250.回収した、もの。
俺が迷宮の外に出ると、仲間たちが待っていた。
まだ夜明け前なので、外は真っ暗だ。
この迷宮が生きていて『テスター迷宮』と姉妹迷宮であることと、そのダンジョンマスターに就任し再起動復旧モードの発動に協力してきたことなどを説明した。
それからみんなに、労いの言葉をかけた。
さて次は……なにからやるか……
まずは『蛇使い』の少女からだね。
傷は癒したが、心の傷は相当なものだろう……
今は眠っている。
念のため、改めて『波動鑑定』させてもらう。
名前は、ギュリちゃんというらしい。
年齢は十二歳のようだ。
リリイたちと同じハ歳くらいに見えたが……囚われている間に、痩せこけてしまったのだろう。
色白な子で、黒髪がボサボサな感じで肩までかかっている。
レベルは5で、スキルに確かに『蛇使い』を所持している。
現時点で、この子にとって一番安全と思える場所は……『霊域』だな。
『霊域』なら守護力が発動してるので、悪意を持つ者は侵入できないから物理的にも安全なはずだ。
そしてなによりも傷ついた心を癒すには、大量の霊素に満たされるのが一番いいだろう。
まずはこの少女を『霊域』に転移させることにした。
サーヤに『ライジングカープ』のキンちゃんたちと一緒に、転移で連れて行ってもらった。
あとのことは『ドライアド』のフラニーに任せれば大丈夫だろう。
キンちゃんたちも心配してくれていたので、きっといろいろと面倒を見てくれるに違いない。
いくつか尋ねたいこともあるが、回復してからでいいだろう。
次は保護した家畜動物たちだ。
この動物たちは、『ナンネの街』に今後作る予定の『フェアリー牧場』ナンネ支店のメンバーにしようと思う。
それまでは一旦、『マグネの街』の『フェアリー牧場』に入ってもらう。
『霊域』から戻ったサーヤに、早速『マグネの街』まで転移で連れて行ってもらった。
ミルキーも一緒に行ってもらったので、あとの段取りはミルキーがやってくれるだろう。
ちなみに今回保護した動物たちの内訳は……
走鳥————荷引き動物として、飼育していたのだろう。全身真っ白の珍しい色の個体が八体いる。
牛————黒や茶や白と様々な色があって、超ロン毛で前髪もある。目が隠れる程のロン毛が風になびいていて、イケメンな雰囲気を出している。角は緩やかにカーブしていて、クワガタのような形になっている。『メガハイランド』という品種らしい。毛の質が良さそうなので、紡績もできるかもしれない。七十五頭いる。
ヤギ————こちらもロン毛だ。白が多いが、黒や茶色など様々な色がある。『カシミヤヤギ』だ。領都の牧場用に野生のヤギを仲間にしに行こうと思っていたのだが、それと同じ種類だ。上質な糸が紡げる品種だ。乳も取れるし一石二鳥なのだ。六十七頭いる。
鶏————黒い鶏だ。トサカも含め全身が真っ黒で、かなりかっこいい。サーヤの話では『メガブラック』という珍しい種類で、その卵は微量だが魔力を回復させたり上昇させる効果があるとされているようだ。六十三羽いる。
ガチョウ————食肉用と卵用だろう。俺は食べたことはないが、ガチョウの卵は結構美味しいらしい。中国料理のピータンは、アヒルやガチョウの卵で作られていたはずだ。ガチョウはアヒルよりも人に懐きやすく、怪しい者が来ると大きな声でガウガウ鳴くので、番犬代わりになると聞いたことがある。五十七羽いる。
養殖池で飼育されていたのは、『紅マス』だった。
一緒に『川ハマグリ』という二枚貝も飼育されていた。
領都の『フェアリー牧場』に作った『大シジミ』の養殖場の近くに、新たな養殖池を作って移そうと思う。
次は構成員たちだ。
八十二人捕縛できたようだ。
二十三人は『死人魔物』に変化してしまって、サーヤたちに倒されてしまっていた。
一応その死体は全て『波動収納』で回収してきた。
もちろん『道具の博士』の遺体も回収してある。
頭がぐちゃぐちゃに潰れていて、即死だったようだ。
かなりのグロテスク映像で思い出したくない……。
さて、構成員たちをどうしようか……
普通なら軍に迎えにきてもらうところだが……
ここから一番近いのはセイバーン公爵領だが、山脈を超えないと来れない場所だ。
今から連絡して、軍が着くまでにはかなり時間がかかるだろう……。
ピグシード辺境伯領の『トウネの街』も比較的近いのだが……そこに運んでもしょうがないし……。
あまりやりたくないが、今回はサーヤの転移で一気に領都まで運んでしまおう。
念のため、『フェアリー商会』の領都支店本部の空きスペースに転移すれば、人目に触れることもないだろう。
時間もまだ夜明け前だし。
妖精族に協力してもらって運んだと誤魔化すしかないだろう……。
先にサーヤに転移で運んでもらった。
俺は迷宮の入り口に大きな岩を持ってきて、入り口を封鎖した。
事の顛末を説明して、セイバーン軍での現地調査が特に必要でなければ、このまま封印してしまえばいいと思ったのだ。
『キマイラ』のキーマは、この周辺を散策してからゆっくり大森林に帰るということだったので、俺は改めて礼を言って送り出した。
今回の一番のお手柄はキーマだからね。
ちなみにキーマは、『死人魔物』との戦いでも無双状態で屠っていたようだ。
◇
俺もサーヤの転移で領都に戻ると、急いで領城に入った。
まだ夜明け前なので、辺境伯を尋ねることは遠慮した。
その間に領城の中のダンスホールと思われる巨大な空間に、『正義の爪痕』のアジトから回収した物品を並べた。
本当なら、辺境伯に許可を取ってからやりたかったのだが……まぁ大丈夫だろう。
当分ダンスホールを使うようなことはないだろうからね。
なにせ貴族は俺だけだし……。
俺は回収したアイテム、装置、大型装置、資料、食料などを並べた。
構成員たちが暮らしていた宿舎も、なにかの手がかりがあるかもしれないので、一応回収してきたのだが……
設置する場所がないので、そのまま俺の『波動収納』にしまっておくことにした。
冷静に考えれば、大した手がかりはないと思うんだよね。
あとで余裕ができたときに、どこかに取り出して中をゆっくり確認してみようとは思うが………。
仮に建物として優れた作りなら、仮設住宅の別バージョンとして利用してもいいかもしれない。
見た感じはよくある使用人宿舎のような作りであり、アパートのような感じの作りだった。
綺麗にして『フェアリー商会』の社員寮として使っても、いいかもしれないけどね……。
もっともログハウスの社員寮バージョンも既に作ってあるから、特別必要なわけではないけど……
まぁいずれにしろ、それは後だな………。
回収したアイテムは………
『操蛇の矢』——蛇魔物をある程度誘導できる矢だ。
矢尻の部分が、特殊な素材になっている。
半透明になっていて、赤いゼリー状の液体のようなものが入っているのだ。
おそらく……『蛇使い』の少女の血を使って作ったのだろう。
発見されたのは、最近作ったと思われる四本だけだった。
今までに、いったいどれほどの数が作られているのか……
ここにあるのが、最後の四本ならよいのだが……。
『操蛇の笛』——『操蛇の矢』が刺さった蛇魔物を、誘導するための装置のようだ。
笛の旋律で、ある程度の誘導ができるらしい。
二本回収した。
『隠れ蓑のローブ』——『道具の博士』が姿を消すために着用していた物だ。
フード付きで、着用して魔力を通すと周囲と同化して見えなくなる。
そして気配自体も消す機能を備えている。
階級は『
これも『正義の爪痕』で作ったものなのか……なんとなく……そんな感じはしない……もっと古い時代のものっぽいんだよね。
どこかから発見したのではないだろうか。
『ハイジャンプベルト』——これも『道具の博士』が使っていた物だ。
見た目がそっくりだったので、一瞬“変身ベルト”かと思ったが……。
ベルトの両脇に銃のような形状の物が付いていて、その銃口から飛び出す風圧の力によって、空中高く舞い上がれるようだ。
上手く使えば、飛行することも可能かもしれない。
ベルトの中心部分からは、渦を巻く嵐のような風圧を送り出せるので、防御に使ったり敵を吹き飛ばしたりという使い方ができるようだ。
『
階級は『極上級』だ。
『波動鑑定』で分かる情報はこの程度だが、どうも魔法石がポイントのようだ。
『マグネの街』で養護院に設置した大浴場のお湯を沸かすための装置にも、『火炎石』という魔法石がついていたが、かなりの高額だった。
おそらく魔法石自体が、かなり高額なのだろう。
前に武具店でトーラに買ってあげた首飾りには『大地の魔石』というのが付いていて、筋力アップの効果があるとされていた。
サーヤの話では、『〇〇の魔石』という魔法石は、エネルギーが低く比較的手に入りやすいこともあり、それほど高価ではないそうだ。
それに対して『火炎石』『風嵐石』などの『〇〇石』と名のつく魔法石は、エネルギーが高く入手も容易ではないため、貴重で高額なようだ。
特殊なアイテムは以上だった。
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