947.特訓、志願。

「『大勇者』であられるグリム様の『絆』メンバーに加えていただき光栄です」


 気持ちの整理がついたのか、元冒険者で『領都ピグシード』の『狩猟ギルド』長のローレルさんが、椅子から立ち上がり、俺のところに来て跪いた。

 彼女は、リリイの母方の大伯母でもある。


 ローレルさんに引き続き、他の皆が同様に俺のところに近づいて跪いた。


 ローレルさんは、さっきまで“グリムさん”と呼んでくれていたのだが、急に“グリム様”になってしまった……。


「ローレルさん、今まで通り“さん付け”にしてください。“様付け”は照れくさいです。『大勇者』という職業を得たからといって、偉いというわけではありませんから……」


 俺は、跪くローレルさんを立たせながら、そう言った。


「……はい。分りました……グリムさん」


「私にどこまでできるかわかりませんが、やれる事はやりたいと思っています。人々の悲しむ姿は、見たくないですから。そのためにも、悪魔を倒すつもりでいます。これから皆さんにも、お力をお借りすると思います。よろしくお願いします」


 全員を元の席に座らせて、俺は改めて頭を下げた。


「はい、微力ながら、全力でお手伝いいたします」


 代表してローレルさんが、そう言ってくれた。


「グリムさん……できれば……私たちもリリイやチャッピー、そして皆さんの力になれるように、もっと強くなりたいのです! 『共有スキル』は使わせていただくにしても、もっとレベルを上げ、地力をつける必要があると思います。ご教授いただけないでしょうか?」


 元冒険者でもあるサリイさんが、切実な表情で訴えてきた。


 冒険者をしていただけあって、レベルを上げて強くなるということがいかに大変かということを知っているようだ。


 冒険者といえどもレベルを上げる事は、通常は、なかなか大変なことなのである。


 レベルを上げることを優先して、自分よりレベルの高い魔物を狙う冒険者は、それだけ命を落とす危険が高くなる。

 かといって安全な格下の敵だけを倒していては、なかなかレベルは上がらない。

 それゆえに、効率よくレベルが上げられる迷宮といっても、実際はなかなか難しいのだ。


 そしてレベルが上がるほど、次のレベルに到達するために必要な経験値が増えるので、レベルが上げづらくなるのだ。


 俺の仲間たちが、あっという間に高レベルになっているのは、極めて例外的なことなのである。


 『ミノタウロスの小迷宮』での特訓合宿などでは、レベルが高くなっても効率よく次のレベルに行けるように、迷宮自身であるミノショウさんがプロデュースして、ちょうどいい魔物を連れてきてくれているのだ。

 ここで特訓してもらうのが、やっぱり一番効率が良いだろう。


「私の仲間たちが特訓している秘密の迷宮があります。アグネスさんとタマルさん以外は冒険者だったので、迷宮の事はよくご存知だと思いますが、通常の迷宮とは少し違います。私たちに融通をしてくれる特別な迷宮なので、非常に効率よくレベル上げをすることができます。時間を作って特訓……そうですね特訓合宿というかたちで、レベル上げをやりましょう。もっともパワーレベリングはもったいないので、レベルを一つずつ着実に上げてもらいますけどね。サーヤとケニーが手配と引率をしてくれると思います」


 そう言って、俺はサーヤに視線を流した。


「はい、かしこまりました。みんな『フェアリー商会』のメンバーですので、仕事の調整をしてできるだけ訓練の時間を作ります。せっかく『絆』メンバーになってもらったので、戦力としても貢献してもらえるように、バックアップ致します。元々そういう適性の方ばかりですので、楽しみです」


 サーヤがそう言って、今後の段取りについてみんなに説明してくれた。



 このリリイとチャッピーの親族チームというか……『アルテミナ公国』出身チームとも言える皆さんが、『絆』メンバーになってくれたことによって、いくつか新たに『通常スキル』を取得することができた。


 アグネスさんとタマルさんは、多彩な吟遊詩人だし、他の人たちは一流の冒険者なので、皆かなりの数の『通常スキル』を持っていた。


 大部分は俺が持っているスキルと被っているのだが、それでもいくつか俺が持っていないスキルを持っていたのだ。

 そのスキルを『波動複写』でコピーして、俺のスキルにすることができた。

 これで、みんなが使える『共有スキル』としてもセットできる。


 元冒険者パーティー『麗華れいか』のサリイさん、ジェーンさん、アイスティルさんの三人は、俺が持っていないスキルをかなり持っていた。


 『変幻のサリイ』という二つ名を持ち『斥候』のポジションだったサリイさんは、『解錠』という鍵を開けることができるスキルを持っていた。

 『風魔法——旋風ワールウインド』という中級の風魔法も、俺が持っていないものだ。

 つむじ風を起こせるらしい。

 『風耐性』『風魔法適性』や『風魔法——突風』という初級の風魔法も持っていたが、それらはすでに俺が持っているものだ。

 それから火魔法も持っていて、俺が所持していないものでは、『火魔法——火の大波ファイアウェーブ』という中級の火魔法があった。

 火の大波を、敵の集団に向かって放つことができるようだ。


 『ロングアタッカー』ポジションだったジェーンさんは、『双射のジェーン』という二つ名を持ち、弓の名人だ。

 それを裏付けるスキルとして『双矢術』という珍しいスキルを持っている。

 二本の矢を同時に射って、命中させるスキルなのだ。


 今日初めて会ったアイスティル さんは、『魔法使い』ポジションをしていたとのことだ。

 二つ名を尋ねたところ、 『氷撃のアイスティル』と言われていたとのことだった。

 珍しい氷魔法の使い手らしい。


 俺は、『氷耐性』は持っているが、氷魔法系のスキルは持っていなかったので、彼女のおかげで大幅なスキル補強ができた。


 『氷魔法適性』『氷魔法——氷弾アイスショット』『氷魔法——氷壁アイスウォール』『氷魔法——氷柱針アイスニードル』『氷魔法——投擲氷槍アイススピア』を、取得することができた。


 『氷魔法——氷弾アイスショット』は初級の氷魔法で、氷の弾丸を飛ばすスキルだ。

 『氷魔法——氷壁アイスウォール』は中級の氷魔法で、地面から氷の壁が出現し攻撃を防ぐことができるらしい。

 『氷魔法——氷柱針アイスニードル』は中級の氷魔法で、地面から巨大なつららが突き出て、敵を突き刺すスキルのようだ。

 『氷魔法——投擲氷槍アイススピア』は中級の氷魔法で、氷の槍を出現させて発射することができるスキルだ。


 今までは、氷が欲しいときは魔法の巻物を使っていたが、これからは、これらの魔法を使って、冷たい飲み物が飲めるかもしれない。

 戦闘意外にも、面白く使えそうだ。


『氷魔法——氷壁アイスウォール』で、氷の壁を作って、それを削って彫刻にしても面白いかもしれない。

 ただこの地方は暑いから、完成する前に溶けてなくなりそうだけどね。



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