251.第一王女の、英断。
回収したアイテムは、他にも様々な物品があった。
『魔法のカバン』は六つあった。
一つは『
二つは『
『道具の博士』が使っていたと思われる『上級』の『魔法カバン』には、一つだけ物品が収納されていた。
それは……日本刀だった!
というか……日本刀のような形状の剣だったのだ。
派手というよりは……重厚な感じの刀だ。
『階級』がなんと『
『名称』は、『魔力刀
『状態』が『機能損傷(一部)』となっている。
もしかしたら『道具の博士』は、この刀の機能を直そうとしていたのかもしれない……。
刀身の部分は明らかに鍛造製なので、『道具の博士』が作ったとは思えない。
どこかから入手した秘宝なのではないだろうか……。
触ってみた感じ、普通の刀としては使えそうだ。
おそらく機能損傷しているのは、魔法道具としての部分だろう。
また鍔の柄側に、後付けのように見えるリング状のパーツがついている。
少しだけ違和感があるが、日本刀としての外見を損なうほどの大きさではない。
鍔と一体となっているので、少し厚めの鍔が付いている程度の感覚だ。
他の『魔法カバン』は物資の輸送用に使っていたらしく、中にはなにも収納されていなかった。
他のアイテムは……
『死人薬』——三十七個
『剣』——『中級』が三十五本、『下級』が二十七本
『投擲槍』——『下級』が六十三本
『弓』——『中級』が二十三個、『下級』が二十三個
『矢』——『下級』が九百五十本
『丸盾』——『中級』が三十七個、『下級』が三十五個
『身体力回復薬』——『下級』が百七十七本
『魔法の水筒』——『下級』が三個
などが主な物だった。
『魔法の水筒』は、魔力を通すと水が作られ補充される水筒だ。
俺は『テスター迷宮』の『第一宝物庫』で手に入れているが、普段あまり使うことはない。
普通は旅するときの必需品となるなので、魔法道具の中でも需要が高い品の一つだと思うが。
他には大型の馬車が二台、中型が二台、小型が二台あった。
各種の記録や資料なども押収している。
大型設備については、『操蛇の矢』と『操蛇の笛』を作る設備のようだ。
その他のものは、なにかの実験装置のようだが内容はよくわからなかった。
◇
しばらくして夜が明けた。
俺は朝食前に緊急案件として、主要メンバーに会議室に集まってもらった。
アンナ辺境伯と、執政官のユリアさん、『ナンネの街』の代官に就任するミリアさん、第一王女で審問官のクリスティアさん、護衛のエマさんだ。
ユーフェミア公爵とシャリアさんは、王都に行っていて不在なのだ。
俺は早朝の招集の無礼を詫びて、昨夜の出来事の顛末を説明した。
予想だにしない俺の報告に、皆一様に衝撃を受けていた。
『道具の博士』がいた迷宮遺跡を発見した経緯については、ニアの妖精族のネットワークで急遽連絡が入り、飛竜を駆り急いで真偽を確認に行ったと説明した。
それからの経緯については……
そこでの偵察により『正義の爪痕』のアジトであることと、『蛇使い』の少女が囚われていることを突き止め、少女救出を優先し急遽夜襲による救出作戦を実行した。
少女は無事救出したが、『道具の博士』は発見したものの自爆行動によって死亡、アジトも焼却システムが作動し破壊されてしまった。
ただできる限り組織の情報に繋がるような記録や物品、設備を回収した。
……という説明をした。
回収物については、城の大広間に並べてあることを報告し、事前に許可を得なかったことを詫びた。
そして捕らえた構成員及び討滅した『死人魔物』の死骸については、『フェアリー商会』の領都支店本部の敷地に確保してある旨の報告をした。
この者たちは輸送については、妖精族の助けを借りて夜のうちに運んだと説明した。
以上の一連の説明に対し、皆呆気にとられるばかりで、特に質問というか指摘はなかった。
いつも通り、ほとんどが“妖精女神の御業”や妖精族の協力ということで誤魔化したのだが……
報告した内容の至るところが非常識すぎて……おそらく聞いている方もどこから突っ込んでいいのか、わからなかったのだろう。
アンナ辺境伯は、早速『フェアリー商会』から捕縛中の構成員と『死人魔物』の死骸の引き上げの手配をしてくれた。
アジトのあった迷宮遺跡の大体の場所も伝えたのだが……
辺境伯の現時点の判断では、調査に行ってもあまり得るものはないだろうとのことで、早々に調査に向かう必要はないということになった。
一応ユーフェミア公爵とも相談するとのことであった。
俺は、ほんとに現地調査の必要がないようであれば、妖精族に頼んで再利用されないように封印すると伝えた。
保護した少女については、肉体的にも精神的にもダメージを受けていること、『正義の爪痕』による奪還行動があるかもしれないことを考え、妖精族の隠れ里に保護しもらったと説明した。
これについては、審問官のクリスティアさんから提案があった。
「おそらくその少女は、単に捕まり蛇魔物を操る道具を作るために利用されただけのはずですわ。救出したときの状態を考えても、それほど有益な情報は持っていないでしょう。このまま妖精族の隠れ里で、静養してもらうのが一番いいと思います。ただ少女を救出したという報告をあげれば、王国としては情報を得るために少女を召喚するでしょう。それは少女にとって大きなストレスになるでしょうし、危険にさらすことにもなります。情報が漏れれば、必ずや『正義の爪痕』は奪還作戦を目論むでしょう。『使い人』スキルや特殊なスキルを持つ者を集めている組織が、なにもしないとは考えられません。少女にとって一番安全なのは……少女が救出作戦のときに死亡したという嘘の報告を上げることですわ。この場の皆で結託して、嘘の報告を上げましょう!」
なんと! 審問官であるクリスティアさんから、虚偽の報告の提案をされてしまった!
ただ言っていることは、もっともである。
そして王国の利益よりも一人の少女の安全を優先した判断をしてくれたことに、俺は感謝するとともに大きく感動した。
「わかりました。私はそれで構いません。もうあの少女を傷つけたくはありません。願ってもない提案です。本当にありがとうございます。でもクリスティアさんは、本当にそれで大丈夫なんですか?」
俺は礼を言うとともに、改めて立場上大丈夫なのか確認をした。
「もちろんですわ。私は第一王女です。政治的な事情も多少なりとも見てきました。国王である我が父といえども、一存で決められることには限りがあるのです。私が父の立場なら、報告は上げずに影で安全に匿ってくれていた方が喜ぶと思います。なにかあったときの責任は、全て私が負いますわ。あなたにも嘘をつかせてしまうことになりますが、審問官である私が報告を上げれば、誰も疑いません。私に任せてください」
「そうですか。本当にありがとうございます。アンナ様もそれでよろしいでしょうか?」
俺はクリスティアさんに再度お礼を言い、アンナ辺境伯にも確認をとった。
「ええ、もちろんです。クリスティア様の素晴らしい英断だと思います。私も領主である前に、子を持つ親です。これ以上、その子を苦しませるわけにはいきません。今後のことは、あなたに任せます。どうぞ、リリイやチャッピーのように守ってあげて下さい」
アンナ辺境伯は、優しく微笑みながらそう言ってくれた。
ユリアさんやミリアさんも共に頷いてくれている。
「ふう……良かった! クリスティアちゃん、あんたやるわね! 第一王女なのに話がわかるじゃない! なんか凄く嬉しい気分よ! もしあの子を連れて来いとか言われたら、体を張って守るつもりでいたから……。ほんとにありがとう!」
ニアはクリスティアさんのところに飛んで行き、お礼を言っていた。
ニアも心配していたようだ。
「ニア様、お褒めに預かり光栄です。人として、民を守るべき王族として、当然の決断をしたまでです」
クリスティアさんは、優しく微笑みながらそう答えていた。
ということで、『蛇使い』の少女ギュリちゃんについては、俺に任せてもらえることになった。
よかった……この言質さえ取れれば、俺としては他のことはどうでもいいくらいだ。
それにしても……死んだことにするとは……
俺も考えていなかった策だ。
クリスティアさんに、心から感謝するほかない。
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