905.事故物件のような、お屋敷。

 褒賞金の話が一段落して、もう終わりかと思ったが、まだ続きがあった。


 コバルト侯爵領での反乱の鎮圧に対する報奨があるらしい。

 功績を褒め称える『褒賞』ではなく、労に報いるという意味での『報奨』とのことだ。


 戦利品のような感じで、コバルト城のすぐ近くの大きな貴族屋敷を俺に与えてくれるとのことだった。


 戦利品という意味では、『龍馬たつま』のオリョウが仲間にした『竜馬りゅうま』三十体と『軍馬』五十頭と、『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウの陛下への直談判で譲り受けた第二、第三騎馬隊の『馬車馬』百頭がある。

 ちなみに、この『竜馬軍団』と『馬軍団』は、大森林で暮らしてもらうことにした。

 そして今後、集団戦などで戦力の頭数が欲しいときに動員する予定だ。

 大森林の浄魔達と違って、見た目が魔物ではないので、人族の街でも活躍しやすいだろう。

 それ故に、街の防衛戦などでも出動可能なのだ。


 それから、『報奨』という意味にしろ『褒賞』という意味にしろ、領内で一、二を争う二つの大商会の全資産を譲り受けている。

 これで充分なのだが……屋敷まで追加されてしまったわけだ。

 なんとなくだが……この国の人は、屋敷をプレゼントするのが好きなんだろうか……?


 ちなみに、俺が全資産を譲り受けた二つの商会の資産評価額の概算も出たようで、クリスティアさんが教えてくれた。


 二つの商会とも領内の全市町に支店を持っていて、その物件の価値だけでも相当なものだが、それ以外の商品在庫や運営資金まで丸ごと与えるとのことで、かなりの額になったようだ。

 普通は領が没収して……今回の場合は直轄領になるので国が没収して、その後資産をオークションにかけたりする流れのはずだが、それを省き、全て報奨ということにして俺に譲ってくれるわけである。


 通常であれば願ってもない話でお得な話だが、引き受けられる者はほとんどいないだろう。

 これだけの大きな規模の大商会を二つも引き継ぎ、滞りなく事業継続しなければならないからね。


 この商会譲渡には、微妙に義務のようなものも付随しているのである。

 前に頼まれている通りに、この領内の商品の流通が滞ったりして領民生活に支障が出ないように、スムーズに事業継続しなければならない。

 そのためには、すぐに体制を整備しなければならないのである。

 これは、事実上の義務のようなものなのだ。

 その代わりに、全資産を譲渡するというお得な内容にしてくれているのである。


 金額だけ計算すればかなりお得だろうが、二つの商会を整理し継続雇用できる人を雇用し、不足する人員は速やかに補充しなければならない。

 実は、めちゃめちゃ大変なのだ。

『フェアリー商会』を取り仕切っているサーヤがオーケーを出さなかったら、いくら俺でも断っていたと思う。


 最近の『フェアリー商会』の幹部たちの有能ぶりは、筆舌に尽くしがたいものがあるが、それでも大変だと思う。



 クリスティアさんの現時点での資産評価によれば、二つの商会の全資産を合わせると八十億くらいになるらしい。

 ただこれも、あくまで現時点での集計で、隠し資産などがあればもっと増える可能性があるとのことだ。


 二つの商会とも、領主だったコバルト侯爵に取り入ってズブズブの関係だったわけだが、そのお陰もありかなり資産を持っていたようだ。

 それなのに今回の反乱では、コバルト侯爵を裏切り息子のボンクランドについたわけである。

 それが結果的に、自らの破滅を招いたかたちになったわけだ。

 どちらにつくのが得かという商人としての損得勘定のせいで、破滅したという皮肉な結果だ。



 俺に与えられるという貴族屋敷は、領城のすぐ近くで一番大きな屋敷らしい。

 何となく嫌な予感がして、元の持ち主を訊いたら……なんと、あのヤーバイン将軍の屋敷だった……。

 あんなゲスな将軍が住んでいたところに住むのは、ちょっと……いや、かなり嫌なんですけど……。

 ヤーバイン将軍を捕縛したのは俺たちだから、ある意味戦利品ということで与えられるのは、一理あるかもしれないけど……いや、ないな。

 普通は、そんなことにはならないはずだ。


 まぁそんなことよりも、気持ち的に住みたくないよね。

 俺の感覚的には……事故物件に近い……トホホ。


 それに王家直轄領となったコバルト領に、俺が屋敷を持つ意味もあまりないと思うんだよね。

 ピグシード辺境伯領は俺の仕えている領だし、ヘルシング伯爵領は領政顧問となっている。

 セイバーン公爵領は、ユーフェミア公爵と親交がある。

 この三領には屋敷があってもいいが、コバルト領には必要ないと思うんだよね。

 今後、必要以上に関わるつもりもないし……。

 ただ、領政官がクリスティアさんだから、領のトップと親交があるということにはなるわけだけどね。


 なんとなく……コバルト直轄領においても、協力を惜しまないでほしいという意思表示なのかもしれない。


 断るのも野暮だし、陛下直々の話なので、苦笑いしながら承諾した。

 なぜかクリスティアさんが、やけに嬉しそうだった。

 まさか……すごい改装とかしないよね……?

 てか……むしろ改装してもらったほうがいいか!

 ヤーバイン将軍が住んでいたと思うと嫌だからなぁ。

 本来なら立て直したいところだ。

 少なくとも大幅リフォームしたいなぁ……。

 どこかにリフォームの匠がいないだろうか……?

 いや、いた!

 家魔法の使い手『アメイジングシルキー』のサーヤが、リフォームの匠だった!

 まぁ俺もできるわけだけどね。

 家魔法が『共有スキル』にセットされているからね。


 そんなことを思っていたのが伝わったのか、クリスティアさんが改装は任せてほしいと言ってきた。

 俺は今後『アルテミナ公国』に出向くし、忙しいだろうからクリスティアさんがやってくれるという申し出だった。

 一抹の不安はあるが……任せることにした。


 そういえば、ヤーバイン将軍が珍しいスキルを持っていた。

『騎馬戦術』という騎乗して戦うのに役立つスキルだ。

 ヤーバイン将軍は反逆罪として処刑されることが決まっているので、申し訳ないがこの『騎馬戦術』スキルを奪わせてもらった。


 久々に『エンペラースライム』のリンちゃんに、活躍してもらったのだ。

 『種族固有スキル』の『吸収』の『ランダムドレイン』コマンドを使って、こっそりヤーバイン将軍から奪ってきてもらったのだ。


 これで『共有スキル』に、セットすることができる。

 まぁ俺の仲間たちの場合、あえて騎乗して戦う必要もないので、実際に使われることはないスキルかもしれないけどね。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る