1093.アポロニア公国の、噂。

「『アポロニア公国』で勇者召喚をしたという噂を聞いておるか?」


 キング魔物の多発について話している中で、ギルド長が、そう問い掛けてきた。


「はい。噂は耳にしています。本当なのでしょうか?」


「本当のようじゃ……」


「それでは、『アポロニア公国』には、勇者がいるのですか?」


「情報が規制されとってのう、はっきりとしたことはわからん。

 だが様々な情報を精査すると、どうも勇者召喚に成功したようじゃ。

 少なくとも、違う世界から何者かを呼び出すことには、成功したらしい……」


「そもそも勇者召喚は、どのようにして行ったのでしょう? 特別な魔法道具とかでしょうか?」


 すごい気になる。


 元『守りの勇者』で『魔盾 千手盾』の付喪神となっているフミナさんに聞いたところによれば、『マシマグナ第四帝国』で九人の勇者が召喚できたのは、『マシマグナ第三帝国』の遺跡を発見し、そこで勇者召喚ができる特別な魔法道具を発見したからだということだった。


『アポロニア公国』にも、そんな魔法道具があるのだろうか?


「詳しくはわからんのだが……もしかしたら、公王家の何者かが、勇者召喚を行ったのかもしれん……」


「といいますと?」


「これは伝説というか、おとぎ話というか、噂でしかないのじゃが……『アポロニア公王』の公王家には、極稀に特別な召喚魔法スキルが発現する者が現れると言われておる。

 その力で、勇者召喚ができるとされておるのじゃ。

 まぁこれは、おとぎ話レベルじゃがの。

 公国家はこの噂については、単なる噂として否定も肯定もしていないようじゃ」


「噂が本当で、実際にその力を持つ者が現れて、勇者召喚を成功させた可能性があるということなんですね?」


「まぁ想像の域をでんがな……」


 俺は、この話に衝撃を受けた。


 なぜなら、この話を聞いて、アグネスさんから聞いた『アルテミナ公国』の王家だけに伝わる隠された歴史の伝承を思い出したからだ。


 アグネスさんは、元王女で秘匿された真実を知っていたわけだが、俺たちに教えてくれたんだよね。


 その中核をなすのが、勇者召喚に関する特別な能力の話だった。


 公王家の血筋の者には、“特別な力”が発現する可能性があると伝えられているということだった。


 “特別な力”とは、『勇者召喚』ができる『召喚魔法』の力だという。


 長い歴史の中で、実際にその力を宿した者が、何人かいたらしい。


 『アルテミナ公国』の建国の英雄譚『英雄女王と月光の勇者タマ』に登場する建国の祖であるヒカリイ女王も、その一人だったとのことだった。

 ただこのことは、秘匿されているので、英雄譚の中でも語られていないし、王家の人間以外は知らない隠された事実だという。


 これと同じような力が、『アポロニア公国』の公王家にもあるということなのだろうか?


「『アルテミナ公国』は、七年前のクーデターから年々おかしくなる一方だが、最近では『アポロニア公国』もきな臭い……」


「といいますと?」


「勇者召喚の噂もそうじゃが、今東小国群で戦争が起きそうな気配になっている」


「それも、耳には入っています」


「その中心にいるのが『アポロニア公国』なのじゃ」


「『アポロニア公国』側の国と『アルテミナ公国』側の国とに分かれ、争いに発展するかもしれない緊張状態だと聞いています」


「そうなのじゃ。こういう時勢……まさに激動の時代が、キング魔物の多発を促しているのかもしれのう。

 まぁいずれにしろ、ワシらには、キング魔物の発生を止めることもできなければ、『連鎖暴走スタンピード』の発生を止めることもできん。

 起きたときに、対処するしかない……」


 ギルド長は、ままならない心そのままに、眉間にしわを寄せた。


「そうですね。警戒を怠らないようにするしかないですね……」


 俺はそう言ったが、心の中では、元から断とう思っている。


 それは悪魔を倒すという意味だ。


 キング魔物の多発や『連鎖暴走スタンピード』に、悪魔が関与していると確定したわけではないが、現時点では最有力だ。


 それにそもそも、俺が『アルテミナ公国』に来た目的は、悪魔の根城を見つけて、根絶やしにすることだからね。


 東小国群が二つの勢力に分かれて戦争状態に突入しそうなのは、国同士の思惑が絡み合ってのことみたいだが、もしかしたら、影で悪魔が糸を引いているのかもしれない。


 少なくとも『アルテミナ公国』は、悪魔の影響下にあるのは間違いない。

 戦争自体、悪魔が引き起こそうとしてるのかもしれない。


 いずれにしろ、人族同士で殺し合いをやっている場合ではない。


 本当に『アポロニア公国』に勇者がいるのなら、まずは戦争を止めてほしいものだ。



 ギルド長は、引き続き過去の文献をあたり、調査を進めるとのことだ。

 新しい情報を見つけたら、すぐに教えてくれると言ってくれた。


 俺はギルド長にお礼を言って、『冒険者ギルド』を後にした。



 帰り際、一階のギルド酒場に寄って、支配人に挨拶をした。


 昨日のお礼と、代金をナナヨさんに渡した旨を伝えたのだ。


 ギルドに来るんだったら、代金をナナヨさんに渡さないで、俺が直接持ってくればよかった。

 今更だな。


 そういえば、ギルド酒場に支払う代金も大金だったが、さっきの『魔芯核』の売却代金と、買取センターでの魔物の売却代金で、余裕でカバーしてしまった。


 なんか……迷宮で魔物を狩って、換金するのって楽しいかも!


 『フェアリー商会』が、俺が考えているよりもはるかに大きい商会になって、莫大な利益を稼ぎ出してくれているのだが、いまいち実感がないというか、自分で稼いでいる実感がないんだよね。

 まぁ実際、稼いではいないんだけどさ。

 あくまで株主的な感じなんだよね。


 でも迷宮都市での活動で、お金を使って、自分で迷宮で狩った魔物を売却してっていうかたちで、直接手続きをしていると、充実感がある。

 お金を使ったり、稼いだりする実感があるから、楽しく感じちゃうんだよね。


 こんなことを言うと、いつも『フェアリー商会』でがんばってくれている仲間たちに対し、不謹慎かもしれないけどね。


 まぁ、冷静に分析すると、冒険者の醍醐味ってやつを味わっているのかもしれない。


 そしてやっぱり、レア魔物、レア素材は、テンション上がるよね!


 よし! レアな魔物を片っ端から狩ろう!


 そうすれば、俺の二つ名が、『キング殺し』から、『レアハンター』とかに変わってくれるかもしれない……淡い期待。



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