230.凄すぎて、非売品。

 翌朝になって俺は領城の会議室に、辺境伯や公爵をはじめとするいつものメンバーに集まってもらった。


 昨日作った弓などを、早速お披露目しようと思ったのだ。


 アンナ辺境伯は、『双蛇弓』を手に取ると目を輝かせた。


「アンナ、あんた射ってみたいんじゃないのかい? まだ腕は落ちてないだろう?」


 ユーフェミア公爵がそう言って、少し悪戯な笑みを浮かべた。


「そうですわね。これは是非射ってみたいですわ!」


 アンナ辺境伯はそう言いながら、弓の弦を引き絞った。

 どうやら弓が得意なようだ。


 ということで、俺たちは中庭に移動して弓の試射をすることにした。


 頑丈な的が必要なので、俺は魔法のカバン経由で『波動収納』から大きな岩を取り出した。


 俺の魔法カバンの大容量はみんな知っているので、もう驚かれないと思ったのだが……


 全員口をあんぐりさせて驚いていた。


 ユーフェミア公爵から言われたが、いくら容量が多いとは言え魔法のカバンに無駄に容量を取る大きな岩を入れている者などいない……というか常識外れだそうだ。

 確かに言われてみれば全くその通りで……ぐうの音も出なかった。


 まぁそれはともかくとして、試射をしてもらうことにした。


 アンナ辺境伯が、矢をつがえて弦を引く。


 凄く……様になっている。

 もしや……弓の達人だったりして……。


 ビョウンッ————


 ————————ボンッ


 放たれた矢は、大岩の接触部分を粉砕しながら突き刺さった。


 かなり深くまで突き刺さっているので、相当の威力だ。


「こ、これは……凄い威力ですわ! それに……とてもスムーズです。重さも感じませんし、シャープに射ち出せる感じですわ。優れた逸品です! 軍の装備として即採用です!」


 アンナ辺境伯がいつになくハイテンションで、即決で採用してくれた。


「なんだい、先を越されちまったね。もちろんセイバーン軍でも買わせてもらうよ。元はと言えば私がリクエストしたんだからね。私も一発、射させてもらうよ!」


 ユーフェミア公爵はそう言うと、アンナ辺境伯から弓を受け取った。


 ビョウンッ————


 ————————ボンッ


「ハハハハハハ、こりゃいいね!弓兵たちが泣いて喜びそうだよ。文句なしだ! ついでにバリスタも射ってみたいんだが……」


 ユーフェミア公爵のその言葉で、バリスタの試射もすることになった。

 別にいいんだけど……かなりの威力だと思うんだよね……。


 俺は城を壊したくないので、念のため、先ほど出した岩と同様の物を追加で二つ出した。


 それを見ていたシャリアさんから「魔法カバンの無駄遣い」と呟かれ、なぜかジト目を向けられた。

 それを見ていた本家『ジト目使い』のニアさんは、なぜか大笑いしていた……。

 まさか……ジト目を広めたりしてないよね……絶対にやめてもらいたい!


 中庭の端に岩を出し、その反対の端まで移動してバリスタの試射をすることにした。


 バリスタは車輪が付いているので、一人でも運ぶことができる。

 二人で運ぶと、かなり高速で動かせるのだ。


 固定して照準を合わせる。

 これはシャリアさんたち三姉妹で行っている。


 そしてシャリアさんが引き金を引く————


 ビュウンッ————


 ————————バン、バン、バゴンッ


 なんと……二つの大岩を貫通してしまった。

 ギリギリ最後の岩で止まったが、その岩は矢を受け止めた後、粉々に砕け散ってしまった。


 距離が近かったとはいえ、破格の威力だ……。

 我ながら少しビビった……。


 バリスタについては、まともに試射してなかったからね。

 よく考えたら、試射もしてない品を人に売っちゃダメだよね。

 ……反省、反省……すみません。


 そして皆さんを見ると……


 やばい……口があんぐりとなっている……。


 クリスティアさんなんか第一王女なのに……やばい……よだれが……

 護衛のエマさんも……大口を開けてしまっている……。


 そして最初にユーフェミア公爵が「ハハハハハ」と乾いた笑いをすると、みんな思い出したかのように「ハハハハハ」と乾いた笑いをしていた……。

 なんか……全員に苦笑いされると……微妙にいたたまれない感じになる。


 ということで、『双蛇バリスタ』も採用されてしまった。


 ただユーフェミア公爵からは注文がついた。


 バリスタについては身元の確かな者であっても、できれば販売しないでほしいと頼まれたのだ。


 この威力なら城壁や外壁も貫通されてしまう。

 今の試射よりは遠くから射られるだろうが、それでも貫通される可能性が高い。

 これで戦争でも仕掛けられたら大変だし、『正義の爪痕』のような犯罪組織の手に渡ったら目も当てられない。

 ユーフェミア公爵の依頼は、そのような事態を危惧してのことだった。


 俺は快く承諾し、基本的に非売品とした。

 信頼できるピグシード軍とセイバーン軍にしか販売しないことにした。


 巨大魔物から人を守るために作ったのだが、人を傷つける可能性は当然あるわけで……

 これが……武器に本質的に内在しているジレンマなんだよね。



 値段を聞かれたので、前に作った武具と同じような感じで適当に値段設定をしてしまった。


『双蛇弓』————五十万ゴル

『破蛇矢』百本組み————二十五万ゴル

 セット合計————七十五万ゴル


『双蛇バリスタ』————百五十万ゴル

『破蛇ロングボルト』五十本組み————五十万ゴル

 セット合計————二百万ゴル


『コングアックス』————五十万ゴル

『コングハルバード』————六十万ゴル


 ユーフェミア公爵からは、相変わらず安いと呆れられた。


 弓セットはセイバーン軍が二百セット、ピグシード軍が百セット、バリスタセットはセイバーン軍が二十セット、ピグシード軍が十セット、斧と長柄斧はセイバーン軍とピグシード軍が試しに各十個づつ購入してくれた。

 軍では斧を使う兵士は、ほとんどいないようだ。

 どちらかというと、冒険者に人気の武器なんだよね。


 合計三億七百万ゴルの売り上げとなった。



 そしてお金の話が出たついでということで、褒賞金の話になった。


 俺がこの前三つのアジトで捕らえた『正義の爪痕』の工作員についても、褒賞金をだすというのだ。

 俺は以前貰った分で十分なので必要ないと言ったのだが、領民を助けてくれたお礼も含めたものとして受け取ってほしいと頼まれた。


 もちろんユーフェミア公爵からは、いつものように圧強めで「しっかり貰って、復興のために活かしな」と言われた。


 捕らえた工作員五十八名と厚化粧の女を入れて、五十九人分の褒賞金を出すと言われた。


 一人二千万ゴルで、合計十一億八千万ゴルになるとのことだ。


 以前は、ほとんど生きた状態で捕らえることができなかったようなので、高額の褒賞金だったのも頷ける。

 しかし、もう十分といえる数だし大した情報も引き出せないのに、こんな褒賞金を出していいのだろうか。


 どうしてもそう思ってしまい、ユーフェミア公爵に呆れられるのを覚悟でもう一度言ってみたのだが……


 公爵曰く、


 一、厚化粧の女から、今まで不明だった組織の目的や幹部の情報などが得られ、大きな成果があった。

 これにより王国全体の危機として、事前に注意を発することができた。

 二、囚われていた多くの領民を救出し、しかも元気な状態に回復させてくれた。

 三、結果的にアジトを四つも潰した。


 これらを総合的に考えると、決して貰い過ぎではないと力説された。

 そしてダメな生徒を見る先生のような目つきをされてしまった……。



 ということなので、頂戴することにした。


 事業資金や銀行の原資にして、復興のために還元しようと思う。

 『領都』だけじゃなく、『ナンネの街』もこれから手をつけないといけないしね。





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