842.伝説の怪盗は、スーパーモデル級!?
三日後に迫った領都で開催される特別式典、その前夜に貴族を集めた盛大な晩餐会が開催されるとのことで、俺とニアは強制参加になってしまった。
俺としては、面倒くさいのであまり出たくないのだが、国王陛下とビャクライン公爵は、めっちゃ楽しみなオーラを醸し出している。
晩餐会なんて、いつもやっているだろうに……。
なんとなく……酒が飲みたいだけという気もするが……。
俺がそんなことを思っていると、突然、ビャクライン公爵から提案があった。
それは、『竜羽基地』で行っている合同訓練についてであった。
ビャクライン公爵は、コーチ役をかってでてくれているが、今後の合同訓練の時間帯を夕方に変更したいという内容だった。
現状は午前中に行っているので、ビャクライン公爵もそうだし、ユーフェミア公爵やアンナ辺境伯たちも、朝一で仕事の段取りをつけてから訓練に参加し、午後には仕事に戻るというかたちになっている。
数日間その体制で行っていたが、むしろ午前中の時間帯は、フルに仕事に当てる方が効率の良いというのだ。
早朝から午前中いっぱいは、各自の仕事をこなして、昼過ぎから夕方までの時間を、予備の時間というかたちにする。
何もなければ、仕事をしたり自主訓練すればいいという提案だった。
今回のようにみんなでどこかに出かける場合も、できるだけ午後の時間帯に入れれば参加しやすいので、そうしてほしいという話だった。
そして、それぞれの仕事が終わる夕方を訓練時間にすることによって、時間的にも精神的にも負担を少なくしようという趣旨でもあるようだ。
このかたちにすれば、より多くのメンバーが参加できるし、急遽打ち合わせをする必要があっても、夕方に行えばほとんどのメンバーが揃うだろうとも言っていた。
そして訓練が終わったら、みんなで夕食を食べれば親睦も深まる。
これがベストなスケジュールだと、ビャクライン公爵がドヤ顔をしていた。
言っている事は、理に叶っているのだが……なんとなく、できるだけ俺たちの動きに参加したいというか……今回の遺跡発見のような決定的な瞬間を、逃したくない的な熱量を感じた。
そして、毎晩酒盛りがしたいだけのような気もしないではない。
ふと思い出したが……俺も若い頃は飲み会があると、楽しすぎて、自分が帰った後に面白いことが起きると悔しいから、二次会三次会と最後まで残って、よく終電を逃していた。
なんとなく……それと同じような……楽しいことを逃したくない的な子供っぽい情熱がビャクライン公爵と国王陛下から感じられる。
……残念でしかない。
まぁいいけどさ……。
実際の彼らの心情はともかくとして、確かに午前中から昼過ぎまでに仕事をこなし、心おきなく夕方から訓練するのは良い時間の使い方だと思う。
正直……いくら転移の魔法道具で、王城や領城に戻っているとは言え、国王陛下や、各領主の皆さんが、こんなにも俺たちとの時間を作っていいのかと、少し心配ではあった。
このスケジューリングなら、仕事が滞ることはないだろう。
仕事が終わらなかったら、来れないってことでもあるからね。
ビャクライン公爵のこの提案は、特に異論もなく、すんなりと採用された。
明日から各自の時間割が、このかたちに変更になる。
毎日夕方から開催される合同訓練は、なんとなく部活っぽい感じになった気がする……。
ちなみに俺の『絆』メンバーには、毎日、朝一で大森林で訓練することが定着している。
もちろん強制ではなく、自由参加だ。
考えてみれば、これはいわゆる朝練的な感じだ。
俺も何もない時は、この訓練に顔を出すようにしている。
大森林のメンバーや、『使い人』の子たちとのコミニケーションを取る貴重な機会だからね。
打ち合わせが一段落したところで、元怪盗ラパンで現在はユーフェミア公爵直属の『特命チーム』のメンバーであるルセーヌさんがやって来た。
「少しよろしいでしょうか? 実は私の師匠が到着しましたので、皆様にご紹介したいのですが……」
ルセーヌさんは、少し緊張気味にそう言った。
ルセーヌさんの師匠ということは……有名な怪盗イルジメさんが来たということだ!
「ほほう、遂に来たのかい!? 遠慮しないで、早く連れて来な!」
ユーフェミア公爵はそう言って、目を輝かせた。
イルジメさんは、ドアの外で待っていたようで、ルセーヌさんに促され、すぐに部屋に入ってきた。
なんと……想像していたよりも、はるかに若い女性だ!
見た感じ……二十五、六歳に見える……もっと上だったとしても三十歳を超えていることは、ないんじゃないだろうか。
ルセーヌさんの師匠と言うから、もう少し上の人を想像していたが、姉妹といっていい感じの若さだ。
特にルセーヌさんがしっかりしているせいか、実際の年齢の二十二歳よりも上の二十五、六歳に見えるから、年の近い姉妹っていう感じだ。
イルジメさんは、背が高めでスレンダーな感じだが、とてもグラマーだ。
綺麗なブロンドの髪と相まって、スーパーモデルのような感じだ。
顔つきは、シャープでキリッとした感じであるが、そこはかとなく漂う色香がある。
大人の女性といった雰囲気を纏っているのだ。
黒い綺麗なワンピースを着ている。
ウェストが絞れたデザインになっていて、全体にタイトなワンピースドレスなのだ。
こちらの世界では見かけないデザインだ。
胸の部分がはち切れそうな感じだし、スカートは丈が長めだがスリットが入っているので、超セクシーだ。
金髪のロングの髪が少しカールしていて、まるで高級クラブのお姉さんみたいな感じもする。
スーパーモデルが高級クラブで働いているという感じだろうか……うーん、我ながら訳がわからない……。
衝撃が強くて、思考がおかしくなってきたようだ……。
それにしても……とても世間を騒がせた怪盗とは思えない雰囲気だ。
そう思ったのは俺だけではないようで……ここにいる皆さんは、ほとんどあっけにとられている感じだ。
特に……この巨乳と美脚が強調される衣装は、この世界の男性には、かなり刺激が強いんじゃないだろうか……。
そう思って周りを見回すと、早速、『魚使い』のジョージが鼻血を出している……大丈夫か?
心なしか……国王陛下とビャクライン公爵も、少し顔が赤くなっている気がするが……。
今は『セイリュウ騎士団』のむさ苦しい男連中がいないが、もしいたら大変だったかもしれない。
みんな鼻の下を伸ばしたに違いない。
かく言う俺も、デレっとしないように、今必死でがんばっているところなのだ。
まだ挨拶もする前から、『頭ポカポカ攻撃』や『お尻ツネツネ攻撃』を受けている姿を見られるのは、嫌だからね。
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