1153.囚われの魂を、解放。
『上級悪魔』の置き土産の『
倒してしまう事は簡単だが、その中の一体は、約三千年前に『勇者団』と行動を共にしていた親指将軍ことシュワローン将軍の遺体だった。
できれば無力化して、丁重に葬ってあげたいところだ。
俺は、まず向かってくるカマキリの『
中級の氷魔法『氷魔法——
『
親指将軍の『
彼女たちは、必死で呼びかけているが、やはりただの亡骸に過ぎないから、全く効果は無い。
俺は、一縷の可能性にかけ、リリイを『集いし力』で呼び寄せた。
「リリイ、あれは『
「アンデッドとは違うのだ。死体の操り人形……でも……魂の一部が囚われているのだ。昇天させて、輪廻の輪に戻してあげないと可哀想なのだ」
リリイは、分析するように言った。
やはり『死霊使い』スキルの力で、状況が読み取れるようだ。
それにしても……魂の一部が囚われている……?
「その魂に呼びかけて、動きを止めることができるかな?」
「たぶん……ダメなのだ。残留思念みたいな感じで、少し残っているだけだから……体のコントロールを取り戻すのは、難しいと思うのだ」
「失礼いたします。グリム様」
リリイが話し終わるや声を発したのは、『妖魔 ジャックランタン』のジャクラーだった。
リリイの背中から現れた。
どうやら、鬼火形態になってリリイに付着していたようだ。
「どうしたの?」
「私の死霊を断つ刈り取り鎌で、悪魔の見えない支配の糸を断ち切れるかもしれません。さすれば、動きを止めることができると思います」
なにそれ!?
さらっと凄いことを言った!
「『人形の悪魔』がかけている術式を、解除できるってこと?」
「おそらく。……試してもよろしいでしょうか?」
「あぁ頼む!」
俺の返事とともに、ジャクラーはスッと親指将軍の背後に回り、その頭上の空間を大鎌で切り裂いた。
親指将軍に明らかな変化は無いようだが、少し動きがぎこちなくなった気がする。
ジャクラーは、今度は大鎌を振りながら体全体を回転させるようにして、大きくスイングした。
そして高速回転する感じで、空間を連続で切りつけた!
すると、親指将軍の動きが、だんだんぎこちなくなり……最終的に止まった。
片膝をついて、そのまま停止してしまったのだ。
支配の術式をうまく破壊できたようだ。
「リリイ様、グリム様、強固な支配でしたが、なんとか断ち切れました。私は、このまま他の『
「あぁ頼む!」
「がんばるのだ! ファイトなのだ!」
「イエス、マイレディー」
ジャクラーは、嬉しそうにその場で三回転した後、他の『
「親指将軍!」
「シュワローン将軍!」
「将軍!」
『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさん、『高速飛行艇 アルシャドウ号』の付喪神エメラルディアさん、『ホムンクルス』のニコちゃんが、親指将軍の死体に駆け寄る。
だが残念ながら、何も反応しない。
亡骸だからしょうがないが。
「将軍の魂の一部が囚われているから、輪廻の輪に返してあげないと、可哀想なのだ。送ってあげたいなのだ……」
リリイが、俺を見上げて訴えかける。
「フミナさん、エメラルディアさん、ニコちゃん、リリイが今言った通り、将軍の魂の一部が囚われているみたいです。輪廻の輪に、返してあげていいですか?」
「……はい、お願いします」
「そうですね。もう休ませてあげたいですね。そうしてください」
「あい、お願いします」
「リリイ、頼むよ」
「わかったのだ」
リリイは、片膝をついた状態の親指将軍に近づき、右手を顔の辺りにかざした。
「囚われの魂を解放……
リリイの右手から暖かい光が照射され、親指将軍の死体を包み込む。
体全体を包んでいた光が収束し、胸の辺りで小さくなると、体の中に入った。
そしてそれはすぐに体から出てきて、大きな勾玉のような形になっている。
その光の勾玉は、薄く広がっていき人の形を作る。
「親指将軍!」
「シュワローン将軍!」
「将軍!」
「フミナ、エメル殿下、ニコちゃん、久しぶりだね。私は戻って来た!」
なんと、親指将軍の魂の一部が、ホログラム映像のように現れた。
そして親指将軍というあだ名の由来になった決めポーズをしている。
右手の親指を前に突出しているのだ。
「「「将軍!」」」
「……でも、もう行かないと。やっと、やっと戻れる……。精霊たちが教えてくれている。君が私を助けてくれたんだね?」
親指将軍が、リリイに優しく微笑む。
リリイがコクリと頷く。
「君にお願いがある。私の……この体を役立ててほしい。
私は、悪魔に利用され、この体で多くを傷つけてきたようだ。
せめて……この体を償いに使いたい。
『人形の悪魔』が加工しているから、朽ちることがない強靭な人形となっている。
君なら……正しく使いこなせるはずだ。お願いしたい」
驚いたことに親指将軍は、リリイに自分の体を役立てろと申し出た。
もちろん、リリイが『死霊使い』スキルを持っていることがわかった上で、言っているのだろう。
「でも、お墓を作って体も眠らせたほうがいいと思うのだ」
リリイがそう言うと、フミナさん達も頷いた。
「親指将軍、構わなければ、体を丁重に葬らせてください」
俺は、親指将軍にお願いしてみた。
「……強き王よ、お気持ちだけ受け取ります。
どうか遠慮なく、この体を使ってください。
私の顔を見るのが辛ければ、仮面を取り付けてください。
必ず『死霊使い』の子の力になるはずです。
他の『
親指将軍の決意は、固いようだ。
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