660.勇者の、情報。

 コウリュウ様の暴露によって、この夕食会にいるメンバーには、俺が『救国の英雄』と『大勇者』という『称号』と『職業』を得たことが完全にばれてしまっている。


 当然のごとく、俺にみんなの視線が集まっている……。


 なに、このいたたまれない感じ……。

 そして何かコメントを求めているような雰囲気……。

 何も話す気はありませんから……


「まったく面白い男だね、あんたは。あの戦いの最中は、完璧に全体を指揮していたってのに、こういうときには何も話す気がないようだね。世話の焼ける子だね、まったく。しかし……『大勇者』だなんて……英雄譚でも聞いたことがないよ。長生きはするもんだ。驚きと感動もあるけど、なぜか……呆れちまうね。ユフィの気持ちが良くわかるよ。まぁそれでも、こんな男には、二度と会えそうにないからねぇ……否が応でもデートしてもらおうかねぇ、ハハハ」


 『セイリュウ騎士団』団長のマリナさんが、悪戯な笑みを浮かべた。


 ニアは、ちょっと呆れたような顔で俺を見た後に、一つため息をついて、自分を納得させるように一人で頷いている。


(きたわねぇーー、規格外! 異世界に来たらこうでなくちゃ! 大勇者、万歳!)


 ビャクライン公爵家長女の……見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんが興奮して念話を入れてきた。


 リリイとチャッピーは、ニコニコ顔で俺を見てくれている。

 俺が『大勇者』になって、嬉しいようだ。


 そして……他の女子たちは……キラキラな熱視線を俺に向けてくれている。

 まぁそれは一旦いいとして……なぜか『セイリュウ騎士団』のむさ苦しい男たちまで、俺をキラキラな眼差しで見ている……ちょっと怖いんですけど……。


 勇者とは、それほど憧れの対象になるものなのだろうか……。


 まぁ考えてみれば、過去の英雄譚とかに出てくるのは、ほとんどが勇者だからね。


 そしてビャクライン公爵と国王陛下は、ギリギリ……キラキラした眼差しにはなっていないが……遊んでほしい犬の顔になっている。

 てか……もうそういう風にしか見えなくなってきている……残念。


 ちなみに、ビャクライン家のシスコン三兄弟は、今回ばかりは、俺に憧れの眼差しを向けてくれている。


 でもきっと、この溺愛オヤジ二人とシスコン三兄弟は、あとになったらまたハナシルリちゃんやクリスティアさんのことで、俺に殺気を向けるに違いない……自由すぎるんだよ!



『勇者』について、前にニアに聞いたことがあるが、英雄譚などに出てくる『勇者』は、ほとんどは『勇者召喚』という特別な魔法のようなもので召喚された存在だったらしい。

 ただ中には、この世界の人間が成長して『勇者』となる場合もあるようだ。


 ニアの分析によれば、『勇者』には、違う世界から召喚されてやってくる『召喚勇者』とこの世界の人間が勇者となる『地産勇者』がいるらしい。

『召喚勇者』は、召喚された時点ですでに『勇者』の『称号』を手にしている……いわば『先天的勇者』である場合が多いらしい。

 そして『地産勇者』には、成長して勇者として覚醒する『後天的勇者』が多いようだ。

 ただこの区別は絶対ではなく、『召喚勇者』でも召喚された人間が後日『勇者』として覚醒する場合もあるし、この世界の人間が生まれた時から『勇者』の『称号』を持っている場合も理論上はあるようだ。



 国王陛下が教えてくれたが、現在では勇者がいるという確定情報はないらしい。


 ただ『コウリュウド王国』の東方……セイバーン公爵領やピグシード辺境伯領の東にある国の一つ『アポロニア公国』で、『勇者召喚』が行われたという不確かな情報が入っているそうだ。


『勇者召喚』は、現代では失われた技術となっているようで、もしそれが本当だとすれば大事件らしい。



 それから当初の懸案事項だった『神獣の巫女』と『化身獣』たちが、これからどうするかということについては、『ライジングカープ』のキンちゃんが伝えてくれたコウリュウ様のアドバイスに従うことにした。


 つまり……基本的に自由ということにしたのである。

 一緒にいれる時はいればいいし、無理に一緒にいる必要ないということだ。


 ただ俺は、一つの提案をした。

 今後状況が許せば、毎日一時間でもみんなで集まって、訓練をするというものである。

 転移を使って、公式秘密基地『竜羽基地』に集まって、一緒に訓練すれば実力も向上させられるし、緊密な関係も築けると思うんだよね。

『神獣の巫女』と『化身獣』たちは、みんな『転移集合』というスキルを持っているから、いつでも集まれるからね。


 一応、みんな賛成してくれたのだが……


 一人泣いている男がいる……溺愛オヤジのビャクライン公爵だ。


「ハナが一人で出かけて行くなんて……まだ四歳なのに……いくら天才だからって……いくら『神獣の巫女』だからって……心配で何も手につかなくなるわ……ぐおうぅ」


 この人……みんなの前で、惜しげもなく泣いちゃってますけど……。

 公爵の威厳……0%……残念!


「ハナシルリが、一人だなんて……心配すぎて……レベルが下がるぅぅぅ、うわぁぁぁん」

「ハナ……あゝ……もう背が縮んできてる……心配だびょぉぉぉーー」

「わあぁぁぁ、ああぁぁ、わあぁぁん……ぼぐは……あがちゃんにもどりぞうだぁぁ」


 シスコン三兄弟まで、号泣しだした。

 そしておかしくなっている……

 心配しすぎても、レベルは下がらないから!

 背も縮まないし!

 赤ちゃんに戻ることもないから!


 この子たちって……必死で泣いているけど……発想が面白すぎるわ!


 でも言われてみれば、溺愛オヤジとシスコン三兄弟の気持ちもわかる。


 そこで俺は、号泣の溺愛オヤジとシスコン三兄弟に助け舟を出すことにした。


 それは、ビャクライン家に、『転移の魔法道具 百式 お友達カスタム』を貸し出すことだ。


 実は、ハナシルリちゃんには、本人にねだられて、既に一台渡してあるのだが、それはあくまで内緒なので、それとは別にビャクライン家で使う用に貸し出すことにしたのだ。


 妖精族の秘宝の転移の魔法道具を貸し出してもらえると知り、ビャクライン公爵とシスコン三兄弟はやっと泣き止んでくれた。


 そして元気になったビャクライン公爵が……ハナシルリちゃんの引率がてら、『神獣の巫女』たちのコーチをすると立候補した。


 そして何故か……国王陛下もユーフェミア公爵も止めなかった。

 俺も空気を読んで異を唱えなかったので、コーチ就任が決定してしまった。


 てかこの人……領政はいいんだろうか?

 やっぱり実質的には、アナレオナ夫人がやっているようだ。

 領主である脳筋溺愛オヤジは、毎日数時間いなくなっても全く影響がないらしい……。


 てか……アナレオナ夫人も、形だけでも止めようよ、一回は……。

 ほんとにビャクライン公爵って……公爵の威厳…… 0%……。


 これに伴って、『神獣の巫女』の中で、スザリオン公爵家長女のミアカーナさんだけが、転移の魔法道具を持っていないことになるので、彼女にも渡すことにした。


 そして何故か……国王陛下がめっちゃ俺をガン見している……。

 口には出さないけど……転移の魔法道具が欲しいってことね……。


 でも、もうストックがないんだよね……。

 ミアカーナさんが最後だったんだけど。

 どうしよう……


 そう困っていたところに、『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんが寄ってきた。

 そして、耳打ちしてくれた。


「実は、『転移の魔法道具 百式 お友達カスタム』を、あと二十個用意してあるのです! グリムさんは、すぐ貸しちゃうから足りなくなると思ったのです。ミネは、食べる順番を考えながら戦っているうちに、先を読む力を養ったのです! だから必要な人には、貸してあげちゃっていいのです。『土の大精霊 ノーム』のノンちゃんも許してくれるのです」


 ミネちゃんからの助け船だった。

 素晴らしい、グッジョブ、ミネちゃん!


 ということなので、国王陛下にも一つ貸し出すことになった。


 もちろん国王陛下は……上機嫌になっていた……子供か!



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