322.大河の、支流で。

 あれは……イルカ?


 イルカが、なにかに追われているのか……?


 後ろから、なにかが追ってきているようだ。


 水面に大きな背ビレが立っている……まるで映画に出てくる巨大サメのようだ……。


 てかサメなのか……?

 川にサメがいるのか……?

 いや……イルカもいるわけだし、サメがいても不思議ではない。

 なんといっても異世界だし……。


「あれは川イルカよ。川サメに追われてるんだわ。助けてあげないと、食べられちゃうかも!」


 ニアがそう叫んだ。


「食べられたら、かわいそうなのだ!」

「助けるしかないなの〜」


 リリイとチャッピーが川に飛び込みそうになっていたので、慌てて止めた。


「水の中じゃ戦いにくいから、ここにいて!」


 俺は二人にそう言って、ニアに視線を送った。


 ニアは、待ってましたとばかりに満足そうに頷いて、すぐに船から飛び立った。


 ニアは高速飛行でサメの頭上に到達すると、『如意輪棒』を取り出し水面に向けて垂直に構えた。

 そして魔力を通すと『如意輪棒』が下に向けて長く伸び、水面を突き刺した!


 超スピードで伸びた『如意輪棒』は、巨大サメの頭を貫通し即死させたようだ。


 伸びたままの『如意輪棒』は、サメの頭に突き刺さったままだ。

 そこに『スピリット・オウル』のフウが飛んでいき、『如意輪棒』を掴んで動き出した。

 どうやら船まで運んできてくれるようだ。


 船に近づいてきたが、十メートル以上もある巨大なサメなので船に乗せることはできない。

 俺は一旦『波動収納』に回収することにした。

 サメは、いろいろな加工で使えそうだ。

 フカヒレが食べられるかも……。

 まぁ後でゆっくり考えることにしよう。


 そんな俺たちのところに、追われていたイルカが近づいてきて水面から顔を出した。


 白い綺麗なイルカだ!

 なんかめっちゃかわいいんですけど。


 ニアの話では、この世界では大きな川には川イルカというイルカが住んでいるらしい。

 川サメがいることは少ないようだが、これほど大きな川になると川サメも生息しているということのようだ。


「キュー、キュー、キュー」


 イルカは、ありがとうとでも言うように声を出している。

 すごくかわいい。

 俺たちはみんなでイルカに手を振った。

 イルカが嬉しそうに水中から飛び出して、空中で回転した。


 まるで水族館で見るイルカのショーみたいだ。


 イルカは再び船に近づくと顔を出し、なかなか俺たちの周りから離れようとしない。


「この子……仲間になりたいんじゃないの……?」


 ニアが唐突にそんなことを言った。


「君はもしかして、俺たちの仲間になりたいのかい?」


 ニアの言葉を受けて、俺は思わずそう問いかけてしまった。


 するとイルカは嬉しそうに……


「キュー、キュー」


 二回泣いて、水面からジャンプした。


 これってもしや……


使役生物テイムド』リストを確認すると……やはり仲間になっていた。


(危ないところを助けていただき、ありがとうございました。命の恩人です。恩返しさせてください)


 イルカが念話で話しかけてきた。


 仲間になったことで、念話が通じるようになったのだ。


(怪我はないかい? 助けたからって、無理に仲間にならなくてもよかったのに……)


 俺はそう声をかけた。


(いいえ、これはなにかの縁です。必然の出会いなのです。皆様が強く、そして温かいことはすぐにわかりました。ぜひお仲間にお加えください)


 イルカはそう言うと水面から身体を半分以上出して、小刻みに頭を下げるような動作をした。

 ほんとにイルカショーみたいだ……。


(仲間になるのは構わないんだけど、君は今まで通りここで自由に暮らしてくれればいいからね。一人なのかい? 仲間はいないのかい?)


(はい。仲間と共に暮らしています。近くの支流の川に、私たちの暮らす場所があるのです)


(仲間のところに戻らなくていいのかい?)


(はい。戻ろうと思います。よろしければ一緒に来ていただけませんか。仲間たちも喜ぶと思います)


 イルカはつぶらな瞳でそう言ってきた。


「面白そうね。いきましょうよ!」

「リリイは、イルカさんのところに行きたいのだ!」

「チャッピーも遊びに行きたいなの〜」


 ニア、リリイ、チャッピーがそう言って飛び跳ねた。


 まぁ試験航行中だし、行き先があるわけでもないし、いいか……。


 ということで、イルカに先導してもらって船を進めた。


 イルカに名前がないと不便なので、名前をつけた。

 名前はキューちゃんになった。

 リリイとチャッピーと一緒につけたのだ。


 川を少し南下したところで、東側の支流の川とつながっていた。


 この川は大河に合流するかたちになっているので、川に入るのは流れと逆行することになる。


 船の運航テストとしても、ちょうどいいだろう。

 帆をうまく操作しながら船の方向を変え、支流に入った。

 やはり風が弱いので、リンに魔法の杖で風を起こしてもらい推進力を増した。


 川を少し遡ると、両側に崖がそそり立つ小さめの峡谷のような場所になった。


 その峡谷の俺たちから見て左側である北側の崖に、大きな穴が開いている。

 川の水が流れ込んでいるようだ。

 洞窟のような構造になっているのだろう……。


 俺はなんとなく気になって、そこについてキューちゃんに尋ねた。


(あそこは洞窟になっていて、中に水が流れているんです。もともとは私たちの遊び場だったんです。でも数ヶ月前から人族が住み着いてしまって、遊びに行けないんです。悪い人族です。私たちにはわかるんです)


 キューちゃんは、俺の質問にそう答えてくれた。


 悪い人族……数ヶ月前から住み着いた……


 これは……多分……あたりだ!


 十中八九『正義の爪痕』のアジトだろう。


 この峡谷の下側の川からしか入れない場所だ。

 地上から探しているスライムたちには、見つけることができない。

 この支流に入って来なかったら、絶対にわからなかった場所だ。


 だから今まで見つけられなかったんだ。


 川の入り込んでいる洞窟そのものがなにかの遺跡だったのかもしれない。


 俺はキューちゃんに、中の様子を訊いてみた。


 (洞窟に入ると、かなり大きなスペースがあって水が満ちています。この船でも充分入れます。そして水のない陸地のスペースもかなりあって、奥まで続いているようです。私たちは、水があるところまでしか行けませんが)


 地上スペースが広くあるなら、間違いなくアジトだろう。


 ここは慎重に中の様子を探ったほうがいいだろう。


 安定の潜入調査要員『エンペラースライム』のリンちゃんの出番だ。


「リン、またお願いしていいかい?」


「うん。わかった。あるじのためにがんばる!」


 リンはそう言うと、二回バウンドしたあと水の中に飛び込んだ。

 そして、キューちゃんにそっと触った。


 次の瞬間、リンちゃんは、キューちゃんになってしまった。


 新しく取得した『種族固有スキル』の『変態』を使って、『川イルカ』になってしまったようだ。


 イルカとして、泳いでいけるとこまでは潜入するらしい。

 そこからはスライムに戻って、地上部分の探索をするようだ。


 俺たちは船の存在を見られて警戒されるとまずいので、そのまま川を遡りイルカたちの暮らす場所に向かった。


 念のため洞窟近くに、『スピリット・オウル』のフウを残した。

 上空や崖の上から見張って、不測の事態に対応してもらうためだ。

 リンちゃんのフォロー要員だ。



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