234.動物たちと、友達に。

 『商業ギルド』での案件が思ったよりも早く終わった俺は、再び領城にやってきた。


 中庭に行くと、リリイとチャッピーがソフィアちゃんとタリアちゃんと一緒に剣の訓練をしていた。

 先生は、セイバーン軍のイケメンマッチョな近衛隊長ゴルディオンさんだ。


 実はソフィアちゃんとタリアちゃんに、サプライズがあるのだ。


 アンナ辺境伯や、今後警護を担当する守備隊の副隊長マチルダさん、審問官のクリスティアさんとその護衛のエマさんにも来てもらった。

 ユーフェミア公爵と三姉妹は、打ち合わせ中のようだ。


 視線で合図を送ると、ニアが指笛を吹いた……


 ————スウーー


 だがちゃんと音が出なかった……残念。

 特に指笛を拭く必要はなかったのだが…… カッコつけたかったのだろう……。


 それはともかく、微妙な指笛を合図に現れたのは、『スライム』『オカメインコ』『リス』『アライグマ』『アルマジロ』だ。


 突然の動物たちの登場に、みんな少し驚いているようだ。


「この子たちは最近友達になった子たちなの。この領城に住んでもらおうと思うの。侵入者を見つけるのに役立ってくれるはずよ。ソフィアちゃんとタリアちゃんの友達として、いつも近くにいてくれるように頼んであるの。どう? ソフィアちゃん、タリアちゃん」


 ニアがそう言って、連れてきた訳を説明してくれた。


 この子たちは、結成されたばかりのフウの『野鳥軍団』とトーラの『野良軍団』から選抜した子たちなのだ。

 領城にペットとして居ついてもらえば、すぐに異常を察知できる。

 特に自衛能力がないソフィアちゃんとタリアちゃんの安全確保要員だ。

 スライム以外は普通の動物なので、戦闘能力はほとんどないが『共有スキル』がセットされているので防御力はかなりのものなのだ。

 近衛兵がくるまでの間、持ちこたえることぐらいはできるだろう。


「私たちに……いいの……?」

「ほんとに? お友達……わーい!」


 ソフィアちゃんとタリアちゃんが、とろけそうな笑顔になっている。


「そうよ。ただこの子たちは自分で生きていけるから、お庭に住まわせてあげて。でも遠くには行けないから、ご飯は毎日あげてね。あとは遊びたいときに、遊んであげればいいわ」


 ニアがそう言うと、二人は大喜びで飛び上がった。


 そしてアンナ辺境伯のことを思い出したのか、二人で視線を送った。


「お母様、ほんとにいいの?」


 ソフィアちゃんが、少し心配そうに尋ねた。


「もちろんよ。ニア様のお友達ですもの。きっとあなたたちの良いお友達になってくれるわ」


 アンナ辺境伯がそう答えると、二人はまた思いっきりジャンプをして喜んだ。

 リリイとチャッピーも、側で嬉しそうに見守っている。


「じゃぁこの子たちに、二人で名前をつけてあげて」


 ニアがそう言うと、二人は嬉しそうに頬を緩めた後、真剣に考えだした。


 そしてついた名前は……


 まずはスライム。

 この子は赤い『マジックスライム』だ。

 名前は…… 「プヨちゃんがいい!」………タリアちゃんが決めた。


 次にオカメインコだ。

 白い体色で、頭部には黄色いトサカのような冠羽が伸びている。

 両ほっぺには、赤い丸斑点がある。

 俺がよく知ってるオカメインコと同じ感じだが、大きさは倍以上ある。

 インコというよりは、オウムの大きさだ。

 名前は……「ピーちゃんがいいと思うの」………ソフィアちゃんが決めた。


 次にリスだ。

 茶色の体色でお腹の縦ラインが白い、エゾリスに似た感じの大きめのリスだ。

 名前は……「モグちゃんがいいのだ!」………なぜかリリイが決めていた。


 そしてアライグマ。

 赤茶色の体色で、俺の元いた世界のアライグマとは少し色合いが違う。

 どちらかというと……某人気アニメに出ていたアライグマに近い体色だ。

 名前は……「スリちゃんなの〜」………チャッピーが決めていた。


 最後はアルマジロだ。

 このアルマジロは、濃いピンク色なのだ。ちょっと可愛いかも……。

 名前は……「そうね……マルちゃんがいいわね」………なぜかアンナ辺境伯が決めていた。



 この名前の付け方……俺とそんなにかわんないと思うんだが……センス的にも……。

 スライムはプヨプヨしてるからだし、オカメインコはピーって鳴くイメージだったんだろう。

 リスは口がモグモグしてるし、アライグマは手をスリスリするからでしょ。

 アルマジロは丸くなるからだと思うんだよね……。


 ニアさんを見ると……優しく微笑んでる。

 これ俺が付けてたら、絶対ジト目で見てるとこでしょう……解せぬ……。

 まぁいいけど。可愛いい名前だし……。


 ということで、周りの人たちにも認識してもらったので、追い出されることもないだろう。



「トモダチ、トモダチ、トモダチ」


 突然オカメインコのピーちゃんが声を発した。

 本当は突然ではなく、俺が合図を送って話させたのだ。

 みんな突然のことに、かなり驚いている。


 インコは、教えれば言葉を覚える。

 決まった言葉なら事前に教えていたことにして、声を出させることができる。

 その説明をするために、覚えた言葉を話しているふりをしてもらって、ピーちゃんに声を出してもらったのだ。


 俺はインコが言葉を覚える習性を説明して、事前に「危ない」や「逃げて」という危険を知らせる言葉を教えてあると伝えた。

 もしピーちゃんがそう言ったら、すぐに逃げたり隠れたりするようにとも伝えた。


 これで緊急事態のときに、ピーちゃんが声を出して警告を発することができる。


 ソフィアちゃんとタリアちゃんは、すごく感動していた。

 アンナ辺境伯もめっちゃ感動していた。

 そしてピーちゃんにいろいろ話しかけて、覚えさせようとしていた。

 ピーちゃん少し大変そうだけど……俺は念話でピーちゃんに「健闘を祈る!」と伝えた……。


 しばらくして、ピーちゃんが覚えた振りで「ピーちゃん、ピーちゃん」と自分の名前を言っただけで、みんな凄く盛り上がっていた。

 まぁこれからいろんな言葉を教えてくれれば、その分だけ言葉を発しても不自然じゃなくなるから助かるけどね。

 ……がんばれ! ピーちゃん!



 そんな感じで動物たちとの顔合わせサプライズも終わり、このまま中庭でティータイムをすることになった。

 ちょうどいい機会なので、俺は厨房を借りてみんなに新メニューの『ホットケーキ』を披露することにした。


 ユーフェミア公爵とシャリアさん、ミリアさんは明日旅立つので、その前に振る舞いたかったのだ。

 女性は甘い物が好きな可能性が高いから、喜んでくれると思うんだよね。


 ということで、俺はバターと蜂蜜をたっぷりの『ホットケーキ』を大量に作って振る舞った。


 結果は…………もちろん大好評!

  大量に作ったのに、なぜかお替わりを焼く羽目になった。


 この『ホットケーキ』をメインにした喫茶店を出す話をしたところ、すぐに出店してほしいとアンナ辺境伯に懇願された。

 というか……最初は城の中に出店してほしいと言われたのだが……

 お店を出す意味がないので…… 城の調理人に作り方を教えるということで納得してもらった。

 早速料理長を紹介されてしまった……辺境伯の本気度が凄くて少しびびった。


 ユーフェミア公爵にはセイバーン領にもすぐに出店するように言われ、「土地はこちらで用意しとくよ!」と詰め寄られてしまった。

 かなりの真顔だった……少し怖かったんですけど……。


「商会の他の事業用の土地も、こっちで用意しとくからね。『ナンネの街』に商会を立ち上げたら、すぐにセイバーン領に取り掛かるんだよ!」


 ダメ押しにユーフェミア公爵にそう言われてしまった。

 もの凄く悪そうな笑顔を浮かべていたけど……

 完全にロックオンされている状態なんですけど……。


 セイバーン軍近衛隊長のゴルディオンさんは、目をウルウルさせながら食べていた。

 そして申し訳なさそうに、「お、お替わり、お願いします」と言っていた。

 結構スイーツ男子かもしれない。

 イケメンマッチョなスイーツ男子って……なんか……かわいい感じ……。

 女性が見たら、“ギャップ萌え”するところなんだろうなぁ……。



 そしていい匂いにつられたかのように、いつもの文官三人衆がやってきた。


 早速ホットケーキのご相伴にあずかって、大喜びしていた。

 三人とも食べることに夢中で用事を忘れたようで、辺境伯に尋ねられて慌てていた。


 要件は、朝の会議で依頼した吟遊詩人を見つけて連れてきた件だった。

 俺が会ってみたいと言っていたのもあり、連れてきてくれたようだ。


 みんなで会議室に戻り、吟遊詩人さんに会うことにした。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る