999.囚われのスライム、救出。
昼になって、俺は再び中区にある太守の屋敷にやって来た。
依頼された魔物の死骸の回収を全て終え、中区で魔物に潰された住宅の瓦礫の撤去も手伝ってあげた。
思い出の品などがあった場合に、回収してしまうとまずいので、大きな瓦礫だけを回収した。
俺が再び太守の屋敷にやって来た目的は、魔物の死骸の回収が終わった報告と、一つの提案をするためだ。
それは中区で被害にあった人たちのために、炊き出しをするという提案である。
ちょうどお昼時だし、倒した魔物の肉を焼けばいいと思うんだよね。
勝手にやって、後で問題になると困るので、一応許可を得ようと思っている。
屋敷の中に入ろうと思ったところで……『エンペラースライム』のリンちゃんから念話が入った。
(あるじ、大変! 友だちがいっぱい捕まってるところがある! 助けたい、あるじ、お願い)
……どういうことだ?
(リンちゃん、友だちって『スライム』のこと?)
(そう、友だち、いっぱい、いっぱい、捕まってる。悪い奴に捕まってるって言ってる……)
よくわからないが……とりあえず行ってみよう。
リンちゃんに確認すると、この太守の屋敷に近い場所だった。
大きな屋敷で、そこにある厩舎の地下に閉じ込められているらしい。
そういえば……この迷宮都市では、『スライム』を全く見かけないのだが……何か関係があるのだろうか……?
俺は急行した。
……かなり大きく、豪奢なお屋敷だ。
どう考えても、貴族……しかも上級貴族とかの屋敷だと思う……。
なんとなく……トラブルの予感しかしないが……。
俺は、一旦人目のないところまで移動して、『闇の掃除人』の装備に切り替えた。
といっても『隠れ蓑のローブ』を纏っただけだ。
そして魔力を通し……姿と気配を消す——
俺は、リンちゃんが密かに潜入している場所を探し、見つけた。
確かに大きな厩舎があって、馬が六頭ほど繋がれている。
厩舎の端に、地下へと続く階段がある。
リンちゃんの話では、この地下室に『スライム』たちが閉じ込められているらしい。
魔物の襲撃騒動で、近くに人がないのがラッキーだ。
屋敷の本館と思われる建物が少し壊れていたので、そちらに人が集中しているのだろう。
地下室に潜入すると……細かい網目の格子がついた檻に、確かに大勢の『スライム』たちが閉じ込められていた。
リンちゃんが『スライム』たちに聞き出した話では、悪いテイマーにテイムされて、逃げ出すことができない状態らしい。
みんな助けてほしいと言っているのだそうだ。
『スライム』たちが嘘をつく事は無いので、本当なのだろう。
実際、ぎゅうぎゅう詰めの酷い状態で閉じ込められている。
百体以上いるみたいだ。
リンちゃんが聞いた追加情報によると、テイマーが五人もいて、すべての『スライム』がテイムされた状態にあるとのことだ。
確かに五人テイマーがいるとすれば、一人当たり二十体程度なので、ある程度のスキルレベルがあれば可能な数だと思う。
とても真っ当な理由があるとは思えないので、この『スライム』たちを助けることにした。
貴族の屋敷から連れ出すことになるので、後で問題になる可能性もあるが……そう考えると、尚更今が好機かもしれない。
魔物の襲撃によるどさくさに紛れることができるからだ。
テイムされて逃げ出すことができないはずの『スライム』がいなくなれば、当然大問題になるだろうが、混乱の中で起きた謎の事件という感じになってくれるかもしれない。
テイムされている『スライム』を強制的に連れ去る事は、普通はできないことなので、誰かが疑われることもないだろう。
テイムの上書きをするなんて事は、『限界突破ステータス』の俺ぐらいにしかできないはずだ。
そう、俺はテイムの上書きで、救出しようと思っているのだ。
……『テイム』スキルの『集団テイム』コマンドを使って、『スライム』たちを一気にテイムしてしまった。
テイムの上書きによって、『スライム』たちは解放されたのだ。
そして俺は、俺が行ったテイムも解除し、『スライム』たちを自由にしてあげた。
ただみんな俺について来たいと、自主的に仲間になってくれた。
確認すると、『絆』メンバーに登録されていた。
『スライム』たちは、テイムによる縛りさえなければ、小さな網目状の格子でも、体を細くして通り抜けることができる。
俺は、『スライム』たちに外に出て来てもらって、魔法道具『箱庭ファーム』を取り出し、一旦、中に入ってもらった。
これで誰にも気づかれずに、『スライム』たちを外に連れ出すことができる。
檻を壊すことなく脱出できたので、密室脱出トリックみたいな感じになった。
これなら……原因不明で突然『スライム』たちが消えたという感じになってくれるのではないだろうか。
淡い期待だが……。
『スライム』たちは、百七体もいた。
(あるじ、馬たちもかわいそう。連れて行ってあげたい)
リンちゃんがそう訴えてきた。
確かに『スライム』たちにこんなことをするような奴らは、馬の扱いも酷いに違いない。
馬を連れ去るのは、完全に泥棒している気分になるが……。
うーん……馬たちが助けて欲しそうな目で俺を見ている。
助けてあげるしかないよね……。
そしてどうやら、馬たちまでテイムされているようだ。
俺は馬たちにもテイムの上書きをして、『箱庭ファーム』に入れてあげた。
そしてリンちゃんとともに、素早く屋敷を後にした。
今回助け出した『スライム』たちは、襲撃事件の時に活躍した『スライム』たちということにして、このままここで俺たちと一緒に過ごすことにしよう。
この迷宮都市でも、『スライム軍団』を組織したかったが、全く見当たらなかったから、ちょうどいい。
リンちゃんと一緒に来ている『スライム』たちは、特別部隊だから、ここに定住するわけにはいかないからね。
それに今助け出した『スライム』たちを、迷宮都市で活動させても、気付かれる事はないだろう。
『スライム』を見分けるのは難しいし、あんな扱いをしていた貴族やテイマーたちが、自分たちのところにいた『スライム』だと気づいたり、証明することはできないと思うんだよね。
ただ馬たちは、さすがに気づく可能性がある。
馬たちは、他の場所に移そうと思う。
ピグシード辺境伯領の次の復興地の『セイネの街』の『フェアリー商会』で、活躍してもらうことにしよう。
それにしても……この貴族は、どうして『スライム』たちをこんなに大量に閉じ込めていたのだろう……?
まぁ考えてもわからないし、考えたくもない。
そしてなんとなく……地雷を踏んでしまったような気がしないでもないが……。
まぁあの『スライム』たちを見て、助けないという選択肢はなかったから、しょうがないけどね。
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