994.北区の、異変。
「ムーニーさん、後はお任せします。私の仲間が中区にいて、心配なのでそちらに向かいます!」
俺は、一方的に宣言して、戦場を走り去った。
そして、走りながらスズメの『
(ニア、そっちはどういう状況?)
念話を繋いでニアに状況を確認する。
(うん、思ったよりも鶏魔物の数が多くて、まだすべては倒しきっていないわ。リンちゃん達『スライム軍団』が来てくれて大助かりよ。重傷者が多いから、私は治療に当たってる。太守の屋敷を拠点にしているわ。リリイとチャッピーとアイスティルちゃんも一緒、みんな無事だから安心して。ブルールちゃんは、自由に戦ってもらってるけど)
(わかった、俺もすぐに向かうよ)
(そっちは大丈夫なの?)
(ああ、こっちはもう大丈夫だと思う)
(こっちも、もう駆逐が完了しそうだから、来なくてもいいかもよ。ブルールちゃんに確認して、問題なければだけど)
(確かにそうかもしれないね。ブルールさんに確認してみるよ)
俺はブルールさんに念話を繋いだ。
(あ、グリムさん、ちょうど今連絡しようかと思っていたんです)
(どうかしましたか?)
(鶏魔物を倒しながら、北区にほど近い場所まで来たんですが、北区も何か騒然としていんです。私の犬たちも、人々が殺気立っているのを感じるようです。特に北門の方が騒がしいようです)
(北区にも魔物が出たということですか?)
(いえ、見える範囲には、魔物はいません。もしかしたら……魔物が近づいて来ていて、その対応で騒然としているのかもしれません。問題なければ、一旦中区を離れて確認に行きますが?)
(わかりました。そうしてください。何かあったらすぐに連絡を! 私も今から向かいます)
(了解しました)
なんてことだ……三区全てに魔物が攻めて来てるのか……?
そんなこと……自然に起きていると考えにくい……。
悪魔たちが何か仕掛けてきているのだろうか……?
今考えてる暇はないが……。
(ニア、今ブルールさんに確認したら、北区の方で何か動きがあるみたいなんだ。まだはっきりとはわからないんだけど、魔物が攻めてきているのかもしれない。ブルールさんに向かってもらったけど、俺も中区は通り抜けて北区に向かうよ)
(オッケー、わかった。こっちはまだ治療があって、動けそうにないからヨロシク!)
(わかった。ブルールさんは、俺の方でフォローするよ)
俺は、スズメの『
俺も同時に、走るスピードを上げる。
ブルールさんのところに、転移できればすぐなのだが、ブルールさんに貸し出した転移の魔法道具は、転移先として登録していないのだ。
『飛行』スキルを使って、空を飛んでいるのを目撃されるのも嫌なので、走って向かうことにした。
普通の人が走るスピードよりはだいぶ速く走っているが、本来出せるスピードからは、大きく抑えて走っている。
『
衝突事故を起こしたら大変だからね。
……『
スズメの『
ブルールさんは、北区の大通りをまっすぐ北門に向かって駆けている。
一緒に走っているのは、『
ん……背中にアライグマが乗っている。
あの子たちは……確かラスとカル。
もう実戦投入されているのか……?
活躍ぶりを見たかったが……まぁそんなことは、どうでもいい。
北門に近づいて来た。
……やはり何かあるようだ。
北門前広場に、衛兵と冒険者が集まっている。
おお!
外壁の上部が戦場になった!
衛兵や冒険者たちが、戦っている。
あれは……ワニの魔物なのか!?
おそらく……外壁をよじ登って来ているのだろう。
衛兵や冒険者が外壁の上から攻撃をしていたようだが、それを凌いで登りきってしまったようだ。
ということは……かなりの数が押し寄せて来ているということか……。
俺が南門で倒した猪魔物やバッファロー魔物と同様に、『
——ゴオォォンッ
ん!
門の一部が破壊された。
ワニの魔物が、街の中に入って来た!
『
……ワニ魔物は、皆レベル30以上ある。
体長も五メートル以上ある……十メートル近い個体もいる。
外皮が固そうだし、普通の衛兵ではきつい相手だろう。
冒険者でも中堅以上でないと、対処が難しいと思う。
おそらく……外壁に押し寄せていたワニ魔物たちに、衛兵と冒険者が矢を打ち込んでいたのだろう。
矢が体に刺さったまま暴れているワニ魔物が、何体もいる。
普通の矢では致命傷を与えられないくらい、外皮が固いようだ。
北門前の広場にいるのは、衛兵と冒険者だけで一般人はいない。
既に避難させていたようだ。
誰が指揮しているのかわからないが、素晴らしい手際だ。
入ってきているワニ魔物を、待機していた衛兵と冒険者が、攻撃している。
タイミングよくそこに駆けつけたブルールさんと犬たちが、ワニ魔物を倒し出した。
改めてみると……ブルールさん達の強さは、群を抜いている。
もともと衛兵はそれほどレベルが高くないだろうし、ここに集まっている冒険者も、近くにあるのが初心者用の迷宮と言われているから、それほどレベルが高くないのだろう。
苦戦している衛兵や冒険者たちを尻目に、サクサク倒していっている。
ほとんどブルールさん達が倒していると言っても、いいくらいだ。
今の状態なら、大きな被害を出さないで済むかもしれない。
そして……もう一人、ダントツの強さでワニ魔物を仕留めている人がいる。
弓使いだ。
外壁の上に立ち、広場を見下ろし……凄い精度でワニ魔物を射抜いている。
矢の威力も強烈だ。
貫通力が高いようで、ワニ魔物の体にとどまらず貫通している。
なんだ!?
……矢が一斉に、弓使いのもとに戻っている。
特別な弓矢のようだ。
おそらく……『
綺麗な青い大弓に、青い矢だ。
威力の高い特別な矢で、しかもそれを再利用できるように、回収できる仕組みになっているようだ。
弓使いは、薄紫の癖っ毛が胸のあたりまで伸びた目鼻立ちのすっきりとした美人だ。
耳が尖っていて、横に伸びている。
もしかして……。
この弓使いは始めて見るが、なんとなく心当たりがある……。
緊急時でもあるし、失礼して『鑑定』をさせてもらおう。
……やはり。
俺が予想した通り……彼女の『種族』は『ハーフエルフ』だった。
そして名称が、ハートリエルとなっている。
元怪盗イルジメで後天的覚醒転生者のオカリナさんや『コボルト』のブルールさんの攻略者仲間で、『冒険者ギルド』の副ギルド長をしているというハートリエルさんのようだ。
レベルは、55もある。
そのハートリエルさんの視線が、ブルールさんを捉えたようだ。
ほぼ同時に、ブルールさんも上を見上げている。
……お互いを認識した。
「ブルール、この広場に入り込んでるワニ魔物は任せて大丈夫そうね? 外壁の外にまだ大量にいるから、私はそっちを対処する!」
「もちろんよ、任せて!」
「アウォーンッ」
「ウウォーンッ」
「ミャーッ」
「クルーッ」
十数年ぶりに会ったはずだが……いつも会っているかのようなやり取りだ。
すぐに通じ合うところは、さすが元チームという感じだ。
パトとラッシュも一緒に戦っていたようだから、任せろという感じなのだろう。
初めて会うはずのラスとカルも、返事をしていた。
場違いなくらい可愛い返事だった。
俺は、スズメの『
外壁の外に押し寄せているワニ魔物の数も確認しておきたいからね。
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