1220.現れた、特殊スライム。

 『使い人』の中で、リーダー的な役割をしているのが、『土使い』のエリンさんだ。

 一番年上なので、まとめ役をお願いしている。


 サブリーダー的な役割を担っているのは、『魚使い』のジョージなのだが、基本的にはジョージは自由にさせてあげているので、いつも朝練に参加しているわけではない。


 年齢的に言えば、今回新しく仲間になったアクアリアさんも、成人しているので、今後サブリーダー的な役割を担ってくれると助かるんだが、プレッシャーを与えたくないので、しばらくは自由にしてもらおうと思っている。


 彼女にも、転移の魔法道具を貸し出し、朝練に参加したい場合は、自由に大森林に来れるようにしてあげた。


 ちなみに……『十二人の使い人』の英雄譚に出てくる『使い人』で、仲間になっていないのは残り四つだ。

 『火使い』『風使い』『鳥使い』『人形使い』である。


 なんとか見つけ出したいが、こればかりは運に頼るしかない。

 新たな出会いに、期待したいところだ。



 今日のところは、『使い人』のみんなや大森林のメンバーにアクアリアさんを紹介するだけにして、すぐに『ツリーハウスクラン』に戻ってき来た。


 アクアリアさんの冒険者としての活動は、基本的に自由にさせてあげたいと思っている。

 ただやはり一人で迷宮に挑むのは危険なので、『ヘスティア王国』第三王女のファーネシーさんがリーダーとなっている『守護炎の騎士』に、入ってもらうことにした。


 レベル的にもちょうどいいし、『ヒーラー』ポジションを担当してもらうとよりバランスが良くなるのだ。


 現状は、薬師三人娘が魔法銃を使った遠距離攻撃と、回復薬を使った回復を担当することになっているが、アクアリアさんが入ることによって、魔法銃での攻撃に専念ができる。

 またアクエリアさんも、魔法銃を使うので、一緒に攻撃することもできる。

 攻撃と回復を、交代で担当することもできるし、良い連携ができると思うんだよね。


 パーティーメンバーが十一人となり、かなり多くなるが、その分バランスも良く、強いパーティーになっていると思う。

 今後躍進してくれるに違いない。




 ◇




 少しして、俺たちは『ゲッコウ迷宮』中層の転移先として登録したフロアにやって来た。


 『ツリーハウスクラン』の『クラン本館』の転移用の秘密部屋から直接やって来たので、『冒険者ギルド』の受付は通っていない。


 迷宮中層に行く目的は、特殊なスライムを探し出すことなので、『冒険者ギルド』の手続きは踏む必要がないと考えている。

 魔物を狩ったとしても、買取に出さないで『波動収納』にストックしておけばいいだけだしね。


 このやり方なら、ちょっと時間が空いた時など手軽に来れてしまうのだ。


 まずは、転移ポイントを作った『中層南エリア』から探索してみようと思っている。


 今日から本格的に特殊なスライムを探すので、『エンペラースライム』のリンちゃんに同行してもらっている。


 あとはいつものニア、リリイ、チャッピーだ。


 特殊なスライムを探すといっても、全くあてがないので、フロアを順繰りに回るしかない。


 戦闘に時間を取られると、多くのフロアを回れないので、ここでも最短距離をとり、倒さざるを得ない魔物だけ瞬殺しながら進むことにした。


 転移したフロアを駆け抜け、次のフロアに入ったが、最初のフロア同様草原のフロアだった。

 特に大きな水辺はないので、『中層南エリア』は上層と違って、水辺が多いエリアというわけでは、ないのかもしれない。

 まぁまだ二つしか見ていないから、断言はできないけどね。


 ここでも最初のフロアと同じように、角狼魔物が襲って来たので、やむを得ず倒した。


 リンちゃんはさっきから、『種族固有スキル』の『種族通信』を使って、迷宮にいるであろう特殊スライムに呼びかけてくれている。


 届いてくれていると良いのだが……。



 五つ目のフロアに入ったところで……突然、人が現れた。

 と言うよりも……俺たちが来るのを待っていたかのように、立っていた。

 服装からして……冒険者だと思うが、中層に一人でいるなんて信じられない。


 そしてなんとなく……独特の雰囲気があるんだよね……。


 ゆっくりと俺たちの方に、近づいてくる。


「『スライムの神殿 月の院』に訪れたのは、あなたですね。早かったですね。いきなり『南エリア』を回るなんて……やはり運を持っているのですね」


 水色の髪をショートカットにして、ズボンを履いている事と、端正な顔立ちで……女性なのか男性なのかはっきりしない。

 声も高く中性的な感じだ。


「あの……あなたは……?」


「これは失礼。申し遅れました、私は『スライマン』のスラリーと申します。あなたが探している特殊なスライムは、私ですよ」


 え! 『スライム』なのか!?


 『エンペラースライム』のリンちゃんも、『種族固有スキル』の『変態』で人間の姿になることができるが、それと同じ能力を持っているのだろうか?

 それにしても……話し方も人間そのものだ。

 あの『スライム』独特の可愛い感じの話し方ではない。


「あなたが『スライム』なんですか? 人間の姿に『変態』しているのですか?」


「私は、間違いなく『スライム』です。そこの『スライム』さんの持っている『種族固有スキル』の『変態』とは少し違うんですよ。私は、そもそもが人の形をした『スライム』なんです。特殊でしょ!」


 そう言うと、スラリーさんは一瞬で全身半透明の水色に変化した。

 もちろん人の形を維持したままだ。


 まるで水色の全身タイツを着て、顔にもペイントしているみたいな感じだ。


 この世界の『スライム』は、基本の形態はビーチボールみたいな球形なのだが、ある程度自由に変形することができる。

 楕円形になったり、クッションみたいな形になったりという程度だけどね。

 それがこの特殊スライムは、完全な人の形になっている。


「今見せてくれている姿が、本来の状態ってこと?」


「はい、そうです。ただいくつものパターンの人の姿になることができます」


 そう言うと、スラリーさんは……色っぽい美人冒険者、スキンヘッドのごつい男性冒険者、犬亜人の美少女冒険者、金髪のイケメン冒険者などに、一瞬で変わった。


 何この早変わり……すご過ぎるんですけど……。



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