1097.家宝の地図に、期待。

 思惑通りに俺に地図を売りつけることに成功したチャラ男氏は、満足そうな表情で金貨を数えている。


「そうだ、初心者用の迷宮……『セイチョウ迷宮』の地図もある?」


「もちろん、あるよ! あっちは小さい迷宮だからさぁ一冊だよ。十万ゴル、これはマケないよ」


「十万ゴルかぁ……初心者用の迷宮の地図なのに、その値段で買う人っているの?」


「…………。まいったなぁ、さすがキング殺し! 鋭いねぇ。駆け出し冒険者で、買える奴はほとんどいないよー。ぶっちゃけ、売りにも行ってないし」


 おいおい、ぶっちゃけんなよ……。


「じゃあ安くしなきゃじゃない?」


「まったく……かなわないなぁ。でも不思議とグリムさんと話してると楽しいけどねぇ。キミ、タノシウィネェェェ! もう五万ゴルでいいよ! もってけ泥棒!」


 チャラさ全開なのだが……なんとなく、“ビジネスチャラ男”のような気がしてしょうがない。


「じゃあ買うよ」


「毎度ありぃぃ!」


 俺が渡した金貨を、またも嬉ししそうに数えている。

 五枚しかないけど。

 なんか腹に擦って磨いているし。

 お金が大好きみたいだ。

 まぁ悪いことじゃないよね。

 むしろ大事なことだ。


「オイラの家はさぁ、今でこそ落ちぶれちゃったけど、代々続く地図屋だったんだ。他にも欲しい地図があったら、声かけてよ! 古代地図とかもあるからさ」


 帰り際、チャラ男氏がそんなことを言った。


 めっちゃ引っかかるワードが……。


 古代地図ってなに!?

 凄い気になる!


「古代地図って、どんな地図?」


「おお、食いついたね! その辺がツボかぁ……。はっきり覚えてないけど二千年前とか三千年前とか、とにかく何千年か前の地図だよ。まぁ古い時代のものだから、本物かわからないけどね。あとトレジャーハンターが使ったという古代文明の遺跡の地図とかも、あった気がするけどなぁ……」


 なにそれ!?

 めっちゃ凄いじゃん!


「そういう地図があったら、すぐに持ってきて」


「ほんと? 高いよ〜?」


「内容が面白そうなら、高くても買うよ」


「うっひょう! じゃぁ先祖代々受け継がれるゴミ、じゃなかったお宝をすぐ探さなきゃ!」


 チャラ男氏は、超ハイテンションだ。


「先祖代々受け継がれているものを、売っちゃって大丈夫なの?」


「生活のためだから、しょうがないっしょ! 祖先に、色んな地図を集めるのが趣味な人がいてさー、それを家宝として受け継いできてるんだけど、わけわかんないのばっか。欲しい人に売るならいいっしょ!」


 チャラいノリで答えたチャラ男氏に、もう少し突っ込んだ話を訊いた。


 古代地図とか、遺跡の情報が載ったトレジャーハンターの地図とか、めっちゃそそられて、俄然興味が湧いたのだ。


 チャラ男氏の名前は、イグジーくんといい、十八歳だった。


 代々続く地図屋なのだが、今は落ちぶれてお店も手放してしまったとのことだ。


 体の弱いお母さんと二人暮らしで、生活を支えるために、ほぼ毎日迷宮の『スターティングサークル』で地図を売っているそうだ。


 彼は、『マッパー』という地図が上手に作れるスキルを持っていて、販売用の地図は書き写して作っているのだそうだ。

 自分で調べて新しい地図を作る事はもちろんできるが、既存の地図を綺麗に複写することも、スキルの力で容易なのだそうだ。


 ちなみに、この『マッパー』スキルは、セイバーン公爵領の『コロシアム村』での戦いの後に、『アラクネロード』のケニーに発現している。

 そのおかげで、『共有スキル』にセットされているので、俺や仲間たちも、みんな使うことはできるのだ。


 だから作ろうと思えば、俺も地図を作ることは可能だ。


 ただ地図を作るためには、迷宮の各フロアを隈なく探索しなければならない。

 そして、潜んでいる魔物の種類など俺が必要としている情報を書き込むには、一つのフロアに何回も挑戦しなければならない。

 とてもそんな手間をかけられないので、実際に作るのは難しいのだ。


 だから、ある程度使える地図なら、買っちゃったほうがいいんだよね。


 ただ、今後のクランの新人冒険者の生存率向上を考えれば、より詳しい地図を作りたいという気持ちもある。


 だから、いずれは地図を作る専門のスタッフを配置して、より役立つ地図を作りたいと思っているのだ。


 イグジーくんが、書き写している元の地図は、今は亡きおじいさんが作り、同様に亡くなっているお父さんが修正したものなのだそうだ。

 昨日ちらっと彼が言っていたが、『エリアマスター』を倒した冒険者と協力して作ったというのは本当のようで、おじいさんが、ある程度のところまでは同行して作ったものだそうだ。


 現在、彼は書き写して販売用の地図を作っているだけで、自分で迷宮を調べて、内容を更新するという事は行っていないとのことだ。


 冒険者となって迷宮に入って、自分で地図を作りたいという気持ちもあるらしい。

 たが、体の弱い母親のことを考えると、いつ命を落とすかわからない冒険者になることはできないと考えているそうだ。


 母一人子一人で暮らしているとのことだ。


 イグジーくんは、見かけのチャラさと違って、母親想いのいい奴だった。

 意外と、“ビジネスチャラ男”というのは、当たりかもしれない。


 そんな俺の思いを打ち消すように、彼はまたチャラく話しかけてきた。


「ねぇねぇ、オイラをこのクランお抱えの地図売りにしてよぉ。新人冒険者を育成するんだろう? パーティーの数だけ、地図が必要になるだろう?」


 俺が既に購入した地図を、書き写して使われるという心配はしていないようだ。


 まぁそんなことをするつもりはないけどね。


「売った地図を、知り合いのパーティー同士で使い回されたりとか、そんなことってないの?」


「なんだよ、そんなしみったれたこと考えてるの? 全くなくはないだろうけど、普通パーティーごとに持っておくもんだよ。ねぇねぇ、安くするからさぁ、いいだろう? お抱えにしておくれよ!」


 さらに食い下がってきた。


「安くしてくれるなら、考えるよ」


「なんだよなんだよ、つれないなぁ……キミ、ツレナウィネェェェ」


 やっぱ、チャラいな……。



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