1111.既読スルーならぬ、既伝スルー……。

 朝食を終えた俺は、屋敷の門を入ったすぐのところに、大きな掲示板を立てた。


 そこに採用する冒険者を貼り出した。

 冒険者じゃない人も、一緒に書いてあるけどね。


 字が読めない人がいる可能性があるので、問い合わせに対応する専用の担当者を置くことにした。


 今日来てくれたばかりの盾の付喪神フミナさんと、船の付喪神エメラルディアさんに、交代で担当してもらうことにした。


 採用されなかったことを抗議する冒険者もいるかもしれないが、この二人なら舐められる事はないだろう。


 フミナさんは大盾を背負っているし、エメラルディアさんは女海賊風の衣装に、大きな舵輪を背負っているというパンチの効いた服装をしてるからね。


 掲示板には、採用基準には達しているが、クランとして支援する必要がないという理由で採用を見送った冒険者パーティーについても貼り出している。


 そして、賛助会員というサブメンバーになる資格はあるので、希望者は申し出てほしいと書いてあるのだ。


 賛助会員についても、簡単な説明を載せた。

 クランの趣旨に賛同し、支援してくれる人が入る制度で、会費を払う必要があるが、そのかわりいつでもクランに出入りができるというものだ。


 この問い合わせについての対応も、フミナさんとエメラルディアさんがやってくれることになっている。



 クラン入り希望者の面接は、期限を決めて告知したわけではないので、今日以降も来る可能性がある。


 ただ普通に考えれば、ほとんど昨日来てくれたと思う。


 一応、面接希望者が来た場合に面接官として、俺の分身『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーに待機してもらうことにした。


 さすがにもう四人は配置できないし、必要もないだろう。

 そこでナビーに、お願いしたのだ。


 ただナビーさんの場合、一抹の不安がある。

 もし面接希望者が来なくて暇だった場合、迷宮都市のチンピラをテイムしに行ってしまいそうなんだよね。

 まぁそれはそれで、世の中の役に立つからいいんだけどさ。


 間違っても『ツリーハウスクラン』の中に、『舎弟ズ』部門とかは、作らないでほしい。


 こんなことを冗談で考えていると、ほんとになっちゃうから、考えちゃダメなんだよね……なし、なし!


 てか……俺の考えはナビーに筒抜けだから、今さら遅いか……トホホ。


 でもナビーから何の反応もない。

 その気がないってことかなぁ?

 いや、むしろ何の反応もないことが、めっちゃ不安なんですけど!

 まぁ作ったら作ったで、いいけどさ。


 今までの感じからすると、子供たちの面倒を見てくれるいい集団になりそうだし。

 屋台とかも運営してくれそうだし。


 やばい、『舎弟ズ』に前向きになっている俺がいる。

 でもやっぱり……迷宮都市には必要ない気がするんですど。

 『舎弟ズ』を入れるなら、もっと冒険者を入れてあげたほうがよかったんですけど。

 ナビーさん聞いてるかなぁ?

 まぁ絶対聞いてるわけなんだけどね。

 ……完全にスルーしてるなぁ。


 気持ち的には、“既読スルー”された気分なんですけど。

 この場合は……“既伝スルー”って感じかな……。


 まぁ悩んでもしょうがないから、ナビーに任せるしかないな。


 なんだかんだ言って、ナビーが組織する『舎弟ズ』の奴らは、みんないい奴らだからな。


 ただ、ナビーさんの愛の鞭のおかげで、一定確率で変態が仕上がっちゃうんだよね。

 子供の教育上、良くないと思うんだよね。




 まだ朝早い時間だが、早速結果を見に来た人がいる。


 しかも知ってる人だ。


 昨日訪れた魔法道具店の店主のマドグさんと、孫娘のアイムちゃんだ。


 お店の開店前に、来てくれたようだ。


 俺は二人と挨拶を交わし、中に通した。


 面接に来てくれたことに礼を言って、賛助会員制度について説明した。


 そして、説明を聞いたマドグさんとアイムちゃんは、それぞれ個人として賛助会員になってくれるとことになった。


 一口ずつの会員だが、非常にありがたい。


 個人のお店なので、お店ごとクランメンバーにしてもよかったのだが、ただ漠然とメンバーでいるよりも、毎月少しでも支援として会費が払える方がいいと、マドグさんが言ってくれたのだ。


 普通なら商品を売りたいところだろうが、逆に会費を払ってくれるというのだからありがたい。


 マドグさんはニアに心酔しているし、お店の経営も順調のようだから、お金にも困っていないのだろう。

 まぁ昨日爆買いしたしね。


 優良店であることがわかったので、今後も利用してあげるつもりではいるしね。


 魔法道具店の名前は、『魔法道具専門店 魔具ネット』という名前だった。

 微妙にくっつきそうな名前でもあるし、もしこの世界にネット通販があったら、有名になりそうな名前でもある。



 次に入って来たのは、おじいさんだ。


 どうやら、ニアに財産の相続人になってほしいと言ってきたおじいさんが、来てくれたようだ。


「ニア様、先日は命を助けていただき、ありがとうございました。私は、農業を営んでおりますバナボと申します。昨日、偶然このクランの話を聞いて、気持ちが抑えられず来てしまいました。失礼な申し出だったかもしれませんが、何卒、受け取っていただけないでしょうか?」


 おじいさんは、ニアに会うなり膝をついて、腕を組んだ。

 完全に祈りのポーズですけど……。

 完全に神様扱いですけど……。


 神に財産を捧げます的な感じなんだけど。

 ニアさん悪徳宗教とか始めないよね……?

 やるわけないか。


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