276.制圧された、街。

 すぐに飛竜のフジが飛んできた。


「言った通りだろ! 俺は飛竜に乗って一人で来た!」


 俺は舞い降りたフジの手綱を握りながら、スキンヘッドにそう告げた。


「ふん! 一人で来るとはなぁ……。さすがは英雄といったところか……。ずいぶん余裕じゃないか? だが今回はそれが仇になったようだな!」


 スキンヘッドはそう言うと、また嗜虐の笑みを浮かべた。


 どうやら信じてくれたようだ。


「一体なにが目的なんだ?」


「ハハハ、まぁそう焦るなぁ。目的はいろいろあるんだよ。まずは、この街の住人だ。人材の確保、材料の確保、いろいろと使えるからなあ……。それだけじゃないぞ。テストさぁ……実戦テストが一番いいからなぁ。そしてなによりも……戦いそのものだ!俺は戦いたいんだよ!」


 スキンヘッドの男は饒舌に語り、舌なめずりした。


「あっさり教えてくれるなんて……ずいぶん余裕じゃないか。戦いたいなら、なぜ人質を取ってるんだ? 堂々と戦う勇気はないわけか?」


 俺は、少し挑発してみた……。


「ハハハ、そう焦るな。ゆっくり話してやるから。さぁおとなしく縄を受けろ」


 スキンヘッドがそう言うと、地上にいた構成員たちが俺に近寄ってきた。


 俺は大人しく縛られ、そのまま連行された。

 階段を登らされ、外壁の上に設置された広場へと到着し、ミリアさんの横の椅子に縛り付けられた。


 ミリアさんや近衛隊長のゴルディオンさんと目配せを交わした。

 みんな目の光を失っていないので、体調的には大丈夫そうだ。


 俺は、起動中の『使い魔人形ファミリアドール』の蜂を、気づかれないように飛ばした。

 ローブの内側に隠していたのだ。

 街の中の様子を探ろうと思っている。

 蜂の大きさなら、気づかれないだろう。


「さて、ここからが要求だ。今から言うことを紙に書け! 言う通りにしないと、この女の命は無いと思え!」


 スキンヘッドの男がそう言って、俺の前に小さなテーブルを設置した。

 テーブルには紙と羽根ペンが置いてある。

 俺は一時的に腕の拘束を外されたが、相変わらずミリアさんたちにクロスボウが構えられているので、迂闊には動けない状態だ。


「わかった。どう書けばいいんだ?」


 俺は、スキンヘッドの指示に従って手紙を書いた。


 それは……ミリアさんやゴルディオンさんをはじめとした兵士たちが捕らえられている。

 そして『ナンネの街』自体が制圧されて、全住人が人質として捕まっているという内容だ。


 要求は、ピグシード辺境伯家の伝家の宝刀『守護妖精の剣ガーディアンソード』と『道具の博士』及びその助手を、引き渡せという内容だった。

 期限は、二日後の正午というものだった。


 この手紙を、俺の飛竜に領都まで運ばせろとのことだった。



 通常三日かかる行程を、二日で来いというのはかなり無茶な話だ。

 ここから手紙を届ける時間もかかるのにだ……。


 ピグシード家の伝家の宝刀を手に入れてどうするつもりなのか……。

 そして、『道具の博士』が死んだことを把握できていないようだ。



「飛竜を領都に戻らせるのはいいが、誰も騎乗していないと最短距離で領都に届けることができない。ミリアさんを解放してくれないか? 彼女は飛竜に騎乗できる」


 俺はダメ元で、ミリアさんが解放できないか提案してみた。


「それはダメだ! 貴重な人質の数を減らすわけにはいかない。『凄腕テイマー』なんだろう? なんとかするんだな……」


 スキンヘッドは、ニヤけ顔でそう言った。


 しょうがないので、俺はフジに手紙を括り付けて、領城に向かうように指示し飛び立たせた。


 もちろん密かに念話を入れて、向かうふりをして途中からニアたちと合流するように指示を出しておいた。

 ニアと一緒に他の飛竜たちも連れて、サーヤの転移で領城に行ってもらうつもりだ。


 ニアに、アンナ辺境伯への説明をしてもらう。

 助手たちを引き渡す予定で行動するだろうが、ここに着くまで二日ある。

 その間に制圧しまえばいいと考えている。

 もし奴らの情報網が領都にあった場合、なにも動きがないと怪しまれてしまうので、引き渡すつもりで動いてもらった方がいいのだ。


 ちなみにフジを送り出す時に、ニアたちの様子や領都の様子も確認できるように『使い魔人形ファミリアドール』の蜂を、数体フジに忍ばせて一緒に送り出した。

使い魔人形ファミリアドール』の蜂は本来一体しかないのだが、『波動複写』でいくつもコピーを作っておいたのだ。蜂はサイズも小さく目立ちにくいので、使い勝手がいい。

 この壁門に来るときに、念のため、複数体起動しローブの内側に隠しておいたのだ。



 少しして俺たちは外壁を降ろされ、外壁近くに掘られた穴の中に連行された。

 穴を進むと、巨大な地下空間が広がっていた。

 いつの間にこんな空間を作ったのか……。


 地下の空間には、大きな部屋がいくつもあり、俺たちは五つの部屋に割り振られた。


 残念ながらミリアさんやゴルディオン隊長とは、別々の部屋になってしまった。


 今はさっきと違い、全員にマンツーマンでクロスボウが突きつけられているわけではない。

 したがって、構成員たちを一気に制圧して、ここの人たちを救うこともできる。

 だが……街の住人がどうなっているか……全くわからない。

 そもそもミリアさんやゴルディオンさんたちが捕まったのも、住人を人質にとられたからに違いない。

 それ故に、迂闊に動くことはできない。

 街の状況把握と住人の安否を確認してからでないと、動けないのだ。


 そこで俺は、先程飛ばした『使い魔人形ファミリアドール』と『感覚共有』をして、周囲の状況を探ることにした。


 一緒の部屋になった兵士たちに、精神を集中して脱出する方法を考えるからと言って、一人端に座り目を瞑る。


 目を瞑ると画面が一つになるので、非常にやりやすいのだ。



 …………蜂の視界が、俺の視界になっている……。


 街には、かなりの数の構成員たちがいる。


 どうやって……こんなに入ったのか……

 おそらく街の中だけで、百人以上いるんじゃないだろうか……。

 先程俺を取り囲んだ外壁付近の構成員たちを合わせると、二百人近くになるんじゃないだろうか……。


 そして住人たちは……街のメイン通り沿いにある広場に集められているようだ。


 でも、なんとなく……数が少ない気がする。


 この『ナンネの街』は、悪魔の襲撃事件で五百人程度だった人口が二百人以下に減っていた。

 その後、周辺からの移民が割り当てられ、四百人程度まで回復していたはずだ。


 なんとなく……半分ぐらいしかいないような気がする。


 おや……

 どうも広場の一画に、地下への入り口のようなものが作られている。

 俺達が入れられた地下への入り口と、同じような感じだ……。


 そこから、構成員たちが出てきた。


 ということは……やはりここにも、地下空間が作られているということか……。


 俺は『使い魔人形ファミリアドール』の蜂を、その中に潜入させる。


 『感覚共有』しているので、俺自身が潜入している感じだ。


 やはり巨大な地下空間があった。

 いくつか大きな部屋があり、俺たちのように閉じ込められている住人がいる。


 反抗勢力になるような若い男が中心に、閉じ込められているようだ。


 そして地下の通路が、かなり遠くまで続いている……。


 もしかして……こいつら……


 違う場所から地下通路をつなげて、地中から襲ってきたのか…………


 それならあっという間に、町ごと制圧されてしまうだろう。

 そして、この街の周辺を巡回警備しているスライムたちにも、気づけなかったはずだ。

 地下から突然現れたんだから……。


 まさか、地下から突然襲撃して来るなんてことは想定してない。

 スライムたちの巡回警備は街の中でなく、街の外を満遍なく行っていたのだ。


 そう考えると、この地下通路の始まりは、街からかなり離れたところにあるのではないだろうか……

 街の周辺なら、この人数の出入りをスライムたちが見逃すはずがない……。

 かなりの距離を移動してきたということか…………


 もしかしたら『正義の爪痕』のアジトの一つから、直接伸びているのかもしれない。


 そうだとしたら……かなり用意周到だ。

 とても衛兵たちでは、対処できなかっただろう。

 一瞬のうちに、制圧されたのかもしれない……。

 ただ救いがあるとすれば……なんの目的かは別として、誰も殺された気配がないということだ。

 今のところ死体は見てないからね。


 たぶん、町全体を人質にとられてミリアさんたちも投降するしかなかったんだろう。


 そもそも数が違い過ぎるし……。



 それにしても…… 俺の考えがあっているとして……短期間にこれほどの地下通路を掘れるものだろうか……。

 振動などが地上に伝わらないようにだと思うが、それなりの深さが確保されている。

 だから、大人数で作業してもわからなかったとは思うが……。


 それでもこれだけのものを掘るのは尋常なことではない……。

 やはり何かの特殊なアイテムか、スキルの力を使っているとしか思えない……。


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