890.神獣、キリン。

「チッ、油断しすぎたか……。体が動かなくなるとは……。危ないところだったが、すぐに元通りだ。チッ」


 靄とならずに落下した物体は、『獣の悪魔』の頭だったようだ。

 奴は呟くように言葉を発した後、舌を鳴らした。


 指打ちができない代わりに、舌打ちしたようだ。

 それにより、『獣インプ』と『獣ジャキ』が三体ずつ、奴に吸い寄せられている。


 また吸収して回復する気だろう。

 だがその仕組みがわかっている以上、黙って吸収させるわけにはいかない。


 ——ズキュンッ、ボンッ

 ——ズキュンッ、ボンッ

 ——ズキュンッ、ボンッ

 ——ズキュンッ、ボンッ

 ——ズキュンッ、ボンッ

 ——ズキュンッ、ボンッ


 俺は、引き寄せられている『獣インプ』『獣ジャキ』を魔法銃で撃ち抜いた。


 もともと使おうと思っていたいつもの魔法銃は、威力が強すぎて、ある程度の魔力調整ができるようになった今でも、背後に建物がある場合には使いにくい。

 その建物まで破壊してしまう可能性があるからだ。

 さっきは『獣の悪魔』が上空にいたので、空に向けて発射する分には問題ないので、いつもの魔法銃を用意していた。

 だが、今は違うものに交換して発射した。


 俺が使ったのは、約三千年前の『勇者団』の基地だった『勇者力研究所』で手に入れた『魔銃剣 レイピアガン』だ。

 当時、『マシマグナ第四帝国』が作ったもので『極上級プライム』階級の『魔法武器マジックウェポン』である。


 レイピアの形をしているが、剣先から魔法の弾丸を発射できるのだ。

 魔力の刃を発生させて、斬り付けたり突いたりすることもできる。


 これは生前のエメラルディア皇女が愛用していた武器ということだった。

『高速飛行艇 アルシャドウ号』の付喪神となったエメラルディアさんと、希望する仲間たちに配ったのだが、一本は俺用として持っていたのだ。


 以前練習で使ってみて、俺が持っている魔法銃よりも威力が小さいことがわかっていたので、このレイピアガンを使ったのだ。

魔法武器マジックウェポン』の設定として、ダイヤル式で威力の調整ができるので最小威力にしつつ、俺が流す魔力も最低限になるように意識して使った。


 それでもレイピアガンに撃ち抜かれた『獣インプ』と『獣ジャキ』たちは、爆散するように粉々になっていた。


 これで残るは、『獣の悪魔』の頭だ。

 潰してしまえば終わりだ。


 フォウとオカリナさんも、頭の存在に気づいたようで、急降下で降りて来た。


「これでトドメ!」

「もうおしまいよ!」


 二人はそう叫びながら、『獣の悪魔』の頭部を粉砕し、霧散させた。

 フォウは前足で踏み潰し、ほぼ同時にオカリナさんはキリン棍で貫いていた。


 『獣の悪魔』は、言葉を発することもできずに、瞬殺された。


 これで残るは、地上の『獣インプ』と『獣ジャキ』だが、もうほとんど残っていない。

 召喚が止まって、一気に形勢が傾いていたのだ。

 セイリュウ騎士たち、ユーフェミア公爵、国王陛下、チーバ男爵とその次女のサナさん、『特命チーム』のゼニータさんとルセーヌさん、『コボルト』のブルールさんとその仲間の魔犬パトとラッシュが片付けてくれたようだ。


 最後の数体は、今、ニアが倒してくれた。


 俺の分身『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーからも報告が入り、城外では多少の混乱はあったが、大きな問題はなかったようだ。

『獣インプ』や『獣ジャキ』たちは、城外には現れていなかったらしい。



 大体の状況確認が済んだ。

 悪魔や小悪魔の気配もないから、もう大丈夫だろう。


 そんな俺たちのところに、キリンの化身状態のフォウと戦巫女状態のオカリナさんがやって来た。


 国王陛下が、フォウの前に進み出て跪いた。


「神獣様、お力をお貸しいただき、ありがとうございます。私は、この『コウリュウド王国』の国王オウキング=コウリュウドと申します」


「あぁ、まだアタイだから。ちょっと待ってね、キリン様に今変わるから…………私は神獣キリン。コウリュウに頼まれ、今回の激動期は、私も力を貸すことにしました。コウリュウと私は表裏のような関係です。私もこの世界のために力を貸しましょう。ただ……私の存在とその化身獣、巫女の存在は、しばらくは内密にしておいた方が良いでしょう。切り札的な意味もありますし、私一体では五神獣が揃った時のような力は出せませんからね。まぁ合わせる力……合力がなくても、充分あなたたちの力にはなれますけどね。それに他の仲間たちが、私のように今回の激動期に力を貸す気になるかどうかは、分かりませんから……ふふふ。それからオカリナ、あなたの体には、特別な血が流れているようです。魂も異なる世界を渡っています。そしてその心根……慈愛に満ちたその心根は、命を愛する私の巫女にふさわしい。私の力を役立て、人々そして命あるものを守ってください…………おっと、アタイに戻ってきた。とにかくキリン様が力を貸してくれるって言ってるから、アタイ達に任して!」


 キリン様に直接声をかけられた国王陛下とオカリナさんが、改めて深く頭を下げていた。


 キリン様の話からすると、コウリュウ様の友達なんだろうか……裏表のような関係とも言っていたから、結びつきが深い神様なのだろう。


 まぁ俺の知ってる知識では、四神の中央には黄竜もしくは麒麟が位置すると言うことになっていたから、そういう深い結びつきがあるのかもしれない。


 そして、他の仲間たちが力を貸すかどうかわからないという発言をしていたが……もしかしたら他の仲間たちというのは、『四霊』と呼ばれている他の瑞獣のことだろうか。

 確か……鳳凰、霊亀、応竜だったと思うが……。


 そんな短い挨拶が終わったところで、フォウはキリンの化身状態が解除され、元の金色の馬の状態に戻った。

 オカリナさんも、戦巫女状態が解除され元の状態に戻った。


 少しだけ『波動鑑定』させてもらったところ、二人は格上のレベル65の『獣の悪魔』を倒したことによって、少しだけレベルが上がったようだ。


 フォウは、レベルが2つ上がって58になっている。

 オカリナさんは、レベルが3つ上がって55になっている。


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