1070.嬉しい、再会。

「どうぞ」


 俺は、扉をノックした主に声をかける。


 笑顔で入ってきた人は……オカリナさんだ。

 後天的覚醒転生者で、元怪盗イルジメのオカリナさんは、十四前から二年間、ハートリエルさんと攻略者パーティーを組んでいたのだ。

 念話を入れて、密かに呼んでいたのだ。


 オカリナさんの持っている転移の魔法道具には、『ツリーハウス屋敷』は登録されていないので、『アメイジングシルキー』のサーヤに連れてきてもらったのだ。


「わぁぁ、ハートリエル! ひっさしぶり! 全然変わってない!」


 オカリナさんは、興奮が抑えられない感じでハートリエルさんに駆け寄った。


「オカリナ! オカリナなの!? あなたすっかり老けちゃってぇぇ」


 ハートリエルさんが驚いている。

 でもすぐに喜びが溢れて……なんか女の子のキャッキャした感じのオーラを出している。

 これもギャップ萌えだ。


「ちょっと! 開口一番それはないんじゃない。私は人族なのよ。これは普通なの! てか、むしろめっちゃ若いわ! アンチエイジングできてるわ!」


 オカリナさんが、ハイテンションでほっぺたを膨らませた。


「そうか、ごめんごめん」


 あのハートリエルさんが、満面の笑みだ。


「まったく、いいわよね、妖精族って」


 オカリナさんはそう言うと、『コボルト』のブルールさんとハートリエルさんを交互に見た。


 そして三人は、なぜか吹き出して、楽しそうに抱き合った。


 仲良しの再会っていいね。


 どうも亜妖精である『ハーフエルフ』も、妖精族と一緒で、十五歳までは普通に成長し、それ以降は十年で一年分外見が歳を取るようだ。


 ニアと同じように、ブルールさんもハートリエルさんも、『年齢』のところが表示されないんだよね。


 前も少し考察したが、『アメイジングシルキー』のサーヤのように、本人が年齢を公開しようと思っている場合は表示され、公開しないでおこうと思っている場合は表示されないらしい。


 だが人族の場合は、必ず表示されているから、妖精族だけができることなのかもしれない。


 ブルールさんもハートリエルさんも十代後半くらいに見えるのだが……実は四十代とかなのかもしれない。

 ニアさんにも、その疑いが濃厚なんだよね。


 妖精族のこの三人……人族だったら、熟女なのかもしれない。

 まぁそんなことは、どうでもいいが。


 ブルールさんにも、ハートリエルさんにも、失礼かと思い年齢は尋ねていないんだよね。

 ニアは訊いても、教えてくれないしね。



 それにしても、昔の仲間が三人集まって、本当に嬉しそうだ。

 後は、『鬼人族』のシュキさんと再会できれば、フルメンバーが揃うわけだ。


 積もる話もあるだろうから、俺は三人にしてあげることにした。


 きっとこの三人、朝まで盛り上がるだろうね。





 ◇





 翌朝、俺は眠い目をこすり、『クラン本館』に作った工作室に来た。


 夜更かしして作ったものを、改めて確認するためだ。


 昨夜、ハートリエルさんやオカリナさんたちと解散した後、寝ないで工作を始めちゃったんだよね。


 ハートリエルさんが仲間になってくれたおかげで、『植物魔法——植物由来の人形ボタニカルゴーレム』が使えるようになり、試してみたくなったのだ。

 そのために、植物素材で人形を作ることにしたのだ。


 ただその前に、『ツリーハウスクラン』の育成冒険者たちに装備させてあげる専用装備を作ってしまおうと思い、それから始めてしまったのである。


 そんなことをしてしまったので、実は寝たのは明け方なのだ。

 『限界突破ステータス』を発揮し、かなり早く作業したのだが、やることが多すぎたのだ。


 ちなみにオカリナさん、ブルールさん、ハートリエルさんの元攻略者パーティートリオは、案の定、朝まで飲んだくれていた。


 ほとんど酔いつぶれていたので、ベッドに運んで寝かせてあげた。


 ゲストルームに広いベッドが用意してある部屋があるので、そこに三人を運んであげて一緒に寝かせてあげた。


 それは良いのだが……お姫様抱っこからベッドに下ろそうとすると、強くしがみついてきて、下ろすのが大変だったのだ。

 しかもそれが三人ともだった。

 ……まさか起きてなかったよね?



 俺は、改めて昨日作った装備を確認する。


 我ながら、かなりの良い出来だ。


 育成冒険者のために作った、駆け出し冒険者用の装備なのだが、結論から言うと……やっちまった感はある。


 おそらく中堅冒険者になるまで、余裕で使えるだろう。

 なるべくシンプルに作ったつもりなのだが、駆け出し冒険者にはそぐわない逸品になってしまったのだ。


 専用装備の『名称』は、『ツリーハウスアーマー 第一シリーズ』だ。


 はっきり言って、何のひねりもない。

 全然思いつかなかったんだよね……トホホ。


 若者の心が熱くなるような……かっこいい名前にしたかったんだけど。

 名づけセンスのない俺の拙い発想では……『熱血アーマー』とか『気合アーマー』とか『ドリーマーアーマー』とか、わけのわからない名前しか出なかったんだよね。


 新シリーズも出そうかと思って、適当に『第一シリーズ』とかつけてしまったけど……よく考えたら、それをやると、この凡庸な『ツリーハウスアーマー』という名前で、ずっと作り続けることになる……微妙すぎる。


 次の専用装備を作るときには、今度こそ、かっこいい名前をつけたいから、多分この『ツリーハウスアーマー』は第一シリーズで打ち止めだと思う……残念。


 標準装備となる軽鎧は、男性用と女性用の二種類を作った。


 男性用の軽鎧の『名称』は、『ツリーハウスライトアーマー タイプブルー』で、ワニ魔物の外皮を青く着色した、少しだけメタリックな輝きを放つ軽鎧だ。

 『名称』が凡庸に長すぎて、我ながら切ない。

 だが、気にしても落ち込むだけなので、自分の気持ちをスルーしよう……トホホ。


 軽鎧の構成は、『ベスト』『アームガード』『ズボン』『ショートブーツ』となっている。


 女性用の軽鎧の『名称』は、『ツリーハウスライトアーマー タイプレッド』で、ワニ魔物の外皮を赤く着色した、少しだけメタリックな輝きを放つ軽鎧だ。


 軽鎧の構成は『ベスト』『アームガード』『スカート』『ロングブーツ』となっている。

 『スカート』は、膝丈のスカートだ。


 男性用も女性用も、クランメンバーの共通アイテムである『ツリーハウスローブ』を纏うことができる。


 ある意味、このローブを纏うのが前提の装備とも言える。


 それ故に、軽鎧の装備にヘルムのパーツを作っていないのだ。

 もし必要な場合は、ローブのフードをかぶることになる。

 ローブ自体がそれなりの防御力があるから、充分だろう。


 この軽鎧を構成する全てのパーツは、メイン素材がワニ魔物の外皮である。

 ワニ魔物の外皮は、かなり強固なので、それなりの防御力は発揮してくれると思う。


 本当は、女性用もズボンにした方がフルで足をガードできるのだが、可愛い装備にしてあげたかったので、スカートパーツにしたのだ。


 冒険者は、見た目の派手さとか、綺麗さ、可愛さ、を優先した装備を着ることが多いらしいしね。


 基本素材がワニ皮なのと、少しメタリックな着色にしたので結構目立つんだよね。

 メタリック具合は、だいぶ抑えたつもりなのだが、光に当たるとキラリと輝いたりしちゃって、いい感じなのだ。



 この軽鎧は、当然魔法の武具ではない。

 通常の武具だ。

 ただ、出来上がった『階級』を確認したら……『上級ハイ』になっていたのだ。


 ……見たときには、やっちまった感が半端なかった。


 ついついやり出すと、作り混んじゃうだよね。


 駆け出しの冒険者で、『上級ハイ』の防具を身に付けている人なんて、いないと思う。

 でもまぁ……そうなっちゃったものは、しょうがない。

 ちょっとだけ過保護になったって、いいじゃないか!


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