568. 模擬戦第三戦、タッグ戦、その三。
激しい攻防が続いているが、先に疲れてきたのはソードンさんのようだ。
やはり無尽蔵のスタミナとはいかないようで、だんだんスピードを落ちている。
さすがに二人相手では厳しいのだろう。
ソードンさんは、後方に飛び退き、一旦二人から距離をとった。
そして息を整えている。
自分の長剣をまじまじと眺め、ニヤリと笑った。
そして長剣を地面に突き刺した。
もう長剣は使わないようだ。
剣が保たないと判断したのだろう。
さすが歴戦の勇士、的確で賢明な判断だと思う。
彼も、エレナさんとキャロラインさんが剣を狙って攻撃していることを、察知していたようだ。
もし戦いの最中で剣が折れれば、その隙で致命的な攻撃をくらう可能性がある。
そういう状況を避けるために、現時点で長剣を放棄したということだろう。
首をぐるぐる回して、体をほぐすような仕草をすると、ボクシングのように拳を構えた。
やはり素手で戦うつもりらしい。
これを見たキャロラインさんも剣を置いた。
キャロラインさんも素手で応じるようだ。
これまでの攻防を見てわかる通り、ソードンさんの剣技にはパンチや蹴りも混ざっている。
格闘でも十分戦えるだろう。
エレナさんとキャロラインさんは何やら話をして、キャロラインさんだけが前に出てきた。
ここからは、キャロラインさんに任せるようだ。
キャロラインさんは指を鳴らすような仕草をしながら、ソードンさんに近づいていった。
ソードンさんは、嬉しいのか目を輝かせている。
そして……二人の殴り合いが始まった!
俺の予想に反し……純粋な殴り合いになっている。
二人とも避けずに、お互いに殴り合っているのだ。
ソードンさんも大人気無いと言うべきか、キャロラインさんの顔面にもパンチを入れている。
キャロラインさんは、口を切って血を流している。
同様にソードンさんも口を切っている。
そして鼻血まで出てしまっている……。
俺的には、これ以上殴り合うのはやめてほしいんだが……。
キャロラインさんの鼻血を出している姿とか見たくないし……。
そんな俺の想いを組んでくれたわけではないだろうが、二人は殴り合いから組み合うようなかたちになった。
お互いに肩を掴んで、押し合いのようなになっている。
だが次の瞬間——
——シュッ
——ドスッ
ソードンさんが地面に叩きつけられた!
キャロラインさんが片腕を掴み、投げたのだ。
柔道で言うなら、一本背負いだ。
そしてソードンさんを地面に叩きつけたと同時とも思えるタイミングで、拳を
鎧の上からとはいえ、かなり効いたはずだ。
今は、ソードンさんの首に手刀を当てている。
“勝負あった”という感じになっているが……まだ審判の判定は下されていない。
その一瞬の間隙を縫って、ソードンさんはキャロラインさんの腕をつかみ、引き寄せると、下から頭突きを入れた。
キャロラインさんは、顔面にくらい鼻血を出してしまった……。
鼻が潰れたかもしれない……可愛いそうに血だらけだ。
結局、キャロラインさんの鼻血姿を見ることになってしまった……。
だが本人は全く気にする様子も見せず、すぐに起き上がった。
そして、同時に起き上がっていたソードンさんに強烈な回し蹴りを放った!
ソードンさんは、腕でガードしたが衝撃で弾き飛ばされた。
今までのダメージも蓄積していたからか、ソードンさんは力ない感じで飛ばされ、倒れ込もうとしていたところを、なんとエレナさんが支えた。
なぜソードンさんをエレナさんが倒れないように支えたのか……。
その意味は、すぐにわかった。
追撃してきたキャロラインさんが、再び回し蹴りを放つと、同時にエレナさんも回し蹴りを放った!
前後からの回し蹴りがソードンさんを挟み、サンドイッチ状態になった。
逃げ場のない衝撃に、さすがのソードンさんも大ダメージを受け、膝から崩れ落ちた。
かろうじて意識は保っているようだが、もう抗う力は残されていない感じだ。
エレナさんとキャロラインさんが、ソードンさんのクビに手刀を当て、審判を見た。
審判も試合続行不可能と判断したようだ。
エレナさんたちの勝利となった!
同時に観客席が湧いた。
地響きのような大歓声だ。
しばらく大歓声が止まなかった。
「いやぁ、最高だったよ! ほんとに楽しかった。エレナ伯爵、キャロラインさん、あなた達は素晴らしい騎士だ。また戦おう! いつでも『セイリュウ騎士団』に遊びに来るといい!」
敗れたソードンさんが、嬉しそうに二人に声をかけた。
「さよう。見事な戦いであった。この年で久方ぶりに熱くなった。エレナ様、キャロラインさん、感謝いたします」
ヤーリントンさんも、満足そうに微笑んだ。
二人は治療室に行かずに、この場に残ったのだった。
そして係員に渡された回復薬を飲んで、回復していたのだ。
四人は、お互いの健闘を称え、固い握手をしていた。
その様子を見ていた観客がまた湧いて、それぞれに声援をかけていた。
勝ったエレナさんとキャロラインさんはもちろんだが、敗れたヤーリントンさんとソードンさんにも大きな声援が送られていた。
『セイリュウ騎士団』の第一位と第二位まで敗れてしまって、面目が丸潰れではないかと心配したが……今の素晴らしい勝負を見た観客からは、批判するような声は上がらなかった。
一旦の勝ち負けがついたとしても、面目が潰れるどうのこうのという内容ではないことは、観客もわかっているようだ。
そもそも相手が『ヴァンパイアハンター』だから、強敵なのは観客もわかっていただろうしね。
模擬戦に入る前にも、ユーフェミア公爵からは、セイリュウ騎士たちの面目なんて気にせずに、全勝で行こうという喝が入っていた。
俺としては『セイリュウ騎士団』のメンツが潰れて、領民からの支持が急落しないかと心配していたのだが……その心配は杞憂だったようだ。
勝負の勝ち負けはついているが、いずれも素晴らしい好勝負だった。
目の肥えた観客は、みんなそれがわかっているので、セイリュウ騎士を馬鹿にしたり批判するような声を上げていない。
それだけは本当に良かったと思う。
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