232.噂には、噂。
治安維持のために兵士の増員や、俺の『絆』情報網の構築など一通りの対策を打つことはできた。
だが、貴族の巻き添えで大勢死んだという逆恨みを煽っている者を突き止めて、辞めさせないとまずいと思う。
間違った情報で、一般市民が暴徒と化す可能性があるからね。
フウの『野鳥軍団』とトーラの『野良軍団』が機能すれば、吹聴している現場を見つけて元凶を特定できるかもしれないが……。
噂はある程度まで広がると、もうどこが元凶か分からなくないなるし、止めることもできなくなる。
そうなったら、もう打つ手がなくなるかもしれない……。
俺は、またナビーに相談してみた。
(噂を完全に断つことはかなり難しいと思われます。逆に噂には噂で対抗すればよいのではないでしょうか。貴族も、逆恨みで狙われただけであり被害者である。前ピグシード辺境伯は命をかけて領民を守った。現辺境伯やその子供たちも大事な家族を失った同じ被害者であるが、前を向いて復興に尽力しているという噂を積極的に流してはどうでしょう)
なるほど……噂を噂で打ち消すわけか……さすがナビー!
それいいかも!
いくらアンナ辺境伯が頑張っていても、教えてくれなかったら一般の人にはわからないもんね。
(その通りです。知ることができなければ、感じ取れません。相手に言わなければ、気持ちが伝わらないのと一緒です。恋愛や家族関係と同様と思われます。領民は一つの大きな家族ともいえます)
おお……すごいナビー……なんか感動して泣きそう……。
そして…… なんか……めっちゃ恋愛マスター的な感じ……ナビー素敵!
(…………………)
てか、無反応かい!
照れてんのかな……
(照れてません!)
トホホ……。
気を取り直して…… でもどうやって噂を広げればいいんだろう?
(吟遊詩人に、ことの顛末を物語として語らせてはどうでしょう?)
おお、出た! 吟遊詩人!
でもいるのかな吟遊詩人……この領内に……。
(残念ながらそれはわかりません。辺境伯や公爵に相談してはどうでしょう?)
なるほど……そうしよう!
ありがとうナビー!
今回はハラスメント報告されるのが嫌なので、普通のありがとうにとどめた……。
俺はナビーから授かった作戦を提案してみた。
「なるほどね……噂を噂で打ち消すわけだ。あんたって奴は、毎度毎度凄いことを考えるね。それが一番かもしれないよ」
ユーフェミア公爵が腕組みしながらそう言ってくれた。
「現時点では吟遊詩人がこの領都に残っているかわかりませんが、文官にすぐに確認させましょう」
アンナ辺境伯がそう言って手配をしてくれた。
しばらくすると、文官三人衆が現れた。
「移民の中に吟遊詩人がいたはずです。すぐに手配いたします」
リーダーのマキバンさんがそう答えてくれた。
よかった……吟遊詩人はいるらしい。
一度、本物の吟遊詩人に会ってみたいけど……。
吟遊詩人に語らせるストーリーは、執政官のユリアさんが担当することになった。
基本的には二十年前の白衣の男の陰謀を暴いたことから伝えて、その逆恨みで悪魔を使って襲ってきたという話になるだろう。
そして辺境伯が勇敢に戦い、最後には命を燃やして伝説の力を発動し領民を守ったという真実のストーリーだ。
打ち合わせの最後にユーフェミア公爵から話があり、明日セイバーン領に向けて旅立つとのことだった。
長く領を開けているし、大体の目処がついたので帰ることにしたそうだ。
『ナンネの街』の代官に就任するミリアさんも、通り道なので一緒に行くそうだ。
俺も名前だけとはいえ、『ナンネの街』の守護も務めているので、早めに訪れたいと思っていた。
いいタイミングなので、一緒に行こうと思っている。
ただ馬車での行軍に同行すると、時間がかかってしまうので、俺はミリアさんが『ナンネの街』に入る頃に飛竜で到着する予定にした。
『ナンネの街』までは馬車でゆっくり行けば三日、早めに行っても二日かかる。
もちろん俺たち単独ならオリョウが飛ばせるので、もっと早く着くわけだが……。
同行するとそれだけの時間がかかるので、今回は飛竜で追いかけるかたちにさせてもらったわけだ。
セイバーン軍は途中で野営をすることになるので、俺はこの前兵士たちが羨ましそうに見ていた炭を大量にプレゼントすることにした。
火を起こすのが楽だし、なにより料理が美味しくできるからね。
そして今日の晩は、セイバーン軍の皆さんと領城の中庭で別れの宴を開くことにした。
みんなでバーベキュー大会だ。
◇
領城での打ち合わせを終えた俺は、『フェアリー商会』の領都本部の建物にやってきた。
実はサーヤとミルキーに、領都での仕事を始めてもらっているのだ。
サーヤとミルキー用に飛竜を割り当てているので、対外的には飛竜に騎乗して『マグネの街』と『領都』を行ったり来たりしているというかたちになっている。
もちろん実際は、サーヤの転移で瞬間で移動している。
ちょうど本部に着いたころ、フウとトーラが帰ってきた。
二人から報告を受けると、順調に『野鳥軍団』と『野良軍団』を結成してきたようだ。
フウの『野鳥軍団』は元々この領都に住み着いていた野鳥たちで、種類的には、鳩、スズメ、カラス、フクロウ、ムクドリ、インコなどが多いようだ。
インコは俺の元いた世界でいうセキセイインコ、オカメインコ、ボタンインコなどいろいろな種類がいたようだ。
インコは言葉を覚えたりするので、警告などを発するときに使えるかもしれない。
こちらの世界の人が言葉を覚えることをどれだけ認識しているかわからないが、ある程度の言葉なら発しても大丈夫かもしれない。
例えば『危ない』『逃げろ』というような言葉をインコが叫んだとしても、覚えていた言葉ということにすればよいかもしれない。
その一言だけで、充分注意を喚起できる局面があると思う。
意外とインコ部隊は使えるかもしれない。
全体の数は、三百羽を超えたようだ。
三百羽以上の『野鳥軍団』……その情報網……かなり期待できるな……。
フウの話では、仲間になるのを嫌がる者はいなかったようだ。
そしてフウから、もう一つ重要な報告があった。
なんとカラスの中に、『使い魔』のカラスが十羽以上紛れていたようなのだ。
すべてフウが倒してしまったようだ。
カラスが悪魔の変身体でなくてよかったが、単なる『使い魔』だったとしても問題である。
白衣の男の『使い魔』である可能性が高い。
前にあの潜伏してる迷宮に、『使い魔』と思われるカラスが多く出入りしていると報告が上がっていたからね。
白衣の男はやはり…… この領都に対する攻撃を諦めていない可能性がある。
単に情報を探っていただけとも思えない。
いずれまた仕掛けてくるに違いない。
それが早いか遅いかだけの話だ……。
やはりどうにかして、転移を封じる手段を考えて倒してしまわなければ…… 。
トーラの方も順調に『野良軍団』を結成したようだ。
種類的には、犬、猫、イタチ、リス、アライグマ、アルマジロなどがいるらしい。
イタチ、リスまではわかるが………なぜに野良のアライグマとアルマジロが街の中にいるんだろうか……まぁ深く考えるのはやめておこう……。
数は百匹以上になったようだ。
トーラの話でも、仲間になるのを嫌がる者はいなかったようだ。
なんとなく……トーラにびびって嫌とは言えなかっただけのような気もするが……。
ただトーラによれば、仲間になってスキルの力で強くなったので皆喜んでいるそうだ。
俺はこの生き物たちがゴミを漁ったり、作物に悪さをしないように、商会の敷地の一画にご飯コーナーを作ることにした。
これで、かなりの情報網が領都中に整備されたことになる。
もちろん完璧ではない。
外の様子は、この動物たちの情報でわかるが、建物の中のことはわからないからね。
仮に『正義の爪痕』の構成員が潜伏しているとしても、外で変な行動とらなければ怪しむことができないからね。
それにしても、この『野鳥軍団』と『野良軍団』……今度ゆっくりモフモフさせてくれないかなぁ……ムフフフフ……。
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