941.追加情報の訊き出しと、整理。

 俺たちは、少し落ち着いて、お茶を飲むことにした。

 そして改めて、詳しく訊くことにした。


 といっても……訊きたいことがありすぎて、どこから訊いたらいいのかも、わからないけど……。


 はやる気持ちを抑えつつ、俺はいくつか質問をした。


 それによって得られた情報を含めて……改めてまとめると……


 ○リリイは、クーデターによって殺害された『アルテミナ公国』の前公王の娘で王女だった。

 そして、現在は死んだと思われている。


 ○クーデター事件の時に、一歳だったリリイを助けようとして、母親と祖母が命を落としてしまった。


 ○曾祖母のケリイとリリイは、川に落ちたが、密かにサリイさんと仲間が助けていた。


 ○その後、国を脱出して、人のいない不可侵領域で隠れて暮らしていた。


 ○王妃だったリリイの母親の姉がサリイさんであり、リリイの伯母にあたる。


 ○サリイさんの母親でリリイの亡くなった祖母の姉が、元冒険者パーティー『炎武えんぶ』のリーダーのローレルさんである。

 リリイにとっては、大伯母になる。

 リリイと暮らしていた曾祖母ケリイさんの娘という事でもある。


 ○サリイさんとローレルさんには、公国の監視が付いていたために、リリイと曾祖母のケリイさんに会いに行くことはできなかった。

 リリイとケリイさんの生存が発覚するとまずいからである。


 ○知人に頼んで物資などを届けていたが、その報告によりリリイがいなくなっていて、ケリイさんの墓らしきものがあったことを知ったとのことだ。


 ○その後必死に探して、俺の下にリリイがいるという情報をつかみ、サリイさんはリリイを見守るために『フェアリー商会』に入社した。


 ○サリイさんの動きに対して、公国が特に反応しなかったので安全と考え、ローレルさんも冒険者を引退し、仲間たちとともに『フェアリー商会』に入った。


 ○この動きとは別に、たまたま吟遊詩人としてピグシード城にやって来たアグネスさんが、リリイを見かけ、自分の姪であるということに気づいた。


 ○アグネスさんは、実は、前公王の妹でリリイの叔母にあたる。

 本当の名前は、トワイライト=アルテミナといい、クーデターの時に死亡したと思われている。


 ○その当時からのパートナーであった猫亜人のタマルさんと密かに逃げ出し、名前を変え吟遊詩人として生きてきた。


 ○タマルさんは、『アルテミナ公国』の亜人の村の中心的な村である『バディード村』の出身で、チャッピーの父親の妹だった。チャッピーの叔母ということになる。


 ○タマルさんの父親は、『バディード村』の村長だったということなので、チャッピーは亜人族をまとめる由緒のある村の村長の孫ということになる。


 ○ピグシード城でリリイとチャッピーの生存を知ったアグネスさんとタマルさんは、二人を見守るために『フェアリー商会』で働くことにした。


 ○そんな時、『領都ピグシード』の『フェアリー商会』の支店で、『狩猟ギルド』や『ハンター育成学校』のためにやって来ていたローレルさん達に、アグネスさん達が偶然出会った。


 ○七年経っているとは言え、お互いに面識があったのですぐにわかったようだ。

 この偶然出会った時に、俺も一緒にいた。

 かすかに覚えているが…… 二人ともお互いを見て驚いていた。

 そこで俺が知り合いかと尋ねたら、アグネスさんが七年前に吟遊詩人として訪れたときに世話になった関係だと言っていた。

 これは、咄嗟に思いついた作り話だったとのことだ。

 アグネスさんの機転に、ローレルさんがうまく合わせたらしい。

 その時タマルさんが、『アルテミナ公国』の最近の状況を教えて欲しいと切実な顔で言っていたのを覚えている。

 自分の出身の国のことだから訊きたいのだろうと思っていたが、今にして思えば『バディード村』の状況を、より詳細に訊きたかったのだろう。

 その後、ローレルさんがアグネスさん達を送ってあげると言って、馬車に乗せて俺の下を立ち去ったが、その時にお互いの状況を知らせ合ったのだそうだ。

 この時、お互いに、リリイのために『フェアリー商会』に入ったということを知ったらしい。

 そして、当面は名乗り出ずに様子を見ようと話し合ったということだ。

 リリイとチャッピーが、今のままが幸せなら名乗り出ずに、ずっと見守ろうとも話し合ったのだそうだ。


 ○その後、アグネスさんとタマルさんは密かにサリイさんにも会って、話をしていたらしい。

 当然サリイさんもアグネスさんとは姻戚になっていたわけで、面識があったようだ。


 サリイさんはピグシード辺境伯領『マグネの街』にある『フェアリー商会』本部の仕事が主だし、ローレルさんは『領都ピグシード』の『狩猟ギルド』のギルド長の仕事が主なので、リリイ達と過ごす時間はそれほど多くなかった。


 一方のアグネスさんは、比較的俺に呼ばれることが多かったのでリリイたちの様子を見ることができていた。

 サリイさんたちにも、リリイの状況を知らせてくれていたとのことだ。


 ○このタイミングで俺に真相を告白したのは、俺の次の目的地が『アルテミナ公国』だということを知り、リリイとチャッピーも連れて行くだろうと思い、同行させないようにお願いするために話したということだった。

 リリイとチャッピーが、十分に強くなっているのも知っているし、俺と一緒にいれば命の危険はないと思っているとのことだが、万が一公国に生存を気づかれれば、何があるかわからない。

 そして俺の『アルテミナ公国』に行きの目的が、悪魔を倒す事ということも知って、不測の事態を避けるためにも全てを話した方が良いと判断したとの事だった。


 ○公国は今でも、公王家の血筋に繋がる者を必要に探しているらしい。

 何代か遡った血縁にまで手を伸ばしているのだそうだ。

 見つかると拘束されて、連れていかれるらしい。

 戻って来た者はいないようだ。

 公国が悪魔の影響下にあるとすれば、悪魔が公王家の血筋を狙っている可能性もあるとのことだ。


 ○元々『アルテミナ公国』は亜人が多く住んでいて、亜人の村も多かったが、迫害が酷くなっている状況らしい。

 魔物に襲われることを放任し、生き残った者たちは、大した理由もなく捕らえて連行するのだそうだ。


 ○サリイさんの元冒険者仲間で、ここに来ているアイスティルさんが公国の圧政に対するレジスタンス組織に入っていて、亜人や虐げられている人たちの救出活動を行っているとのことだ。


 ○そのレジスタンス組織が何年もかけて調べた内容を精査すると、やはり悪魔の影響下にあると判断できるらしい。

 そうでも考えないと、現在の意味不明な圧政の説明がつかないとのことだ。


 ○クーデターを起こした前公王の弟は、アグネスさんの二番目の兄でもあるが、優しい穏やかな性格の人だったとのことだ。

 それが突然豹変し、一族を皆殺しにして王位に就くのは信じられないことだったらしい。

 これも、悪魔に取り憑かれるなど何かの影響を受けていたと考えれば、納得がいくとのことだ。

 逆に妹のアグネスさんからしたら、そうとしか考えられないそうだ。



 ……こんな感じで、俺は何とか情報を整理し、一旦飲み込んだ。



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