277.状況把握と、奪還作戦。

 この地下通路は、どうも……かなり遠くまで続いているようだ。

 俺の予想が当たっている気がする……。


 俺は、一旦地下通路から地上に戻り、街全体の様子の把握をすることにした。

 地下通路をあのまま行くと、かなり時間がかかりそうだったのだ。

 地下通路の探索よりも、街全体というか街の住人たちの状況把握をしないと、作戦が立てられないからね。



 俺は、しばらく蜂となって全体の状況把握に努めた。


 そして、朧げながら状況が把握ができた。


 この『ナンネの街』は、『マグネの街』と基本的な作りが非常に似ている。

 南側にあるセイバーン公爵領との領境となる横長の外壁に対し、半円形に北側に外壁が作られているのだ。『マグネの街』とは、反対の形になる半円形になる。

 俺が来たのは、半円の頂点になる北門からだ。

 そして、その北門からセイバーン公爵領に繋がる南門まで、まっすぐなメインストリートがある。

 これも『マグネの街』に、作りが良く似ている。

 そのメインストリートの左右に北門前広場、中央広場、南門前広場と三カ所の広場がある。この作りも『マグネの街』と同じだ。


 全ての住人は、この三カ所にある広場に集められ、構成員たちにクロスボウを向けられ監視されている。


 そして各広場に、地下空間への入り口がある。

 若い男を中心とした反抗勢力になりそうな者たちが、地下の空間に閉じ込められているようだ。

 そして、この三カ所の広場の地下空間は、地下道でつながっている。

 かなり広幅の地下道で、馬車も余裕で通れるくらい広い。

 この地下道は、南つまりセイバーン公爵領の方に更に続いている。

 セイバーン公爵領内にある『正義の爪痕』のアジトの一つに繋がっているのは、間違いなさそうだ。


 それから、ざっと見た感じ……若い女性と十代の子供の数が極端に少ない気がする……。

 全くいないわけではないのだが……少ない気がするのだ。

 元の人口分布が分からないから、なんとも言えないが……

 前に『正義の爪痕』に囚われていた人たちと一致する層が少ないというのは…………嫌な予感がする……。


 いずれにしろ、早くこの状況を打開しないとまずい。


 今のところ明らかに死亡している者は見つかっていないが、何が起きるかわからないからね。


 さて……どう攻めるかな……


(ナビー、どう攻めるのがいいと思う?)


 俺は、いつも最高のアドバイスをくれる『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーに相談した。


(今回は人質を取られている上に、敵の数が多すぎます。反攻を開始したときに、一気に制圧できなかった場合、死者が出る可能性があります。それを回避するには…………一番シンプルな方法がいいと考えます。数には数です!)


 ナビーからの戦術提案を要約すると、こんな感じだ…………


 街の住人や兵士たちを一人も死なせずに救出する一番確実な方法は、敵の数に対してこちらも同等以上の数を投入するということだ。


 簡単に言えば……“一人一殺”……といっても、実際に殺すわけではないが……。

 敵の構成員一人に対して、一人の仲間で対応する……つまりマンツーマンで対応する状況を作り出すのだ。

 この状況が作り出せれば、人質にとられている住民たちが即死させられる可能性は非常に少なくなる。


 多少の怪我なら回復させられるが、即死させられたら回復させることもできない。

 やはり誰も死なせないためには、一番の安全策を取るに越したことはない。


 俺は、ナビーの提案を受け入れた。

 ただし、これを実現するには少し時間が必要だった。


 ちょうど敵の要求の期限が二日後の正午だから、逆に言えばこの二日間の間は、人質に手を出すことはないと考えられる。


 この時間を、有効に使わせてもらうことにした。


 気持ち的には一気に制圧してスッキリしたいところだが……

 そのせいで誰かが死ぬことになったら、悔やんでも悔やみ切れないからね。

 今回は我慢して、じっくり攻めることにしよう。


 ナビーの作戦を信じる!


 俺は仲間たちに念話で連絡し、ナビーと共に立てた作戦を伝え、それぞれの役割を指示した。



 俺が当初思ってたよりも長丁場の作戦になるので、ミリアさんたちが少し心配だ。


 俺は『使い魔人形ファミリアドール』のネズミを取り出し起動させた。

 そして密かに書いた手紙を小さく折りたたみ、ネズミにミリアさんや近衛隊長のゴルディオンさんを始め他の部屋に閉じ込められている人たちに手紙を届けさせた。


 あまり長く書けなかったので、「解放作戦を計画中。最大二日間おとなしく辛抱してほしい」という内容だけを伝えた。






  ◇






 二日後の正午近く、俺たちはまた城壁の上に作られた広場に連れて行かれ、椅子に座らされ固定された。

 そしてまたマンツーマンで、クロスボウを頭に当てがわれた。


 程なくして、アンナ辺境伯たちが現れた。


 やって来たのは、アンナ辺境伯、ユリア執政官、何故か審問官のクリスティアさんと護衛のエマさんも来ている。

 後は守備隊長のシュービルさんと、守備隊の兵士が二十名程いる。

 兵士は全員馬に騎乗している。アンナ辺境伯たちは、六頭引きの馬車で来たようだ。

 そして『道具の博士』に変装した兵士と、博士の助手たちも連れて来ている。


「ギリギリ間に合ったようだなぁ。博士と助手たちは連れてきたようだな。伝家の宝刀はどこだ? 見せてみろ!」


 スキンヘッドが声を張り上げた!


「これが我がピグシード辺境伯家の伝家の宝刀『守護妖精の剣ガーディアンソード』です。さぁ人質を解放しなさい!」


 アンナ辺境伯が、鞘に入ったままの剣を空に向けた。


 俺も初めて見たが、鞘も柄も全て真っ黒な剣だ。


 それを確認すると、スキンヘッドが手を挙げた。

 すると周りの塹壕から、一気に構成員たちが現れクロスボウを構えた。


「そこまでだ! 動くなよ、動くと……こいつらの命がないぞ!」


 スキンヘッドがミリアさんに剣を向け、アンナ辺境伯たちに向けて声を張り上げた。

 顔には、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。


 どこまでも卑怯な奴だ……。

 初めから交換する気などなかったようだ……。


 しょうがない……


(よし、今だ! ミッションスタート!)


 俺は『絆通信』で繋いだオープン回戦で、仲間たちに作戦開始の合図を出した!


 次の瞬間——


 空中からいくつもの影が舞い降りた!


 構成員たちは、誰も気づいてない。


 一瞬だった!


 俺たち三十数名の後ろに立っていた同数の構成員たちが、次々と倒れたのだ。


 そしてその後ろには、俺の仲間たちが立っている!


 『ロイヤルスライム』のリン、『ミミック』のシチミ、『スピリット・オウル』のフウ、『トレント』のレントン、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラ、『シルキー』のサーヤ、『ウサギの亜人』のミルキー、アッキー、ユッキー、ワッキー、そして飛竜のフジ、ナミ、タツ、ミミ、イイ、そしてその仲間の飛竜たちだ!


 ドウたちオスの飛竜は、ユーフェミア公爵に貸し出しているので、王都に行っていていない。

 だがこの作戦のためには、空からの急襲部隊が必要だったので、フジに頼んで出身の飛竜の里に行ってもらい、仲間を集めてきてもらったのだ。 三十体の飛竜を集めてきてくれた。


 俺の仲間たちは『共有スキル』で『浮遊』をセットしているので、浮くことができる。

 自由に高速で飛行することまではできないが、上空で待機したり、多少の場所移動はできるのだ。

 そして『浮遊』スキルのお陰で、上空から急速落下してきても地上に激突せずに止まることができたのだ。


 ここにいる仲間たちは、俺の指示で気づかれないほど上空に待機していたのだ。


 そして俺の合図で一気に急降下し、クロスボウを構えていた者たちを瞬く間に無力化したのだ。

『共有スキル』の『状態異常付与』で『麻痺』を付与したのである。


「動くな! 街の住人が人質になっていることを忘れたのか!」


 スキンヘッドの男は、一瞬で状況を把握し慌てることなくそう叫んだ。

 この状況で余裕を持てるとは……リーダーをやっているのは伊達ではないようだ。

 そして俺たちに向けてクロスボウを構えた。

 この場で無事でいるのは、スキンヘッドの男を含め数名だけだ。


「さて、それはどうかな? 確認してみたらどうだい!」


 俺はそう言いながら、拘束縄を力任せに引きちぎり、椅子から立ち上がった。


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