420.ケニー、フルバースト!

 ヘルシング伯爵領の南東の端にある大河沿いの都市『アンシング市』、ここにも『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちが、出現していた。


 すぐに街の衛兵隊が対応に当たっているが、一般的な衛兵はレベル15前後なのでレベル的にかなう相手ではない。

吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちは、レベル35だであり、隊長クラスの実力がないとまともに戦うことはできないのだ。


 そんな中 、一人獅子奮迅の働きをしている女性がいた。


 彼女の名はサリイ、元冒険者で、現在は『フェアリー商会』の幹部なのだ。

 この『アンシング市』の真北で同じ大河沿いの町『サングの街』に、『フェアリーパン』の立ち上げ指導のために訪れていた彼女は、市場調査と特産品の買い出しのために、『アンシング市』にちょうど着いたところだった。

 マナゾン大河沿いにあるヘルシング伯爵領の四つの市町を運航する客船で船着場に、到着してすぐに襲撃が始まったのだった。


 元冒険者の彼女は、すぐに状況を判断し、高さのある建物の屋根に登って上空の敵の殲滅に取りかかった。

 魔法カバンから弓を取り出し、上空の『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちに向けて連続発射した。


 レベル38のサリイが放つ弓の連射は、瞬く間に数十体の『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちを射落していった。


 だが、この都市に出現した『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちも数百体いて、圧倒的に不利な状況であった。


 矢で数多くの『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちを射落したために、その周囲の個体の敵意はサリイに集中した。


 そして集団となって、サリイに襲いかかるのだった!


「ふふ、逆に好都合よ! 火魔法火の大波ファイアウェーブ!」


 サリイが叫びながら両手を前に突き出すと、手のひらの少し先から炎が出現し、それが大きな波のように広がり襲い来る『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちを飲み込んでいった!

 その魔法を発動しながら、その場でくるりと三百六十度回転し、周囲に波を走らせた。


 サリイめがけて襲ってきていた数十体は、これにより炎に焼かれて次々と下に落ちていった。


 冒険者だった頃の彼女は、『斥候』という周辺調査や魔物の釣り出しなどを担当するポジションをすることが多かったが、剣も槍も弓も魔法までも使うオールラウンダーでもあったのだ。


「それにしても……数が多すぎる……。このままでは持ちそうにない……」


 サリイが呟いた時だった……突然背後に気配を感じ、素早く振り向く同時にバックステップで距離をとった。


 だがそこに現れたのは、サリイの知っている人物だった。


「サリイさん、もう大丈夫です」


「え、ケ、ケニーさん……どうして……?」


 サリイは、驚きで言葉が続かなかった。


 彼女の前に現れたのは、最近『フェアリー商会』の幹部として顔を出すようになったケニーだった。

 そう彼女は、大森林の守護統括『アラクネロード』のケニーなのである。

『種族固有スキル』の『分離行動』によって、人型ケニーと蜘蛛型ケニーに別れた後の人型の分離体が現れているので、見た目には普通の人間のように見える。

 彼女はこの能力が発現して以降、度々『フェアリー商会』に顔を出して、サーヤの仕事を手伝ったりしていたので、幹部であるサリイはケニーのことを知っていたのである。


「ここの敵は、私に任せて下さい。あなたは、地上の敵をお願いします。衛兵に何者か問われたときは、『妖精女神の使徒』と答えてください!」


 ケニーは、上空の敵を注視しながら、サリイに指示を出した。


「は、はい。わかりました。でも……ケニーさん一人では……」


「大丈夫です。他にも仲間が来てますから」


 ケニーを案じたサリイだったが、その言葉を受けて軽く頷いた後、次の行動に移った。

 屋根から地上に降りて、地上にいる敵の迎撃を開始したのだった。



「あるじ殿のために、誰一人として死なせません! さて……全開で行きますよ! 糸織錬金——剛糸弾! フルバースト!!」


 ケニーがそう叫ぶと、いつも糸を放出している両手の指の先から特殊な糸玉の弾丸がマシンガンのように連続発射された!


 十本の指から広範囲に発射された弾丸は、『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちを次々に打ち落としていった。まさに一掃したのである。


 これは通常放出している糸を、超高速で弾丸に織り上げて、糸を飛ばすイメージを強化して超高速で射出する攻撃なのである。


 レベル62のケニーの攻撃は、完全な格下の『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちを瞬殺したのだった。


『ミノタウロスの小迷宮』でのレベル上げ合宿に伴い、レベル62になったケニーは、元々の『種族固有スキル』の『糸織錬金』』もスキルレベルが上がり、新しい技コマンドが使えるようになっていたのだった。


 ケニーは、上空を覆い尽くしていた数百体の『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちに対し、連続でこの攻撃を仕掛け、その七割を殲滅していった。


 そして残りの地上に降りた『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちは、ケニー配下のクモ軍団が確実に仕留めていった。

 ケニーの副官のジャン、ジャピ、ジャグを中心にした『マナ・ジャンピング・スパイダー』部隊、『マナ・ナゲナワ・スパイダー』、『マナ・トラップドア・スパイダー』、『マナ・ウォータースパイダー』たちも、みんなレベルアップしている。

 レベル50を超えている精鋭の蜘蛛軍団は、瞬く間に、『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちを殲滅してしまった。



 この『アンシング市』でも、ケニーたちの活躍で死者を出すことなく敵を殲滅することができたのだった。


 蜘蛛の浄魔たちに救われた市民たちは、その後、クモを守り神として崇めるようになり、家の入口の両脇にクモの置物が魔除けとして飾られるようになるのである。

 そして木材で作ったクモの置物が、名産品の一つとなるのであった。

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