654.ヒュドラの肉、食べたいってよ。
国王陛下の俺に対する追求が収まったところで、俺は新しく取得したスキルを確認してみる……
今まで未開放だった『固有スキル』で、突然開放条件を満たしたらしく、『鈍感力』というスキルが現れた。
『固有スキル』は、俺の魂の願望の現れである可能性が高いらしいから……『鈍感力』というスキル名は、微妙に恥ずかしい気がする……。
『鈍感力』というのは、確か……失敗や嫌な事をくよくよ考えないで、きれいさっぱり忘れて楽しく生きる力みたいな……そんな感じだったとは思うが……。
そう考えると……俺の魂の願望というのは、わからなくはない。
結構気にするところがあったからね。
細かいことを気にしなかったり、自分の嫌なことをすぐ忘れて、楽しいことを考えられる人を見て、羨ましいと切実に思ったことがある。
そういうことで、発現したのかもしれない。
まぁ……くよくよしないで、前向きに生きる力と考えればいいことだし、そういう前向きなスキルだと思いたい。
ただ、本来的には、感性が鈍いみたいな意味もあるから……そういうスキルだったら微妙なんだよね……。
いずれにしろ、このスキルがなぜ俺の状況を好転させたのかは、よくわからない。
スキルの詳細表示を見てみると……
『個人的範疇に於いて、否定的事柄や都合が悪い事柄を自然に認識しなくなる能力で、心穏やかに生きられる。そうしている間に、自然に解決してしまうという事象に干渉する能力でもある』と表示されている
よくわからないが……とにかく俺にとっては、都合の良いスキルってこと……?
なんか微妙だけど……なんか嬉しい……。
イージーモード万歳! ……なんとなく……100%は喜べない感じだけど……まぁ深く考えるのはやめておこう。
冷静に考えると、事象に干渉するスキルって凄いと思うんだけど……。
表示はされていないけど、このスキルも『世界の
『世界の
どうもこのスキルの説明を見る限り……俺にとって都合の悪い問題が、知らない間に自然に解決しまうという超ご都合主義な能力ということらしい。
そのお陰で、国王陛下に詰められていた状況から脱出できたということのようだ。
開放条件って……俺が困るということだったのだろうか?
今までも困った状況はあったような気がするんだが……まぁ考えてもよくわからないから、やめておこう。
嬉しいけど……やっぱなんか微妙な気持ちになるスキルだ……。
でもまぁ、人間悩み事がなくて、ストレスを抱えず、明るく前向きに生きていくのが一番だから、“まぁいいか!”ということにしておこう……。
感性が鈍いとか……鈍感そのものみたいな感じのスキルじゃなくてよかったけど……
てか……副作用で、そういうことに拍車がかかるとか……ないよね?
◇
少しして、夕食をとることになった。
今回も俺の屋敷で、いつもの大人数での夕食だ。
そして今回は、国王陛下と王妃殿下も同席だ。
そしてメニューは……国王陛下のリクエストにより『カレーライス』だ。
てか…… 四日連続なんですけど……。
国王陛下は、襲撃事件の後の避難民の人たちへの配給の『カレーライス』を食べて、美味しさに感動していたらしい。
今まで初日から食べていたメンバーは、四日目なのに誰も文句を言わない。
むしろ嬉しそうだ。
そろそろ飽きてきてもおかしくない頃なんだけど……。
今日は、昨日大好評だった『カツカレー』にした。
そう告知したところ、国王陛下が目をキラキラさせていた……子供か!
この国の男はいったい……まぁいいけどさ。
メニューの告知が終わった俺のところに、ビャクライン公爵がわざわざ寄ってきた。
それに釣られるように、国王陛下までやってきた。
いきなりおじさん二人に囲まれてしまった。
何これ? 何が始まるわけ……?
「シンオベロン卿、知っているかね……『亜竜 ヒュドラ』の肉を食べると、スキルが発現したり、ステータス数値が上がったりするという説があるんだよ。古い書物に書かれているのを読んだことがある。もちろん確証は無い。『亜竜 ヒュドラ』の肉を食すことなど、普通はありえないことだからね。でも、どうだね……興味が沸かないかい?」
ビャクライン公爵が、子供のようなキラキラ顔で、俺に言った。
ヒュドラの肉を食いたいってこと?
まぁいいけどさ……。
ほんとに特殊効果があるなら……確かに試してみたいし。
「うん、それは私も見たことがある。ヒュドラを含めた亜竜やその上位種の竜の肉を食べると、一時的にステータスがアップするという記述を見たことがある。そしてスキルも発現する可能性があると書いてあったと思う。亜竜や竜の肉を食す日が来ようとは、夢にも思わなかったよ」
国王陛下までそう言ってきた。
もはや食べることが前提になっているが……まぁいいけどさ。
そして何故かビャクライン公爵と肩を組んでいる……悪ガキか!
国王陛下としての威厳が……微妙だと思うんだけど……。
この二人は親友らしいけどさ。
「わかりました。では用意してみましょう」
俺が快くそう言うと……
「そうだなあ、そうしよう! もちろん私が、ちゃんと毒見をしよう!」
「大いに期待しているぞ、我が婿殿よ」
ビャクライン公爵と国王陛下が、無邪気に喜んでいる。
それはいいんだけど……どさくさに紛れて、“我が婿殿よ”とか言うのはやめてほしい。
俺は少し席を外して、庭に出た。
そして『波動収納』に回収してあるヒュドラの首を取り出した。
チャッピーが切り落としたやつだ。
首だけでも超巨大なので、屋敷の庭が壊れてしまう。
そこで、『波動収納』から出して空中にある間に、『魔剣 ネイリング』で輪切りにして、残りの大きい部分をすぐ『波動収納』に回収した。
輪切りになっているので、ヒュドラの鱗と皮の部分を避け。肉の部分だけをえぐるように切り取った。
そして調理場に持っていって、肉を薄切りにして『生姜焼き』にすることにした。
ハナシルリちゃんのお陰で、生姜があるので、やらない手はないよね。
すぐに調理できてしまったので、早速持っていって食べてもらうことにした。
『生姜焼き』の香ばしい匂いが立ち込めて、みんな待ち切れない様子だ。
小皿に取り分けて各自に配膳してもらったので、行き渡った人から食べてもらってもよかったのだが、ハナシルリちゃんの音頭で、みんなで『いただきます』をすることにした。
「それでは皆さん、感謝して食べましょう。命をいただきます。いぃたぁだぁきぃます!」
見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんの可愛い挨拶で、食事会の幕は切って落とされた。
みんな、『生姜焼き』をがっついている。
よく考えたら『生姜焼き』も初リリースだ。
俺も食べてみる。
……うん、美味い!
ヒュドラの肉が、元々臭みがあるかどうかは、まだ確認していなかったが、『生姜焼き』だから問題ないと判断して作ったのだ。
その判断に間違いはなかったようだ。
非常に美味しい!
てか……めっちゃ美味い!
ヒュドラの肉、美味いじゃん!
鶏肉っぽい気もするし、豚肉っぽい気もするし……独特の味だが美味い。
そして、皆さんも喜んで食べている。
『生姜焼き』は、異世界でも受け入れられたようだ。
「うん……この香料は独特ね。こんな焼き方があるのね。これもグリムさんが考えたの?」
王妃殿下が優しく俺に話しかける。
めっちゃ優しい感じで話しかけてくれて嬉しい。
「はい。生姜という香味野菜を使っています」
「まぁ、生姜……聞いたことはありますが、あまり一般的には使わない香味野菜ね。でもこの味、私は好きだわ。癖になりそう」
どうやら、王妃殿下のお気に入りになったようだ。
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