846.クレープ、食べたい!
国王陛下やユーフェミア公爵たちは、改めて元『怪盗イルジメ』のオカリナさんや、ルセーヌさんの義妹弟たちの状況を尋ねていた。
オカリナさんを始めする四人は、ファンから質問攻めにされているような状況になってしまい、少々気の毒でもあった。
オカリナさんは、二十九歳ということだったが、独身らしい。
一番弟子とも言えるルセーヌさんは、二十二歳だった。
義妹弟の三人も、子供の頃にルセーヌさん同様、オカリナさんに保護され育てられたのだそうだ。
『怪盗ジイゲイン』のダイスくんは十九歳、『怪盗ゴウエモン』のイシカさんは十八歳、『怪盗フウジィコ』のミーネルさんは十七歳とのことだ。
自分の意思で怪盗になることを選び、訓練を積んで実力をつけたようだ。
オカリナさんが保護して育てている子供たちで、成人しているメンバーは他に三人いるそうだ。
その三人は、怪盗になることは希望せずに、オカリナさんが運営している孤児院や商売を手伝っているとのことだ。
孤児院と言っても、正式な私立の孤児院ではないらしく、縁があって引き取った子供たちを、家族として育てている感じのようだ。
『領都セイバーン』で知り合ったあのナルシストなイケメン貴族シャイン=マスカット氏と、同じ感じかもしれない。
彼も孤児院というかたちにするのではなく、家族として迎え入れているということに、こだわりがあるようだった。
ルセーヌさんたち成人している子供たち以外に、未成年の子供たちが十三人もいるそうだ。
実体は、ちょっとした孤児院レベルである事は間違いない。
引退した今、どうやって生活をしているのかと心配そうに国王陛下が尋ねたところ、子供たちと一緒に小さな商売をしているとのことだった。
『花園商会』という商会を作って、小さなお店を運営しているのだそうだ。
王都の下町エリアに大きな屋敷があって、同じ敷地内に野菜とチーズとピクルスを販売する『ヤオヤ』というお店と、鉢花を販売する『ハナヤ』というお店を開いているらしい。
野菜は、屋敷の敷地内で作っている新鮮野菜を販売しているとのことだ。
同じく屋敷で飼育しているヤギと豆牛のミルクで、チーズを作っているらしい。
濃厚で美味しいと評判なのだそうだ。
ちなみに豆牛は、セイバーン公爵領の特産で領外ではなかなか手に入らないようだが、数年前に王都で高値で売りに出ていたのを仕入れたらしい。
ピクルスも美味しいと評判らしく、普通にはないような変わったピクルスも豊富に置いていて、その点でも評判になっているそうだ。
少しだけ話を聞いたが……話の感じからして、どうもキムチとかぬか漬けのようなものも販売しているみたいなので、ますます転移者もしくは転生者である可能性が濃厚になった。
それから、この国ではあまり流通していないと思われる鉢花を販売しているというのも特徴的だ。
お花をお庭に植えるという習慣は、この世界でもあるようだが、庭に種をまくか、株分けして植えるというのが一般的なはずだ。
鉢に花を咲かせるという習慣は、あまりないはずである。
ただおそらく王都では、人口が多いだけに庭がほとんどない家も多いのではないだろうか。
そんな家庭では、鉢でお花を咲かせたら、どこにでも置けるし、美しさを楽しめるので、すごくいいんじゃないだろうか。
面白い着眼点だ。
元農家の俺としては、鉢花の需要があるなら、やりたかった事業ではある。
というか……なぜ今までそれに気がつかなかったのかと改めて反省した。
最後まで鉢植えとして育てるかどうかは別にして、お花の苗として売ってお庭に植えてもらうという方法もあったわけだからね。
なんでも、焼き物を作る焼き窯も屋敷に作ってあって、鉢花の鉢もそれで作っているらしい。
他にも木を加工して、お洒落な鉢を作ったりしているようで、お花とともに鉢自体も人気なのだそうだ。
そして寄せ植えのようなものも販売していて、作ればすぐに売れてしまうとミーネルさんたちが嬉しそうに話していた。
“色んな花を一緒に植えてデザインした鉢”という表現をしていたが、俺の知識的には“寄せ植え”だと思うんだよね。
そして最近になって、中級エリアで飲食店を始めたらしい。
成人して残っている三人の子たちの強い要望で、始めたとのことだ。
オカリナさんが、おやつとして子供たちに出していたものを、どうしても商品として販売したいと子供たちが頼み込んだのだそうだ。
そのお店は、飲食店と言っても、がっちり食事をする所と言うよりは、甘味を出すところなのだそうだ。
多分……喫茶店のようなものだろう。
『甘味処 ナマクリーマー』という店名で、生クリームを使ったスイーツを提供しているようだ。
生クリームが美味しいと評判になっているらしい。
そして、生クリームを使ったメニューで、一番人気で看板メニューになっているのが、なんとクレープらしい!
『クレープ』という名前のメニューで、小麦粉を薄く焼いた生地に生クリームをのせて巻くと言っていたから、俺が知っている『クレープ』で間違いないだろう。
この時点で、オカリナさんは、転移者か転生者であることは、もう確定だ!
てか……クレープ食べたい!
「クレープは、ほんとに美味しいんです! グリムさんの料理もすごいですけど、師匠の料理もすごいんですよ!」
ルセーヌさんが目を輝かせた。
(ねえねえ、もう間違いなく転移者か転生者よね! ステータス確認した?)
突然、ビャクライン公爵家長女で見た目は四歳児中身は三十五歳の『先天的覚醒転生者』であるハナシルリちゃんが、念話を送ってきた。
(いや、まだだよ。でも、もう確定だね。話が一段落したら、密かに『波動鑑定』してみるよ)
(わかった。このオカリナさんは、間違いなく私たちの力になってくれる人だと思うわ。『女の勘』がそう告げているし、何か……不思議なものを感じるのよね……)
ハナシルリちゃんはそう言って、オカリナさんを見つめている。
ちなみに『後天的覚醒転生者』である『魚使い』のジョージも、俺の方を見て軽く頷いている。
ジョージも確信しているようだ。
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