429.刺身、三昧!

『魔導の博士』の高速移動に全くついていけず、攻撃を当てることができないジョージは、打つ手がなく焦っていた。


「待てよ……当たらないなら……攻撃してもしょうがない……。……そうだ!」


 ジョージはそう呟くと、『炎盾ホタテ』に魔力を通し身構えた。


 彼が考えたのは、当たらない攻撃をするよりも、敵に攻撃させて『炎盾ホタテ』の機能で反撃することだった。


 そう考えて魔力を通すと、『炎盾ホタテ』から炎が噴き上がり、炎の盾となった。


 ちょうどそのタイミングで、パンチを入れてきた『魔導の博士』の腕を運良く『炎盾ホタテ』でガードすることができた。

 炎に包まれた『炎盾ホタテ』に触れた『魔導の博士』の右腕には、炎が燃え移りまとわりつくように燃えている。


「な、なんだ、このまとわりつく炎は!」


 必死で腕の炎を消した『魔導の博士』だったが、それなりのダメージを受けてしまっていた。

 だが吸血魔物の超絶回復能力で、すぐに回復したのだった。


「ほほう……。かなり変わった盾だな……。お前を倒して、それをいただくとするか! 優秀な盾があってもワシの動きについて来れなければ、意味がないぞ!」


 『魔導の博士』がニヤッと笑った。

 そして、高速移動してジョージの背後から蹴りを入れた!


 ——バンッ


 ジョージは、再び大きく吹っ飛ばされた。


 だがまだ気力を失っていないジョージは、立ち上がり盾を構えた。


 すると……『炎盾ホタテ』が教えてくれるかのごとく、発動真言コマンドワードが頭に浮かんだのだった。


「燃え上がれ! 炎盾ホタテ開柱かいばしら!」


 ジョージが叫ぶと瞬く間に、『炎盾ホタテ』の炎が広がり、ジョージの周囲を炎の円形の壁が包んだ。


 全方位を、炎の壁でガードした状態になったのだった。

 この状態であれば、『魔導の博士』の動きについていけなくても、『魔導の博士』が攻撃してくればダメージを与えることができる。


「なに! ……そんな小細工ができるとは……。だが力の差は歴然だ! ふふ、いつまで持つかな……?」


 そう言うと『魔導の博士』は、連続の蹴りを放った。

 だがサークル状の炎の壁に阻まれ、ジョージにダメージを与えることはできなかった。

 そして、『炎盾ホタテ』のまとわりつく炎に足を焼かれ、逆にダメージを受けていた。


 急いで足の炎を消した『魔導の博士』が、苦々しい表情でジョージを睨みつけた。


「小賢しい奴め……」


 イラついた『魔導の博士』は、ジョージの持っている『炎盾ホタテ』に狙いを定め、炎がまとわりつくのも気にせず、左右の拳を連打した!

 そして最後に吸血魔物となって出現している胸のサメ頭で、『炎盾ホタテ』に齧りつくと力任せに空中に放り投げてしまった!


 これによって、ジョージの周りを包んでいた炎の円形防御壁は解除されてしまった。


 この力任せの攻撃で『魔導の博士』は、両腕とサメ頭は大きな火傷のダメージを受けたが、すぐにまとわりつく炎を消して態勢を整えていた。

 ある程度ダメージを受けても、超絶回復能力ですぐに回復できることを計算ずくでの攻撃だったのだ。


「ちくしょう……。まずい……なんとかしなければ……」


冷刀レイトウ 真黒マグロ』を握り、気合を込めた途端、新たな発動真言コマンドワードがジョージの頭に思い浮かんだ。


「え! ……なにそれ!? まっいっか。やってみよう……。マグロの解体ショー!」


 ジョージが発動真言コマンドワードを呟くと……


 『冷刀レイトウ 真黒マグロ』が、黒光りして蒸気を発した!


 そして次の瞬間には、マグロの頭の部分が分離して浮遊し、体は五枚におろされたように分離した。

 真ん中の骨の部分は、しっぽの柄と繋がり剣になっているのであった。

 そして両サイドの身の部分は、四つに分かれて、マグロ頭同様に空中に浮いた状態になっている。


 マグロの左右の胴体は、防御中心のパーツで、マグロ頭は攻撃用のパーツという構成になっているのだった。

 それぞれのパーツは縦横無尽に動き、オールレンジ攻撃ができるのである。

 ジョージの念に呼応して自由に動き、また、念による指示を受けて自律的にも稼働するという機能を持っているのである。

 このロボットアニメのビット兵器のような機能を知ったら、グリムは大いに感動したに違いない。


 突撃してくる『魔導の博士』の攻撃を、胴体パーツが盾となって受け止める。


 一瞬止まった『魔導の博士』を逃すことなく、頭パーツが攻撃を加えた。


 マグロの口から冷凍光線を発射して、『魔導の博士』の左足を地面に縫い止め、そのまま凍らせてしまったのだ。

 左足を固められた『魔導の博士』は、完全に高速移動を封じられた!


 この好機を逃さず、ジョージは次のコマンドを発動した!

 またもや、頭の中に発動真言コマンドワードが閃めいたのだった。


「刺身三昧ざんまい! 赤身包丁、中トロダガー、大トロ手裏剣!」


 ジョージは、胸の前で手をパンと合わせると、左右に広げるという独特のポーズをとった。


 これにより左右四つの胴体パーツに内蔵されていたいくつもの『赤身包丁』『中トロダガー』『大トロ手裏剣』が射出され、刺身……まさに“刺す身”となって『魔導の博士』を切り刻んだ。


 肉の山になってしまった『魔導の博士』だが、吸血魔物の超絶再生能力ですぐに再生が始まっていた。


 その肉の山にマグロ頭が近づくと、目からドロドロの液体を放出した。

 グリムが見たら「コラーゲンかい!?」とツッコミを入れたであろう液体は、実は高性能冷凍ジェルなのであった。

 瞬間冷却された肉片は、もう再生することができなくなっていた。

『魔導の博士』の超絶再生を封じたのだった。


 最後にジョージは、氷塊となった肉片に『炎盾ホタテ』を当てがい、魔力を通し炎を纏わせた。

 まとわりつく炎は完全に氷塊を覆い尽くし、氷を溶かした後に『魔導の博士』だった肉片を焼き尽くしていった。

 肉片状態では、纏わりつく炎を払うことができず『魔導の博士』は、成すすべなく完全に焼却されてしまったのだった。


「ふう……助かった…」


 ほっとしたジョージは、そのまま力が抜け、尻餅をついてしまった。


「ご苦労さん、ジョージ! 凄い戦いだったね!」


 突然そう言いながら、彼が兄貴と慕うグリムが現れた。


 彼の使い魔ファミリアである『スピリット・グラウンドオクトパス』のオクティと、仲間の虫馬『サソリバギー』のスコピンも一緒だ。

 もちろんグリムの仲間たちもいる。


 彼らは異変に気づき、すぐに駆けつけていたのだが、グリムの指示で戦いの様子を見守っていたのである。

 もちろん、グリムは危なくなればすぐに助けに入るつもりでいたのだが、『伝説の秘宝級レジェンズ』の武具の力を引き出せれば倒せる可能性があると考え、見守ることにしたのだった。


「え……どうして……。兄貴……見てたなら助けてよ……」


 ジョージが半泣き顔で言った。


「ごめんごめん、助けるつもりではいたけど……あまりにも素晴らしい戦いだったから見とれちゃって……」


 グリムは自分のことのように嬉しい笑顔を作っていた。


「俺ってば、かっごよがったが!? いやー、あんなやづ、朝飯前だけんどね! んだ、んだ!」


 照れ臭そうに体をモジモジさせたジョージは、完全に訛ってしまっていた……。



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