。『太陽の院』では、『サンシャインスライム』を作り出すことができます」
「『サンシャインスライム』……?」
「はい。『スライム聖者』の称号を手にすれば、『太陽の院』に行くこともできますので、その時にご確認ください」
「そうか、わかった。ところで『スライムの神殿 月の院』には、そろそろ行けるかな?」
「もちろん行けますが……特殊スライムのクラスチェンジは、月の光が受けられる夜になります。
まだ夜までかなり時間がありますので、ここでゆっくりお過ごしいただくか……『月の院』でお過ごしいただくか……もしくは、一度お帰りいただいて、夜に改めて『月の院』においでいただいてもかまいませんが」
「そうか……夜にならないとできないんだね。じゃぁ日が暮れたら、改めて『スライム神殿』に行くよ。百八体の『スライム』を連れて行かないといけないしね」
「かしこまりました。それでは我々は準備をして、お待ちしております」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
俺たちは、この『スライムフロア』を後にした。
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