409.変わり果てた、親友。

「この者どもを捕らえよ!」


 白い軍馬に乗った金髪の美人騎士は、振り上げた剣を降ろしながら叫んだ。


「「「はは!」」」


 騎士風の兵士たちは馬から降り、俺たちのほうに歩み寄ってくる。

 みんな剣を抜いて構えている!

 捕らえるというよりも……斬り殺す気満々のようだ……。


「キャロライン! 私だ! エレナだ! なにをするのだ!」


 エレナさんが信じられないといった表情で、女騎士に呼びかける。


「うるさい! エレナ様を語る不届き者が! 斬り殺しても構わん! やれ!」


 キャロラインと呼ばれた美人騎士は、取り付く島もない感じで部下に命令を下した。


「馬鹿な……お前たちもやめるのだ! 私が誰なのかわからんのか!」


 兵士たちも、お構いなしに斬りかかってきた。


「なんてバカなことを……」


 エレナさんは、呟きながら兵士の剣を避け、殴り飛ばした!

 五人の兵士に対し、圧倒的な体術で拳と蹴りを繰り出して、全員を吹き飛ばしてしまった。


 今度は金髪美人騎士が、軍馬から降りてエレナさんに対し構えをとっている。


 エレナさんは、戦うことに戸惑いがあるようだ。


 俺は金髪美人騎士を『波動鑑定』する……


 なに!


 ステータス画面が乱れる……

 俺は再度集中する……

 ……………………これは!?

  一瞬、別のステータス画面が表示される!


 ……どうもステータスが偽装されているようだ。

『正義の爪痕』の構成員が偽装していた状態と非常に似ている……

 まるで『認識阻害薬』を使った状態みたいだ……。


 俺は、時々表示される本来のステータスと思われるものに集中する!


 …………え!


 なんと……彼女は人ではない……『種族名』が『中級吸血鬼 ヴァンパイアナイト』なっている。


 だが『名称』は、エレナさんが呼んだ通りキャロラインとなっている。

 正確にはキャロライン=クルースとなっている。


 そして『状態』が、『暗示』状態となっている。


 偽装されたステータスでは、人族となっていて『状態』も空白になっている。


 一体どういうことなんだ……?


 そして彼女は、レベルが48もある。


 エレナさんについても、非常時なのでさっと鑑定させてもらう。


 もちろん『種族』は人族で、レベルは55もある。


 レベル的には大丈夫だと思うが、相手は『ヴァンパイアナイト』だ。

 そしておそらく、そのことを彼女は知らない。

 エレナさんは『鑑定』スキルを持っているようだが、普通の『鑑定』スキルでは、このステータス偽装は見破れないだろう。


「エレナ様、彼女は『ヴァンパイアナイト』です!」


 俺がそう叫ぶと、エレナさんは一瞬振り向いて、訝しげな顔をした。


「なにを言っているんです! キャロラインは、わが親友です! 『ヴァンパイアナイト』などであるはずがない! それにキャロラインは私と同じ『ヴァンパイアハンター』です! 『ヴァンパイア』になるなど……」


 そう言いながらエレナさんは、バックステップを取り距離を保った。

 そして、キャロラインさんを見つめている。

 おそらく『鑑定』スキルを使っているのだろう。


「私には『鑑定』スキルがある。やはりキャロラインは『ヴァンパイアナイト』などではない!」


 エレナさんは、少しキレ気味に声を荒らげた。


「じゃあなぜ、親友のエレナさんを襲っているんです? ステータスは偽装されています! そして彼女は『暗示』状態です!」


 俺は再度そう叫んだ!


「馬鹿な……」


 言いかけたエレナさんに、金髪騎士が斬り込んでいった。


 エレナさんは、一メートルくらいの銀色の棍棒を二つ取り出し、剣を受け止めた。


 どうやらエレナさんは格闘以外では、短棍を使った二刀流で戦うようだ。


 短棍二つをクロスさせ剣を受け止めると、もう一度バックステップで距離をとった。


「ま、まさか……」


 エレナさんの様子がおかしい……

 もしかしたら……今の攻撃で、なにかを感じ取ったのかもしれない。


「キャ、キャロライン……まさか……ほんとに吸血鬼に……」


 エレナさんが少し呆然としたその隙をついて、金髪騎士は超加速で突きを打ち込んだ!


 この動き……まさに吸血鬼の動きだ。

 噂によると『ヴァンパイアハンター』も吸血鬼並みの動きができるらしいので、断言はできないが吸血鬼の動きにしか見えない。


 エレナさんはギリギリ突きを弾いたが、一瞬動き出しが遅れたために弾いた剣で右腕を斬られてしまっている。


 このままではまずそうなので、介入したほうがいいだろう。


 俺は、通常装備の『魔法鞭』を取り出し、連続で放つ!


 我ながら、かなりの鞭さばきだが、金髪美人騎士は人間離れした動きで、鞭の軌道ギリギリで交わし続けている。


 なかなかに厄介だ……。

 本気の鞭スピードなら捉えられると思うが、力の加減上これ以上はできない。

 体をバラバラにして、殺してしまう可能性があるからだ。

 魔物相手ならそれでもいいが、今回はそういうわけにはいかない。


 だが、この攻防はすぐに終わった。


 一瞬のうちに、金髪騎士は地面に転がっている。


 エレナさんが、急加速でスライディングタックルのように飛び込んで、金髪騎士の足を払ったのだ。

 二人はともに地面に転がり、土煙を上げている。

 俺はすぐに近づいて、『魔法の鞭』を巻き付けた。


 この鞭に巻き付けられていると、麻痺状態で動けなくなるので、これで大丈夫だろう。


 先に転がっていた五人の兵士は、ニアとナビーを中心にした俺の仲間たちが既に拘束している。


「エレナ様、大丈夫ですか?」


 俺は彼女に手を差し伸べて起こした。


「ええ、大丈夫です。しかしなぜ……あなたが言う通りキャロラインは、どうやら吸血鬼になってしまったようです。『ヴァンパイアハンター』としてわかるのです。……確かにステータスを偽装しているのでしょう……」


「おそらく……なんらかの手段で囚われ吸血鬼にされたのでしょう。その後は、『暗示』をかけられ支配されていたのだと思います」


 吸血鬼にされる工程は、エレナさんも十分わかっていると思うが、一瞬でできるわけではないので囚われたのだろう。


「キャロラインは、私と同じヴァンパイアハンターをしていたのです。『暗示』には強い耐性を持っていますが、吸血鬼に変性されてしまえば抗えないでしょう。しかしなぜこんなことに……。キャロラインは、私の親友で、とても強かった……心も体も……」


 そう言いながらエレナさんは、唇を噛みしめ目に涙を滲ませた。


「『暗示』状態は、ニアの魔法で解くことができます」


 俺はそう言って、ニアに『土魔法——土の癒し』をかけてもらうことにした。


 これは俺が取得したものだが、『共有スキル』にセットしてあるので、みんな使えるのだ。

 そして俺がやるよりも、妖精女神のニアがやった方がいいだろうと思ったのだ。


 ——キラキラした光が降り注ぐ。


『波動鑑定』で『状態』表示を見て、『暗示』状態の表示がなくなったことを確認し、魔法の鞭を外した。


 すぐにキャロラインさんは意識を取り戻し、声を出さないまま涙を流しだした。


「キャロライン、私だ、エレナだ!」


「エ、エレナ……エレナ……戻ってきてくれたの!?」


「ああ、そうだ! 戻ってきた! 一体なにが……どうして……」


  二人は、嗚咽しながら抱きしめ合っている。


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