224.領都での、開業準備。
俺が三日間に進めたのは、すぐに立ち上げる事業部門の準備だ。
領都においてまず最初に立ち上げる部門は………
『フェアリー牧場』————『マグネの街』の『フェアリー牧場』で一時的に世話をしていた領都牧場用の動物たちである牛、羊、ヤギ、鶏をサーヤの転移ですぐに移した。
牧場の建物や各厩舎、そして柵などはレントンを中心に仲間たちの協力で短時間で作り上げてしまったのだ。
『フェアリー農場』————ナス、トマト、ピーマン、キュウリなどの苗を『マグネの街』の『フェアリー農場』で作ってもらっていたので、それを植えたり、各種野菜の種蒔きをした。
スキルを使ったチート技で、水田も開墾して種籾を蒔いたりした。
スタッフはまだ雇用していないが、作付けだけ先にやってしまったのだ。
もちろん拠点となる建物や施設、柵なども設置済みだ。
ちなみに、ピグシード家直営となる各荘園のエリアについても、畑の整備などは仲間たちの力やスキルを使って完了させてしまった。
早く植えないと、領都の人たちに潤沢に供給できないからね。
後は種蒔きや苗植えからやればよいので、ピグシード家の直営農園もすぐに稼働できる状態だ。
荘園担当文官三人衆がかなり驚いていたが、“妖精女神の御業”ということで誤魔化しておいた。
そしてピグシード家での雇用を進めて、荘園を稼働させるように依頼しておいた。
もちろん各荘園毎に拠点となる建物や設備、柵は設置済みである。
『フェアリー運行』————『フェアリー牧場』や『フェアリー農場』『荘園』を稼働させるには、通勤するための交通網の整備が不可欠である。いつでも営業できる状態を最優先で整えた。
まず外壁の外の荘園エリアに円周状の道を整備した。
人目がないので遠慮なく仲間たちの力やスキル、アイテムの力を使って瞬く間に作り上げてしまった。
次に馬車を用意した。
以前盗賊たちを捕縛したときに没収した馬車から、使えそうなものを何台か見繕った。
使えそうなサイズの馬車の大部分は、『マグネの街』で『フェアリー運行』を開業するときに使用したのだが、まだいくつか残っていたのだ。
ただそれだけでは足りないし、領都の方が規模的に大きいので専用の馬車を新造した。
レントンや仲間たちと協力して、乗合馬車専用の席数の多い馬車を作ったのだ。
最初は俺が元いた世界のバスくらいのサイズの大きな馬車を作ろうと思ったのだが、街中で小回りが効かないのでやめた。
マイクロバス程度の馬車つまり俺たちの『家馬車』と同じ位のサイズにした。
また収容人数を増やすために、二階建ての馬車も作ってみた。
昔なにかの映画で見たことがあったのを思い出したのだ。
二階の部分は落下防止の外枠と椅子だけになっていて、フルオープン状態になっている。
雨が降ると終わりなのだが、この世界は日中にあまり雨が降らないので大丈夫だろう。
俺が来てからまともに雨が降ったのは、ユーフェミア公爵と一緒に馬車で領都まで移動したときの道中くらいだ。
そのかわり夜の間に、夕立のような感じで定期的に雨が降るのだ。
農家としては非常にありがたい気象現象なのだが……。
詳しくは解明されていないらしいが、なにかの調整力が働いているようだ。
一説には『クラウディア』という雲のような『始原の中庸生物』がいて、適度な恵みの雨を降らせてくれているとも言われているようだ。
ただこの生物は、ほとんど確認された記録がないらしい。
実在するとしても、遥か上空にいるわけだから確認できないよね。
是非一度会ってみたいものだ。
二階建馬車の二階部分は、壁もないし高い目線ので素晴らしい景色が楽しめるはずだ。
観光にも使えそうな感じだ。
そして『フェアリー運行』の馬車の色は、全て黄色を基調に統一しているので、かなり目立つのだ。
馬車を引くのは、『フェアリー牧場』にいる雄牛に担当してもらうことにした。
雄牛たちは乳を絞る必要がないので、フリーな時間が多いからだ。
彼らも運動した方が気持ちいいだろうし、働いてもらうことにした。
『マグネの街』で畑の耕起を手伝っている雄牛たちは、みんな本当に嬉しそうだからね。
それに領都の中での運行や荘園への通勤のための運行は、旅をするようなスピードを要求されないので、むしろ力のある牛の方が適任なのだ。
そして牛が馬車を引くのは珍しいので、その意味でもかなり目立つと思う。
宣伝効果抜群だ。
これから運行を始めるが、牛が引いてる珍しさと派手な黄色の車体ですぐに評判になると思う。
物珍しさで、みんな乗りたがってくれるのではないだろうか。
料金はどこに行くにも、百ゴルにしようと思っているので、気軽に使ってもらえると思う。
拠点となる建物と馬車の車庫、荷引き動物たちの休憩用の厩舎などは全て領都支店本部がある『本部ブロック』の中に作った。
『フェアリー軽食』————『マグネの街』で使っているのと同じオリジナルの移動式屋台を『波動複写』でコピーして準備した。
拠点となる建物や屋台の車庫も『本部ブロック』の中に建設した。
領都を今までとは別の切り口で、『北東エリア』『南東エリア』『南西エリア』『北西エリア』の四つのエリアに分け、各エリアに大きな広場を作ることになっている。
そして役所前にも大きな広場ができるし、領城の正門前もそのまま大きな広場にする予定なので、全部で六つの広場ができるのだ。
各広場に屋台を出店する予定だが、屋台を移動させる時間がもったいないので各広場の近くに個別に拠点を作ろうと思っている。
『北東エリア』の広場は『本部ブロック』の道を挟んだ真向かいなので、『本部ブロック』をそのまま拠点として使える。
役所前の広場に出す屋台は、食肉処理場用に提供されたスペースがまだ空いているので、そこに拠点を作ればいいだろう。
領城の正門前広場は、役所前広場から遠くないので同じ拠点でいいだろう。
したがって新たに拠点を作る必要があるのは、『南東エリア』と『南西エリア』と『北西エリア』の三つである。
空いている土地がないか文官三人衆に相談してみたところ、すぐによい場所を見つけてきてくれた。
そして代金を払おうと思って、土地の値段を訊いたのだが……
アンナ辺境伯から無料で提供するように申しつかっているので、受け取れないと言われてしまった。
その代わりに交換条件というわけではないが、アンナ辺境伯からの要望があるとのことだった。
それは、広めに土地を提供するので、『フェアリー運行』の乗合馬車の停留所を作ってほしいというものだった。
領都を巡る交通網になる乗合馬車を、領民が利用しやすいようにするための支援とのことだった。
その用地の空いているスペースは自由に使ってよく、屋台の車庫も作って構わないという理屈らしい。
確かに広場のすぐ近くに正式な乗合馬車の停留所があれば、行き帰りに利用しやすいからね。
ということなので、ありがたく頂戴することにした。
そして乗合馬車の停留所整備のためという理屈なので、俺が必要としていなかった『北東エリア』の広場や役所前の広場、領城正門前の広場の近くにも土地を提供してもらえた。
今回提供してもらった各広場に隣接する土地には、大きな乗合馬車の停留所と屋台の車庫と拠点となる建物を置かせてもらうことにした。
少しスペースが余りそうなので、他の出展者の屋台も格納できる車庫を作ろうと思いついた。
きっと喜んでくれると思うし、出展者が増えてくれるかもしれない。
その旨を文官三人衆に伝えたら、素晴らしいアイデアだとまたも感動されてしまった。
そして後日、提供される土地の面積が大きく増えていた。
アンナ辺境伯に報告をあげたら、更に土地を増やすように言われたのだそうだ。
そういうことなので、提供された土地の四分の一を乗合馬車の停留所、四分の一を商会の屋台の車庫と拠点建物のスペースにし、残り四分の二については屋台出展者全員で使える車庫と仕込みや調理に使える共有スペースを作ることにした。
出店する屋台の種類は『マグネの街』と同様に、『おにぎり屋台』『ホットドッグ屋台』『コロッケ屋台』『フルーツジュース屋台』にしようと思っている。
ただ『ホットドッグ屋台』は、パンを作る工房とソーセージの加工場を作らないと厳密には始められない。
『マグネの街』から俺の『波動収納』で持ってくるという手はあるが、それは一時しのぎだからね。
『フェアリー水産』————新設する部門だ。最大の目的は『大シジミ』の養殖の成功だ。
もう一つの目的は、水産資源の採取と加工品製造だ。
川で漁をして魚やエビを採ったり、海苔の製造をやろうと思っている。
『マグネの街』では『フェアリー農場』で川漁や川海苔の採取・製品化を行っているが、今後は水産部門として分けた方がいいかもしれない。
『マグネの街』よりも川が多くて水産資源が豊富な領都では、大きな部門になると思われる。
場所は『フェアリー牧場』の近くに作ろうと思っている。
『フェアリー牧場』に隣接する川が、『大シジミ』が採れる川だからだ。
川から水を引き入れる養殖池は、仲間たちの協力で既に完成済みである。
『フェアリー食肉』————これも新設部門で、既に『食肉処理場』と肉の直売所を含む拠点となる建物は建築済みである。
この三日間で準備ができたのはこれぐらいであるが、パン工房やソーセージ加工場、特産品を作る予定の紡績工場は早めに開業したいと思っている。
また産業全体を支援するための銀行も、早めに開業したいと思っている。
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