649.ダンジョンマスターって、言っちゃった。

 炊き出しが終わり、避難している人たちが元気になったところで、解散してもらった。


 戦いによって破損した宿に泊まっていた人たちには、別に泊まるところを割り当てた。


 会場アナウンスでは、できれば数日間の『コロシアム村』に留まってくれるように案内されていた。

 魔物の肉を焼いて提供するという次の“炊き出し”も告知されていた。


 実は、ユーフェミア公爵と打ち合わせをして……『大勝利祭』と称して、三日間、お祭り騒ぎをすると共に、毎昼食、焼肉を提供することにしたのだ。

『カレーライス』はさすがに材料が足りなくなるし、作るのが大変なので、焼くだけでいい焼肉にしたのだ。


 この三日間の『大勝利祭』は、できるだけ多くの人々に残ってもらう為に企画したものだ。


 なぜ残ってもらいたいかと言えば……異物混入ワインを飲んで、魔物化の因子を体内に取り込んでしまっている人が、残っているかもしれないからだ。


 この『コロシアム村』の中で異物混入ワインが流通することはなかったと思うが、避難してる人の中から魔物化する人が出た以上、それまでの道中などで摂取した可能性がある。

 そう考えれば、数は多くないだろうが、まだ魔物化因子保有者がいる可能性があると考えたのだ。


 ただ現時点では、それを検知する方法もわからないし、判別できたとしても取り除く方法もわからない。

 三日でそれらが解決できる可能性は高くないかもしれないが、それでも様子を見る時間をおいた方が良いと考えたのだ。


 会場アナウンスに対する反応を見ている限り、皆お祭りということで喜んでいる感じだった。

 かなりの人が残ってくれるのではないだろうか。


 盛り上がり大成功で終わった『三領合同特別武官登用武術大会』の良い思い出が、『正義の爪痕』の襲撃によって打ち消された感じになっているので、この三日間のお祭り騒ぎで、あの喜びを思い出してもらいたいとも思っている。





 ◇





 俺は『コロシアム村』の俺の屋敷の隣に作ってある役場庁舎とする予定の建物にいる。


 その大会議室で、ユーフェミア公爵たちと今後のことについて、改めて打ち合わせをしているのだ。


 俺の屋敷と隣の役場庁舎は、中央の『コロシアムブロック』にあるが、倒壊等の被害にはあっていなかった。


 コロシアムは観客席部分がかなり倒壊してしまっているので、全体の指揮所をこの役場庁舎に作ることにしたのだ。

 武術大会の運営にあたっていた文官たちも、この役場庁舎に移ってきて、戦後処理のための実行本部を作っている。


 大会議室に集まっているのは、ユーフェミア公爵、その三姉妹のシャリアさん、ユリアさん、ミリアさん、ピグシード辺境伯領領主アンナ辺境伯、その長女のソフィアちゃん、次女のタリアちゃん、ヘルシング伯爵領領主のエレナ伯爵、その執政官で『聖血鬼』でもあるキャロラインさん、第一王女のクリスティアさん、護衛官のエマさん、ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃん、『ドワーフ』のミネちゃん、スザリオン公爵家長女のミアカーナさん、ビャクライン公爵とアナレオナ夫人、シスコン三兄弟、ハナシルリちゃん、セイリュウ騎士団団長のマリナさん、『光柱の巫女』のサーシャさん、アリアさん、テレサさんといったメンバーだ。

 これに俺の仲間たちが加わっている。


 まず『正義の爪痕』についてだが、拘束した構成員と新幹部の『魔物の博士』と『酒の博士』に対する尋問を、引き続き審問官でもある第一王女のクリスティアさんに行ってもらうことになった。


 そして『正義の爪痕』の残党を一掃する為に、関連する組織と判明した『マットウ商会』を摘発することになった。

 この件については既に、元怪盗と敏腕デカの特捜コンビ……ルセーヌさんとゼニータさんが動いている。

 ユーフェミア公爵が転移の魔法道具を使って、二人を領都に送り届けている。

 『マットウ商会』の本部を押さえる為だ。

 『セイセイの街』の『マットウ商会』の支店は、二人の指示を受けた犬耳の少年バロンくんとゼニータさんの弟のトッツァンくんが、衛兵隊と共に突入して拘束する予定だ。

 『マットウ商会』の支店は全市町にあるので、それらも同時に摘発するという算段をつけてくれているようである。

 俺は念の為に、各市町に配置している『スライム軍団』『野鳥軍団』『野良軍団』『爬虫類軍団』に念話をつないで、監視するように指示をした。

 これで、逃げられる事はないだろう。


 この『コロシアム村』に派遣されていた衛兵や領軍の兵士たちは、『死人魔物しびとまもの』と『魔物人まものびと』になった人たちの身元調査を行うとのことだ。

 避難していた人たちが解散し、無人となったコロシアムの闘技場部分に死体を並べて検分しているところだ。


『正義の爪痕』の首領によって大量に送り込まれた魔物化した人たちの中には、あの『総合教会』のセイバーン支部の支部長とその取り巻きのシスターたちがいた。

 どういう経緯で捕まっていたのかわからないが、あの襲ってきた時の感じからすれば、やはり恨みの念やマイナス波動を察知されて捕らえられたに違いない。


『セイセイの街』で魔物化したあのゲス衛兵は、おそらく犯罪奴隷となる前に酒場などで異物混入ワインを摂取していたのだろう。


 改めて考えると……あの異物混入ワインの存在が恐ろしい。

 あれを飲むと、恨みなどのマイナス波動で魔物化してしまう危険があるのだ。


 教会支部長たちが捕まってから異物混入ワインを飲んだのか、それとも酒場などでワインを摂取した後に捕まったのかわからないが、可能性を潰すという意味では、ここの近郊の市町の酒場などを調査した方がいいかもしれない。

 異物混入ワインを提供している可能性があるからね。


 この点についても、ユーフェミア公爵が捜索するように指示を出してくれるということになった。



 それから『正義の爪痕』が魔法機械神と呼んでいた『マシマグナ第四帝国』の遺物であり殲滅兵器でもある移動型のダンジョンについては、成り行き上、俺がダンジョンマスターになったことを説明した。


 できれば他の迷宮同様隠したかったが、さすがにそういうわけにもいかなかった。

 みんな見ていたし、ダンジョンが勝手に移動したとなると、脅威が去っていないことになってしまうからだ。


 俺がダンジョンマスターになったという話を聞いて、みんなポカンとした顔をしていた。


 ダンジョンマスターになるということは、古の英雄譚にしか出てこないような話らしい。

 みんな信じられなかったようだ……。


 いくら人造迷宮とはいえ、ダンジョンマスターになることは、普通ありえないことだし、そのダンジョンマスターに会うということも考えられないことらしい。


 俺はそんな様子を見て……信じられないようなことなら、どうにかして誤魔化せばよかったと思ったが……今更なんだよね……。


 よく考えると……ダンジョンマスターは、ダンジョンを制覇しないとなれないはずだから、勇者クラスの実力がないとなれないような存在なんだよね。

 そして現在この国も含め、あちこちにダンジョンはあっても、ダンジョンマスターが誰かなんてことは、誰も知らないわけだからね。


 正直に話してしまって……ちょっとやっちまった感はあるが……まぁ人造迷宮だし、基本的にあの迷宮を稼働させるつもりは、今のところはないので、よしとしよう……トホホ。


 ユーフェミア公爵の配慮で、俺がダンジョンマスターになっているということは、極秘事項として国王など限られた人だけに伝えるということになり、ここにいる人たちにも箝口令が敷かれた。


 そして、あの移動型ダンジョンが悪用されないように、俺が責任を持って管理するということになった。

 まぁダンジョンマスターなんだから、当然と言えば当然だが……。


 生体コアにされていた女の子ニコちゃんについても、俺が保護するということになった。


 彼女はまだ目を覚ましておらず、俺の屋敷で休んでもらっているのだ。


 そして『魔盾 千手盾』の付喪神であるフミナさんについても、俺が面倒みるということになった。


 彼女の存在も隠したいところではあるが、多くの人の前で付喪神化してしまったので、今回はオープンにせざるを得ない。


 そして有名な英雄譚『魔法機械帝国と九人の勇者』に出てくる『守りの勇者』の残留思念体であることも、ここにいるみんなは知っている。


 約三千年前に活躍した勇者が突然現れたようなものなので、皆色々と訊きたいこともあるようだが、それも後日改めてということになった。

 王国として正式に聞き取りしたいこともあるようだが、落ち着くまでは俺たちに任せるというユーフェミア公爵の配慮である。




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