323.想定外の、突入。
しばらく川を遡ると、川の曲りに合わせるようなかたちで大きな入江が現れた。
どうやらここがキューちゃんの家のようだ。
入江にいたイルカたちが、一斉に船に向かって泳いでくる。
キューちゃんと同じ白いイルカが、五頭が近づいてくる。
キューちゃんは寄ってくる仲間の元に近づいて、なにやら話している。
(マスター、私の仲間たちもみんな仲間になりたいそうです)
仲間たちとの話を終えたキューちゃんが、船に近づき念話で俺にそう言った。
(仲間にするのはいいけど、ほんとにみんな希望しているの?)
(はい。みんなマスターたちの強さと温かさを感じ取っているのです。ぜひお仲間にお加えください)
キューちゃんがそう言うと、他のイルカたちも身体を半分以上水面から出し、頭を下げるような動作を小刻みに繰り返した。
まぁ断る理由はないけどね……。
このイルカたちほんとに可愛いし……『川イルカ軍団』を結成してもいいかもしれない。
『正義の爪痕』は船での移動もしているようだから、今後はそういう情報も拾ってくれるかもしれないし……。
「いいよ。俺はグリム、これからよろしくね!」
「キュー、キュー、キュー」
俺が了承すると、みんな嬉しそうに三回鳴いて、水面からジャンプして空中回転した!
そして念話でみんなから挨拶があった。
特にリーダーはいなく、みんな若いイルカのようだ。
親を失ったり、はぐれてしまった子たちが集まってグループを作ったようだ。
俺の仲間になったことで『共有スキル』が使えるから、もうサメに追われても命を奪われるようなことはないだろう。
そして『共有スキル』には『浮遊』スキルと『空泳』スキルがセットされているので、それを組み合わせれば空を泳ぐこともできるはずだ。
まぁそれは、おいおいでいいと思うが……。
水の中の方が気持ちいいだろうし、敵と戦うような特殊な状況でもなければ、無理に空を泳ぐ必要はないと思うんだよね。
ちなみに『空泳』スキルだけでも、空を泳ぐことができのだが、基本的には泳ぎ続けていないと地面に落下してしまうのだ。
『浮遊』スキルを組み合わせることによって、空中に浮いた状態で静止できるし、休むこともできるのである。
キューちゃんの話では、急に川サメが増えて大河やその周辺の支流に住んでいるイルカに大きな被害が出ているようだ。
川サメは口に入るものは、なんでも食べてしまうため川の魚もかなり減少しているらしい。
この大河や周辺の支流には、魔物が出ることはあまりないため、現時点では川サメが食物連鎖の頂点に立っているようだ。
キューちゃんの話によると人族の船が川サメに襲われることもあるようで、最近は船自体の運航も少なくなっているとのことだ。
まぁこれはピグシード辺境伯領の川沿いの三つの市町がすべて閉鎖されていて、一切船が出ていないということも影響しているのだろうけどね。
ただいずれにしても、川サメが増えすぎて困っているなら、多少駆除したほうがいいかもしれない。
帰るときにでも、何体か間引きしていくか……。
大量のフカヒレがゲットできそうだ。
そして栄養補助食品として肝油ドロップでも作ろうかな……。
サメは、カマボコの原料にもなったはずだから、カマボコを作るのもいいかもしれない!
異世界で、『板わさ』で一杯!
『とりあえず生』を飲みながら、『板わさ』……いいなぁ。
よだれが出そうだ……。
そうだ! ワサビを探さないと!
大森林の中に自生してないかな……。
仲間たちに『絆』通信で呼びかけておこう。
この領内にも山がいくつもあるから、清流を探せばあるかもしれない。
スライムたちの捜査網も活用するか!
もうちょっとしたクエスト気分になってきた。
練り物として串に刺して、油で揚げて屋台で販売しても良さそうだ。
イカやタコを混ぜたり野菜を混ぜたり、バリエーションも作れるしね。
『おにぎり』『ホットドッグ』『コロッケ』『フレッシュジュース』『かき氷』に続く第六弾は、『カマボコ揚げ』にしてもいいかもしれない。
フライにしたら、白身魚のフライのように美味しくならないかなぁ……。
今度試してみよう。
おいしい白身魚フライになったら、『フィッシュバーガー』にしてみてもいいかもしれない。
そういえばハンバーガー……食べたいなぁ……。
急に食べたくなってきた。
『フェアリー商会』でハンバーガーショップを作ってみるかな……。
もしヒットしたら……チェーン展開で広げても面白いかもしれない。
というかヒットする予感しかしないけどね!
サメの活用法を含め、後でゆっくりと考えてみよう。なんかすごく楽しみだ!
『エンペラースライム』のリンちゃんの潜入調査が済むまでの間、この入江に船を止めて待つことにした。
ただ待つもなんなので、資源調査をすることにした。
決して川遊びではないのだ……決して……。
ということで、俺とリリイとチャッピーはなんと……イルカの背に乗って川を進んでいる!
一度イルカに乗ってみたかったんだよね。
イルカに乗った青年……というか中身はおじさんだけどね……。
とっても気持ちいい!
リリイとチャッピーも超楽しそうだ。
ニアもイルカの背ビレにつかまって立っているが、背が低いだけに水しぶきでビチャビチャだ。
それでもめちゃめちゃ楽しそうだが。
◇
イルカの背に乗った簡単な資源調査を終えて、船に戻った時だ!
(あるじ、女の人が殺されそうになってる。助けたい!)
アジトの潜入偵察をしているリンから、突然念話が入った。
誰かが殺されそうになっているようだ。
助ければ、おそらく潜入していることが発覚してしまうだろう。
だが、見殺しにすることなどできない。
(わかった。助けてあげて。すぐにみんな行くから、しばらく持ちこたえて!)
俺はリンにすぐに許可をだし、フォロー要員として近くに待機している『スピリット・オウル』のフウに念話を入れた。
(フウ、リンのフォローを頼む。アジトに突入してくれ!)
(はい!)
フウがすぐにフォローに動いてくれたし、今の二人のレベルならやられるようなことはないと思うが……。
「みんな!リンが危ない! すぐに行くよ!」
俺はみんなに声をかけ、すぐに救援に向かった。
こうなったらもう強行突入するしかない!
俺、ニア、リリイ、チャッピーはイルカの背に乗って、先行してアジトに向かった。
他のメンバーは、船で追いついてくる。
洞窟の中に突入すると、中は入江のような広い空間になっていて、船が何隻も止まっている。
船着場のようになっている場所から陸地に上がって、周囲の様子を伺う。
船で追いかけてきたメンバーもすぐに追いついて、船が洞窟内に入ってきた。
さすがに船の音には気づいたようで、近くにいた構成員たちが出てきて、俺たちと鉢合わせするかたちになった。
そして、一斉に襲いかかってきた。
だが、こいつらに構っている暇ない。
俺は『波動検知』でリンの気配を探る……
………………………こっちか!
「みんな、こっちだ! リンとフウとの合流が最優先だ!」
俺はみんなを先導し、リンのいる方向に走り出した。
そして追いかけてくる構成員たちは、走りながら倒していった。
いつものように『状態異常付与』スキルで、『麻痺』を付与して動けなくさせたのだ。
洞窟の中はまるでアリの巣のように入り組んでいて、通路と部屋のような空間がいくつもある。
少し進むと広い空間があり、そこにリンたちがいた。
リンとフウは、女性をかばいながら戦っている。
女性はすでに全身血だらけだ。
おそらくリンが見つけたときには、傷つけられていたのだろう。
この二人がいて傷を負わされることは、考えられないからね。
リンたちを取り囲んだ構成員たちが、連射式の『クロスボウ』を一斉に発射している。
リンとフウは自分の身を盾にして女性を守りつつ、近づく敵に『状態異常付与』スキルで『麻痺』を付与して倒している。
悪党とはいえど、人間相手の戦闘なので殺さないように戦っているのだ。
そういう縛りがなければ、今のリンとフウなら瞬殺で倒してしまうだろうが……。
だが、もう俺たちが来た!
俺たちはすぐに突入して、瞬時に構成員たちを行動不能にした。
だがこの広場には接続路が三つあり、俺たちがきた道と違う二つの道から随時構成員が駆けつけてきている。
「ニアは女性の治療を頼む! リンは念のためにニアのガードを頼む。他のみんなは、構成員たちを倒してくれ!」
「オッケー!」
「わかった! リン、がんばる!」
「リリイも、がんばるのだ!」
「チャッピーも、悪い奴やっつけちゃうなの!」
「「「はい!」」」
みんな一斉に動き出した。
俺は、治療中の女性の下に駆け寄った。
「大丈夫ですか? 他に囚われている人たちはいるんですか?」
「は、はい。奥の広場に大勢います。ど、どうか……た、助けてください……」
傷だらけの女性は、そう言うと意識を失った。
ニアのかけてくれた回復魔法で、傷もふさがり回復してきているのだが……
よく見ると……左手の肘から先がない……
なんてことだ……斬られてしまったようだ。
おそらくリンが見つけたときには、もう切断された後だったのだろう……。
「私の『種族固有スキル』の『癒しのキス』で部位欠損も治せるけど……切断された腕があれば負担も少なく治せるんだけど……。腕がない状態で再生させるのはかなり体に負担がかかるから、今の体力ではおそらく無理ね。一旦腕はそのままで、体力が十分回復してからスキルを使わないとダメだと思う……」
ニアは少し判断に迷ったようだが、そう結論を出したようだ。
「わかった。じゃぁ腕の止血をして、一旦現状での回復にとどめよう。ニアとリンは、この場を維持してくれ! 俺たちは、このアジトの制圧に取り掛かる!」
俺はこの女性をニアたちに託して、攻勢にでることにした。
構成員たちを無力化し、このアジトを制圧し、囚われた人たちを救出するのだ!
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