419.黄金の龍の、衝撃。
「きゃあー、助けて!」
「逃げろ!」
「皆さん、早くこっちに避難を!」
ヘルシング伯爵領の南の都市『タンシング市』に、住民の悲鳴と衛兵の叫びが広がっていく。
この都市にも、『
突然の出現に、住民は恐れ、逃げ惑い、衛兵隊は混乱するばかりだった。
そして、それを嘲笑うかのように、数百体の『
誰もがこの世の終わりかと絶望している中、さらなる絶望を感じる生物が上空に出現した。
それを目撃した誰もが、空を飛ぶ巨大な魚の魔物が現れたと思い、更なる絶望の淵にたたき落とされたのだった。
だが……次の瞬間、それは一変した!
「住民のみんな! うちらが来たからもう安心だし! オーナーのグリム……いや、今のは無かったことにしてほしいし! うちらは、妖精女神の使徒だから、みんなを助けるし! 衛兵の人はみんなを避難させてほしいし! うちらアゲアゲで、すぐにボコっちゅうから! まじまんじ!」
突然、市内全域にそんな声が響いた。
そう、ここに現れたのはグリムの仲間の『ライジングカープ』のキンちゃんたちだった。
キンちゃんたちは、この領を救うためにやってきたのだ。
サーヤの転移で『領都ヘルシング』に移動して、そこから高速で空を泳ぎ、南の領境の都市『タンシング市』に救援にきたのだった。
だが住民たちは、訳が分からず混乱したままだった。
「まぁ……うちらのプリティーな姿に見とれて混乱するのは、しょうがないし。とりあえず敵の数が多いから、一発で減らすし! 周辺被害を出すとオーナーに怒られっから、うちが一人でやっから、みんなはフォローしてほしいし!」
「「「はい!」」」
周囲にいた他の『ライジングカープ』たちが、一斉に返事をして広範囲に散開した。
「うちは、ドラゴン王にきっとなるし! 『登竜門』ッ! 」
キンちゃんはそう叫び、レアな『種族固有スキル』である『登竜門』を発動した!
ヒーローの変身シーンのような、ド派手なエフェクトが展開され、全身から水流をほとばしらせたキンちゃんが、滝を登り巨大で豪奢な門をくぐった!
そして、目が眩むほどの光を発する“黄金の龍”となって出現した!
全身を黄金の鱗に包まれ、所々にピンクの鱗がアクセントのように、きれいに配置されている。
眩しく、そして美しい龍になったのだ。
“威風堂々”とした“黄金の龍”の光が、恐怖に震える人々を導くように照らした。
「周辺被害を出さないように、上の奴だけ狙うし! キンちゃんの『桜吹雪』目に焼きつけやがれだし!」
キンちゃんがそう叫ぶと、『
キンちゃんの黄金の体の所々配置されていたピンクの鱗が一斉に剥がれ、鋭利な刃となって舞い上がる。
そして、まるで“桜吹雪”のように渦を巻きながら、いくつもの高速回転の鱗刃となって、『
渦を巻く“桜吹雪”が、高速で円を描くように移動して上空の『
これにより上空にいた『
「残りは、みんなで各個撃破だし! アーチャーチームとアロワナチームもよろしくだし!」
キンちゃんがそう叫ぶと、他の『ライジングカープ』たちと、同行していた『マナ・アーチャーフィッシュ』のチームと『マナ・アロワナ』のチームが一斉に行動を開始した。
この二つの魚型チームは、大森林に住む浄魔で『浮遊』スキルと『空泳』スキルの組み合わせで空を泳ぎ、そして自在に静止して空中戦ができるのだ。
『マナ・アーチャーフィッシュ』は、口から水鉄砲を発射し敵を狙撃するスナイパーであり、水から出た空中にいる状態でも、その能力は発揮できるのだった。
次々に、街に散らばる『
ただ水の中にないために、水を補充する必要があるが、用意周到な彼らは、『共有スキル』にセットされているアイテムボックスの中に水を十分に蓄えていて、それを体内に補充しながら狙撃を続けていた。
『マナ・アロワナ』は、凄いスピードで空中を泳ぎ、住民を襲っている『
そして体を打ち付ける強力な打撃も繰り出して倒していた。
鯉のぼりサイズで体の大きな『ライジングカープ』たちは、主に空中の敵を担当し、街に降りて散らばってしまった敵は『マナ・アーチャーフィッシュ』と『マナ・アロワナ』のチームが対応するという戦術だった。
彼らは皆、『ミノタウロスの小迷宮』での合宿を経て、レベル50以上になっているので、倒すこと自体は楽勝なのであった。
問題はいかに被害を出さずに早く殲滅するか、住民を助けるか、ということであった。
このために、実は彼らにはもう一人同行者がいたのだ。
兎の亜人のミルキーである。
万が一、混乱状態が抑えられなかった場合に備え、人型のメンバーとして住民を安心させるために同行していたのだ。
ここでは、救援メンバーを魔物と勘違いして襲うなどの混乱が生じなかったので、ミルキーはその俊足を生かして、住民たちの救出と回復に専念していたのだ。
実はミルキーの的確な判断と、衛兵たちへの効果的な指示によって、住民の救援体制が機能していたのだった。
混乱していた衛兵隊だが、なぜか名も知らぬ兎耳の少女の指示に従い、効果的な行動が取れていたのだ。
これは、『妖精女神の使徒』と名乗った生物たちの活躍を目の当たりにしたこともあるが、ミルキーの堂々とした指図に、自然と衛兵たちが従ったのだった。
彼女は、戦闘も、仕事も、持ち前の一生懸命さで頑張り、心身ともに急成長していた。
これにより、ある種のカリスマ性すら身につけていたのだ。
こうして、『ヘルシング伯爵領』第二の都市『タンシング市』も、死者を出すことなくグリムの仲間たちの活躍によって救われたのだった。
そしてこの街は後日……『コウリュウド王国』の守り神である黄金の竜『
この街の人たちが目撃した『ライジングカープ』のキンちゃんの『
そして『妖精女神の使徒』と名乗ったことにより、ピグシード辺境伯領を救ったと評判になっている妖精女神とその使徒たちは、この国の守護神であり指導神である『黄龍』の使いなのではないかと、まことしやかに国中で噂されるようになるのである。
このことが、グリムたちに大きな影響与えることになるのだが、今の彼らは知る由もない。
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