718.みんな大好き、観劇。

「グリムさん、『使用人育成学校』は、王都でもやった方がいいですわよ。相当な需要があると思います。王都でやるなら数が集まると思うから、高収益な事業になりますよ」


 マリナ騎士団長と俺のやりとりを聞いていた、エルサーナ王妃殿下が前かがみになりながらそう言った。


 ものすごい食いつきだ。


 使用人を身近な存在として見ているからか、この事業というか……需要の存在に確信があるようだ。


「はい。できれば王都でもお役に立ちたいと思っていますが……先生になってもらえる人材も、探さないといけませんので……」


 俺は、苦笑いしながらそう答えた。

 実際問題、指導出来る先生がいないとできないからね。


「確かにそうですね。『領都セイバーン』でやる場合は、今のスタッフでいいかもしれないけど、王都でもやるとなると専属のスタッフがいた方がいいですものね。まぁ、人材の件は、私に任せてください。執事、侍女、メイド、その他使用人の業務を一通り教えられる人材を探しておきますから」


 王妃殿下は、そう言ってニヤリと笑った。

 なに……このやる気……?

 王妃殿下が、手伝ってくれちゃうわけ?

 そんなのアリなのかなあ……?

 まぁありがたい話ではあるが……。



 マリナ騎士団長が他に注目したのは、歌劇団の創設だった。


 なるべく早い段階で『領都セイバーン』に専用の劇場を建てて、劇団を常駐させてほしいと言われてしまった。


 人々は、娯楽に飢えていて、観劇が大好きらしい。

 専用の劇場ができて、毎日講演するなら、毎日満席になるだろうと力説されてしまった。


 どうも……熱の入りようからして、マリナ騎士団長自体が観劇が大好きらしい。

 なんとなく……自分が見たいだけっていう気がしないでもないが……ここはスルーしてあげよう。


「あの……領都には、専用の劇場が作れるほどの土地があるのでしょうか?」


 少し気になったので尋ねてみた。

 領都でまとまった土地なんて、簡単に手に入るとは思えないからね。


「そうさね……どのぐらいの広さにしたいかによるけど……難しい問題ではあるね。一つはあんたの邸宅として使っちまったからねぇ……。まぁ、それについては、私に任しときな」


 今度は、ユーフェミア公爵が答えた。


 土地を何とかするって……一体どうするんだろう?

 ていうか……ユーフェミア公爵も、いつになく目をキラキラさせている。

 ユーフェミア公爵も、演劇を見るのが好きなのかもしれない。


 改めて思うが、劇団を作って公演をやったら、人々が喜ぶのは間違いないな。


「ありがとうございます。劇場の件はお任せするとしても、今立ち上げている劇団は、ピグシード辺境伯領の『領都ピグシード』に劇場を作って、定期公演をしようと思っているのです。セイバーン公爵領に公演に訪れることはできると思うのですが、常駐するというわけにはいかないと思います。常駐させるには、劇団をもう一つ作るくらいのかたちにしないと……」


 俺はそう言ったのだが……マリナ騎士団長もユーフェミア公爵も、全く意に介していない……。


「そりゃそうだ。作ればいいじゃないか!」

「当たり前さね。専用劇団を作らなきゃ始まらないよ!」


 マリナ騎士団長とユーフェミア公爵は、ダブルで俺に対してダメな子供を見るような目をしている……トホホ。

 何を当たり前のことを言っているんだという感じで言われてしまったが……当たり前じゃないと思うんですけど……。


「生活が不安定な吟遊詩人や駆け出しの吟遊詩人は、いっぱいいるんだよ」


「良い条件を出して、勧誘したらどうだい? あとは……新たに人材を発掘したらどうだい? サーヤさんたちは、人を見る目が確かだから、才能のありそうな若い子を見つけたらいいよ」


 マリナ騎士団長とユーフェミア公爵の圧が凄い……。

 そんなに劇団を作ってほしいのか……?

 なんか熱意がビシバシ伝わってくる。

 ここは前向きな回答をする以外に、選択肢がない……。


「ええ、わかりました。何とか考えてみます……」


 俺はとりあえずそう答えた。


「あの……旦那様、歌が得意な人とか、楽器が演奏できる人、演劇をやってみたい人を募集する告知をして、採用面接をしてはどうでしょうか?」


 ユーフェミア公爵に名前を出されたからか、『アメイジングシルキー』のサーヤがそう提案してくれた。


 なるほど……いわゆるオーディションをするわけね。

 いいかもしれない。


 (私もそう思ってたのよ! オーディションをやっちゃえばいいのよ! スターを誕生させましょう! アイドルユニットとかも、作っちゃえばいいじゃない!)


 今度は、ビャクライン公爵家長女で、見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんが念話を入れてきた。

 彼女も結構ノリノリだ。


「そうだね。新たに人材を発掘してみようか」


 俺は、サーヤにそう返事をした。


「領都で告知した方がいいだろうから、領として告知を手伝ってあげるよ」


 ユーフェミア公爵が、協力を申し出てくれた。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 俺は、若干苦笑いしつつもお礼を言った。



「一つ思いついたのですが……ピグシード辺境伯領に『音楽の街』を作ってはどうかしら? 楽器を演奏する音楽家を育てる街があっても面白いと思うのです。楽器の演奏は、演劇にも必要ですし、歌を歌う人たちにも必要です。それでいて演奏ができる人の数は、非常に少ないのです。これから復興する市町の一つを『音楽の街』として位置づけて、音楽家を目指す人の学校などを作るのです。移民を呼び込む手段にもなると思いますわ」


 王妃殿下が、突然に、そんな提案をしてくれた。


「殿下、ありがとうございます。我が領を気遣っていただき、感謝いたします。私も素晴らしいアイディアだと思います。音楽の都を目指して街づくりをするなんて、素敵だと思います。グリムさんとも、相談し前向きに考えさせていただきます」


 アンナ辺境伯は、満面の笑みで王妃殿下に答えた。


「いいのよ、アンナ。殿下なんて水くさい。こういう場では、昔のようにエルサ姉様と呼んでよ」


 王妃殿下は、少し悪戯な笑みを浮かべた。


 音楽の都……それはいいかもしれない。


 今復興している『イシード市』は、もう色々と動き出しているから……次に復興する予定の『セイネの街』を『音楽の街』として、特色づけたらいいかもしれない。


 そのためには、今から楽器の演奏ができる人を集めておかないとなぁ……。

 実際一番大変なのは、この作業だと思うんだよね。


 楽器も集めないといけないなぁ……。


 この世界の楽器は、あまりバリエーションが多くないみたいなんだよね。

 弦楽器の系統で多いのは、リュートの系統のものとか、ハープの系統のものらしい。

 笛は、縦笛、横笛とあるようだ。

 また角笛の系統もあるらしい。

 あとは太鼓などの打楽器類があるようだ。


 ピアノみたいなものが、作れればいいんだけどなぁ……。

 今のところ、作れそうにはない。

 俺が作れるとしたら……木琴とかだなぁ……。


 まぁ楽器についても、色々と考えてみよう。

 少しでもバリエーションが増えるように、オリジナルの楽器制作にもチャレンジしてみるかな……。



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