653.突然の、固有スキル開放。

 国王陛下と王妃殿下は、もう一日程度、この『コロシアム村』に滞在する予定とのことだ。

 もうお忍びでいる必要はないので、今日は俺の屋敷に泊まるらしい。

 俺の意思確認はなく……普通にそういう話になっていたが……まぁいいけどさ……断ることなんてできないからね。


 本来なら少しでも早く王都に戻るべきところらしいが、もう少し今回の襲撃の詳細が判明してから、その情報を持って帰りたいとのことだ。

 クリスティアさんによる聞き取り調査の第一報を持って王都に帰って、大臣たちと協議するということなのだろう。


 ちなみに国王陛下と王妃殿下は、近衛騎士を二名だけ連れて、本当にお忍びで来ていたようだ。

 その二人が、『コロシアムブロック』で怪我した避難民を移動させてくれていた四人うちの残り二人だったようだ。

 確か老紳士と若い女性だった。


 それにしても……護衛が二人しかいないなんて、普通では考えられないことだと思う。

 そこまでして娘の模擬試合を見たいという国王陛下は、やはり立派な溺愛オヤジのようだ。

 子供の運動会を楽しみにしている溺愛オヤジ状態だよね。


 護衛の騎士二人は、『王国近衛騎士団』の格付け第一の騎士である団長と第二の騎士らしい。

 第一王女のクリスティアさんの護衛官のエマさんが格付け第三位だから、この二人はエマさんよりも実力があると評価されている二人ということになる。

 かなり強いということだろう。


 この護衛騎士の二人も、みんなに紹介されていた。


 格付け第一位の騎士団長は、なんと六十五歳という高齢の騎士だった。

 白髪に白ヒゲを蓄えているが、若々しい精気が漂っていて、五十代にも見える。

 背筋がピンと伸びていて、堂々としているのだ。

 名誉子爵位を持つウォルフラム=タングステンという名の騎士で、若い時は『コウリュウ騎士団』の団長をしていたらしい。

 『鉄壁のタングステン』という二つ名がある伝説の騎士らしい。

 魔物討伐や紛争の解決で、数々の武功を挙げた生ける伝説とのことだ。


 格付け第二位の騎士は、三十歳の女性騎士だ。

 二本の短槍を使う珍しい戦闘スタイルらしい。

 ただその腕前はすごいらしく、正確無比な攻撃から『ノーミスの二本槍』という二つ名があるらしい。

 ミチコル=フリーランスさんといい、名誉子爵位を持っているそうだ。


 二本の短槍使いとは珍しいので、一度戦ってる姿を見てみたい。


 ちなみに彼女は金髪のショートカットで、背も高く体もがっちりしているので、後ろ姿では男性に見えるかもしれない。

 顔つきも精悍で、男まさりな感じだ。


 格付け第三位のエマさんが、こっそり悪戯っぽく教えてくれたが、厳しい感じの印象と裏腹に、実は天然なところがあるらしい。


 対外的には常に強気で、「私、失敗しませんの!」というのが口癖らしいのだが、身内の中では、些細なことでよくドジっているのだそうだ。

 年下で後輩のエマさんが、よくフォローしていたと愉快そうに話してくれた。

 ツンデレというか……ツンドジなのか……?

 ドジっ子キャラに、ツンが入っているというのは、レアかもしれない。


 この話を聞かなければ、全くそうは見えないが……“ギャップ萌え”キャラということだろうか……。


 俺は……自分の“ギャップ萌え”に対する抵抗力に、最近自信がないので……個人的には“ギャップ萌え”キャラは増えないでほしいと思っている……。


『限界突破ステータス』からくる強力なレジスト能力が……何故か……ギャップ萌えとか、熟女とか、バニーガールとかに反応してくれないんだよね……トホホ。



 国王陛下からの話も終わったところで打ち合わせは終了し、一旦解散という雰囲気になりつつあったのだが……


 なぜか国王陛下が、俺をガン見しながら近づいてくる……。


 なんだろう……この威圧感……。


 面倒くさい溺愛オヤジ臭がハンパない……。


「シンオベロン卿、個別にゆっくり話そうと思ったが、やはりもう我慢できん。それに皆の前で、はっきりさせた方がいいだろう。なんといっても、もうクリスティアは、人々に対する呼びかけの中で、“私のグリムさん”と言ってしまっているのだ! それを聞いたときの私の気持ちが君にわかるのか!? 娘が恥ずかしげもなく“私のグリムさん”なんて言ってしまった、その親の私の気持ちを君はわかるか!?」


 え、なにそれ!?

 そんなこと言われても……全然知らなかったし。

 どういうこと!?

 俺が防御障壁の外で戦っているときのことなんだろうか……?

 国王陛下が勝手に興奮しだしているけど……なぜ俺が責められているの? どういうこと?


「あなた、だからその話は後にしましょう!」


 王妃殿下が腕を掴んで止めてくれているが……


「いやダメだ! これは国王としてではない、娘を案ずる一人の父親として、どうしても聞いておかなければならない。君は、クリスティアのことをどう思っているんだ!? どうするつもりなんだ!?」


 国王陛下が、俺に詰め寄ってきた。


 なにそれ……?

 なぜに俺が詰められているわけ……?

 どういう状況?


 クリスティアさんも、ワクワクした顔で見つめるのはやめようよ……。

 そして他の女子たち……微妙に不安げな顔で目をうるうるさせるのは、やめてほしい。

 リリイとチャッピーは楽しそうでいいけどさぁ……。

 ニアとユーフェミア公爵は、悪い笑みを浮かべてるし……なにそれ!

 また俺が困ってるのを楽しんでるよ。

 この人たち……俺を助ける気がないよね。

 ビャクライン公爵とシスコン三兄弟は、微妙な殺気を放ってるし……。

 『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビー、『アラクネロード』のケニー、『アメイジングシルキー』のサーヤ、『家精霊』のナーナは、なぜか無表情で傍観しているし……。

 『兎亜人』のミルキー姉妹は、他の女子たちと同じように不安そうな顔で目をうるうるさせている。

 なにこの状況……こんなに仲間がいるのに……誰も助けようとしてくれない……。


 そして俺は、完全に詰められている……。

 えーと……どう答えればいいわけ、これ?


 急に、詰められても困るんだよな……。

 いつものように……苦笑いするしかないのだが……


 国王陛下が、めっちゃ真顔で見てる……。

 俺の苦笑い攻撃を、完全にレジストしてる。

 そして答えによっては、俺を殴るような雰囲気が感じられる……。

 何この……彼女の父親に問い詰められているような雰囲気……


 答えあぐねて、しばし思考停止していた俺の頭に、天声が響いた。

 何故かこのタイミングで、天声だ!


 ——未開放の『固有スキル』が開放可能になりました。開放しますか?


 なにそれ!?

 このタイミングで……?


 てか……やっぱり開放した方がいいってことだよね?

 このタイミングで、天声が流れたってことは……そう思った途端……


 ——固有スキル『鈍感力』が開放されました。

 常時発動型スキルの為、直ちにアクティベートされました。


 どういうことなんだろう?

 勝手にスキルが、稼働状態になったということか……。


「……そうか……なるほど。わかった、言わずとも良い。救国の英雄として、人々を、世界を守る立場にある以上、まだ個人的な事は口にできないということだね。あいわかった! 君を信じよう。とにかく私は、娘を大事にしてくれれば、それでいいのだ。君ほどの男が、他にいないことは分かっているよ。だが父親というのはね……まぁ君もいずれわかるさ……」


 国王陛下が突然そう言って、腕組みしながら頷いている。


 俺は何も言っていないのだが……何か勝手に自己完結してしまったようだ。

 どういうことだろう……?

 俺に対する追求は、自己完結によってあっさり終わってくれたらしい。

 意味不明だが……まぁよかったよ。


「あなた、ここは冷静に考えましょう。クリスティアの気持ちが一番大事ですもの。それに、あなたの言った通り、これ程の婿殿は他にはいないわ。たとえクリスティアが独占できなかったとしても、大事なのは本人たちの気持ちよ」


 王妃殿下もよくわからない支援をしてくれているが……。


「オウキン、グリムをイジメなさんな。下手にいじめると、最高の男が逃げちまうよ。どうせ娘を誰かに嫁がせるなら、最高の男がいいだろうよ!」


 なぜか傍観すると思っていたユーフェミア公爵まで、止めてくれている。

 ちなみにオウキンというのは、国王陛下の愛称らしい。

 オウキング=コウリュウドというのが、フルネームのようだ。


 それにしても……この急に俺にとって都合のいい展開……もしかしてスキルの力なのか……?



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