389.傷ついた、子供たち。
俺たちの話を聞いていた花売りの少女が、恐る恐る話しかけてきた。
「あの……この子たちを助けてくれるのですか……? 親無し子として嫌われているこの子たちでも……助けてくれるの……?」
そう言って、少女は泣き出してしまった。
「もちろんだよ。おじさんはね、子供が大好きだから、助けたいんだ」
俺は少女を抱きしめながら、優しくそう言った。
「そうなのだ! 助けるのだ! リリイも親はいないのだ!」
「チャッピーも、お父さんもお母さんももういないなの〜。でも幸せになれるなの〜」
「あるじは、助けてくれるよ。ぽかぽかだよ」
「みんな大丈夫、マスターとオイラに任しとけ!」
リリイ、チャッピー、リン、シチミも少女を励ますようにそう言った。
それにしても……幼女姿のリンとシチミが『あるじ』とか『マスター』というのは……違和感しかない……まぁ今はどうでもいいが……。
「ほ、ほんとうに! すごい! お姉ちゃんみたい。でもお兄さん、まだおじさんじゃないでしょ!? へんなの……うう……」
泣き顔だった少女は、途中で少し笑みを浮かべて、でもまた泣き出してしまった。
泣き笑いという感じだ。
少女に笑われた通り……確かに“おじさん”というのはおかしい話だった……。
見た目は十八歳のお兄さんだからね……。
でも心は……だんだん若返ってきてる感じはするけど……やっぱり涙もろいおじさんのままなのです……。
それにしても……こんなに賑わっている街に、こんな影の部分があるなんて……。
身寄りがない子供たちが放置されているなんて……一体この街の守護はなにをやっているんだ!
なんかだんだん……頭にきた!
まぁここで問題を起こすわけにはいかないので、この街を守護のことはほっとくしかないが……。
「お兄さん、私の家に来て。お姉ちゃんに紹介したいから!」
そう言って少女に手を引っ張られた。
「行ってもいいけど……。あ、そういえば俺は、グリムって言うんだ。グリムって呼んでくれていいよ。君は、なんていうの?」
俺は今更ながら自己紹介して、少女の名前を尋ねた。
「私はデイジーです」
少しはにかみながら、そう名乗ってくれた少女に、リリイ、チャッピー、リン、シチミも自己紹介をしていた。
デイジーちゃんに促されるままついていくと、外壁沿いの日当たりの悪い場所に着いた。
さっきの子供たちがいた路地裏から真西に進んだ場所だった。
隙間だらけのバラック小屋みたいな建物だ。
中を覗くと五歳くらいの子供が五人いた。
そしてデイジーちゃんと同じ八歳くらいの子も三人いる。
一人は女の子で、足を怪我している。骨折したのか添え木がしてある。
他の二人は男の子で、一人は左足の膝から下がない……。
もう一人は……左手が肩の下からなくなっている。
「お姉ちゃんは、まだ帰ってないみたい。今日は早く帰るって言ってたのに……」
デイジーちゃんが、残念そうな顔をした。
「ここにいる子たちで、全員かい?」
「うん、そうだよ。みんなお姉ちゃんが助けてくれたの」
「お姉ちゃんは、どんなお仕事をしているんだい?」
「うーん……よくわかんない。“なんでも屋さん”だって言ってたけど……。私たちをいじめてた悪い大人たちをやっつけるって言ってたときもあるけど……」
仕事は、よくわからないわけね……。
この子たちを食べさせていくのは、大変だろうに……
いろいろ話を聞いてみたかったが、留守だからしょうがないね。
ただここの子たちは、ほってはおけない。
俺はデイジーちゃんに紹介してもらい、子供たちに挨拶をした。
もちろんリリイたちもだ。
そして、魔法薬の『身体力回復薬』を出して、怪我をしている三人に飲ませた。
『
大森林の『マナ・ハキリアント』謹製の回復薬なら『
もちろんその方がいいのだが、この子たちの状態を見る限り、体力が心配だったのだ。
部位欠損を後から治す場合は、かなり体力を消耗するという話を聞いているからね。
それにニアのスキルなら、部位欠損を確実に治すことができるから、様子を見ながらニアに治してもらった方がいいと思ったのだ。
それゆえに、『中級』の『身体力回復薬』を与えたのだが、骨折していた女の子のほうは完全に治ってしまったようだ。
手や足を失っている男の子たちは、さすがに手足が生えてくるということはなかった。
だが元気にはなったようだ。
俺は子供たちに『スピピーチ』『マナップル』『マナウンシュウ』『マナバナナ』という霊果セットを出して、食べさせてあげた。
それぞれ気力回復効果、魔力回復効果、身体力回復効果、スタミナ力回復効果があるから、総合的に元気になってくれると思う。
リリイたちは、いつもは自分も喜んで食べるが、今回は五歳くらいの子たちの面倒を見て食べさせてあげている。
手足を失っている子たちが、どうして失ってしまったのか……どうしても気になったので、尋ねてみた。
「ぼくは、盗んでないのに衛兵に腕を斬られた」
「俺は、貴族に捕まって足を斬られた。生きてる意味がないって言われた」
なんと……俺は言葉を失った……。
衛兵に、貴族……本来弱い者を守らなきゃいけない者たちが……。…… 許せない!
「お姉ちゃんが助けてくれなかったら、もっと斬られてた」
「俺も多分死んでた」
二人はそう続けた。
お姉ちゃんが救い出してくれたのか……。
だがよく考えてみると……そんな状況で子供を救い出せるお姉ちゃんっていったい……
やはり会って、直接話を聞いてみたい。
俺は、デイジーちゃんたちに、また来ると告げてその場を立ち去った。
午後にでもニアを連れて、再度訪れようと思っている。
そのときに“お姉ちゃん”という人と、話ができればと思っている。
まずはメイン通りに戻って、『商人ギルド』を探してみよう。
不動産の購入なら、多分ギルドで斡旋してくれるだろう。
もしくは取り扱っている商会があれば、教えてくれるだろう。
西門前広場に戻って、さっきの『イカ焼き』の屋台のおじさんに、『商人ギルド』の場所を尋ねてみた。
「『商人ギルド』なら、このメイン通りを東に行って中央広場の一つ北側のブロックにあるよ。役所があって、その隣さぁ」
「ありがとうございます」
「兄ちゃん、行商人かい?」
「ええ、そうなんです」
「へーすごいね。若いのに……。受付にいる銀髪の娘のところに行きな! その子なら、親身になってくれるよ」
屋台のおじさんは、親切にそんなことまで教えてくれた。
俺は『家馬車』に戻って、馬車で向かうことにした。
ニアたち留守番組に、今までの経緯を話した。
「なにそれ! この街は、こんなに賑やかで栄えているのに、信じらんない! もうその兵士とか貴族とかやっつけちゃうしかないでしょ!」
やばいやばい……ニアさんがヒートアップしてしまっている……。
俺もその気持ちはよくわかるけどね……。
「悪い奴は、やっつけちゃうのだ!」
「チャッピーも、子供たち助けるなの!」
ニアにつられて、リリイとチャッピーも熱くなってきてしまった……。
「俺も同じ気持ちだけど……今騒ぎを起こして目立つわけにはいかないから、まずは子供たちを助けることを考えよう。悪党は……あ、そうだ! 『闇の掃除人』で行くか!」
俺は、ニアたちをなだめようと話してる途中で、『闇の掃除人』で活動すればいいことに気がついた。
「そうね! それよ!」
ニアは、思いっきり悪い笑みを浮かべている。
でも……基本的に……『闇の掃除人』に、ニアさんは入っていないんですけど……
ニアさんの存在が特別すぎて……羽根妖精は珍しいから、すぐ俺たちだってばれちゃうと思うんだよね。
だから『闇の掃除人』は、基本的に俺一人の活動の想定なんですけど……。
「でもさぁ、貴族にやられたって……こんな小さな街……貴族なんて守護しかいないんじゃないの。私たちが最初に行った『マグネの街』の守護もひどい奴だったし……」
ニアは少し落ち着きを取り戻して、鋭い考察をした。
実は、俺もそう考えていたのだ。
もしそうだとしたら、『闇の掃除人』で捕まえたとしても、突き出す場所がない。
衛兵隊の隊長とかもグルだったら、もっと最悪だし。
まぁグルとまではいかなかったとしても、普通は衛兵隊は守護には逆らえないからね。
やはり状況をもう少し調べてから、慎重に動いたほうがよさそうだ。
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