221.ギルド、再建。

 午後は自由にしてよいとのことだったので、商会の事業を始める準備をする予定でいた。


 ところが急遽打ち合わせしたい案件が発生したとのことで、再度会議室に呼び出されてしまったのだ。


 会議室に入るとアンナ辺境伯、ユーフェミア公爵を筆頭にいつもの幹部メンバーと、荘園担当の文官三人衆がいた。

 そして身なりの良い若いイケメン男性がいた。


「ここは執政官として、私が進めさせていただきます」


 この領の執政官に就任したセイバーン公爵家次女ユリアさんが、議事を進めるようだ。


「議題は、ギルドの再建についてです。ここにおります『商人ギルド』の新しいギルド長ウイン氏より陳情がありました。その内容は……」


 若いイケメン男性はウインさんという商人で、この領都でも有数の名門『ビジーネ商会』の会頭をしているそうだ。

 今回新たに、『商人ギルド』のギルド長に就任したとのことだった。


 今までは一商会の会頭がギルド長に就任することは基本的になかったようだが、緊急事態でやむなく就任したのだそうだ。

 本人としては、できれば就任したくなかったようだ。


 以前の『商人ギルド』は役所に隣接していた為に、悪魔が役所を襲撃した時に一緒に破壊され、ギルド長も職員も全員亡くなったとのことだ。


 ウイン氏は、生き残った『商人ギルド』の理事たちの話し合いで選出されたらしい。

 若いのに……優秀であり、かつ人望もあるのだろう。


 彼が陳情してきたことは、大きく二つあった。


 一つは、『商人ギルド』を建設する場所を提供してもらえないかということと、できれば建物建設にも協力してほしいということだ。


 もう一つは、『商人ギルド』以外の他のギルドは再建の目処が立っておらず、その点についても領主導で再建をしてもらいたいという陳情だった。


 自分とは直接関係ない他のギルドのことまで陳情するとは、中々に人間性も素晴らしいようだ。


 破壊された役所については、行政の窓口でもあることから最優先で再建されている。

 それ以外の公共施設やそれに準ずる施設の再建は、まだ完了していないようだ。


 ギルドについても半官半民だけに、優先順位は高くなく手付かずになっていたようだ。


「ギルドの建設は場所を決めていただければ、木造でよければ私の方ですぐにご用意しますが……」


 俺はすぐにそう提案した。

 やはり経済復興を考える時に、『商人ギルド』の役割は大きいからね。


「ありがとうございます。場所はすぐに決めることができますが、一つ考えなければならないことがあります。『商人ギルド』単体の建物にするか、他のギルドも集めたギルド会館にするかです。以前はギルド会館でしたので、全てのギルドが集まっておりました。それ故に全てのギルド長とギルド職員が亡くなったのですが…… 」


 ユリアさんがそう問題提起してくれた。


 なるほど……


 普通に考えたらギルド会館に全てのギルドを集めてしまった方が便利だし、横の連携も取れるだろう。

 行政の窓口である役所と隣接しているのも、なにかと便利だったはずだ。


 ただ今回は一つに集約されていたことが災いして、各ギルドを失ったともいえるわけか……。


 さて……どうしたものか……。


「基本的には各ギルドが集約されていて、しかも役所に隣接している方が利便性が高いと思われます。もちろん、なにかあったときのリスクはありますが……。

 ただ今後設立する予定の『猟師ギルド』などは、猟師達の利便性を考えてギルドの窓口で獲物の買取もしてあげたいと思っています。そう考えると隣接して『食肉処理場』も作りたいと思っていたので……ギルド会館に入るのは難しくなります。ですから全てのギルドを集めるのは厳しいかもしれません」


 俺がそういうと、ユーフェミア公爵がかぶせ気味に言い放った。


「なにが問題なんだい? ギルド会館に隣接して『食肉処理場』も作っちまえばいいじゃないか!」


「しかし……『上級エリア』ですし役所に隣接するような場所に、大きな『食肉処理場』を作ってもいいんでしょうか?」


 俺は、思っている問題点を提示した。


「どうせあの辺一帯は破壊されていて、これから再開発するんだ。『上級エリア』に『食肉処理場』があったっていいじゃないか! ついでにそこで、一般向けに肉の販売もやっちまいな! そしたら肉を求めて人が集まる。役所から出される知らせなどを目にする機会も必然的に増えて大助かりさ。そうだ役所の周辺に大きな広場も作って、屋台を出店させればより人も集まれる。どうだい?」


 ユーフェミア公爵が鼻息を荒くして、そう俺に尋ねてきた。結構ノリノリだ。


 確かに役所周辺に、常に人が集まってくるというのはいいかもしれない。

 みんな肉が好きだろうし、卸すだけじゃなく小売の店も作れば、確かに肉を求めてお客さんが来るよね。

 そして屋台で肉を焼いて提供するお店があれば……毎日がお祭り状態で楽しいかも。


「はい、わかりました。そのようにいたしましょう。場所を指定していただければ、私の方ですぐにギルド会館を建設いたします」


 そう答えると、ユーフェミア公爵は満足そうに首肯して、アンナ辺境伯に視線を流した。


「いいですわよ。私も賛成いたします。ギルド会館の建設も早い方がいいでしょう。グリムさんにお願いします。その対価として隣接する土地を提供いたします。そこに『食肉処理場』を建ててください。また役所周辺の広場の構想についても提案をお願いします」


 アンナ辺境伯も賛同してくれたので、 一つ目の議題については話がまとまった。


 新設するギルド会館はレントンに作ってもらうのでログハウス調だが、なるべく通常の建物に近い外観の三階建ての大きな建物にする予定だ。


 将来、街の美観と統一する必要が出た時に、レンガ調の外壁を付ける等の工夫で建物をそのまま活かせる構造にするつもりだ。


 今までの街並みは、レンガ造りの建物が多かったからだ。


 もっともログハウス調の建物でも意外とマッチングしているので、そのままでもいいかもしれないけどね。


 ギルド会館の建設とともに、なぜか俺が担当になった『役所周辺の賑やかし計画』も、全く別業務のはずの荘園担当文官三人衆がフォローしてくれることになった。

 あの人達……もはや荘園担当とかじゃなくて……完全な俺の秘書官みたいになっちゃてるけど……大丈夫なんだろうか……。

 まぁ俺は助かるけどね。



 次に二つ目の議題に移った。


 『商人ギルド』以外の他のギルドの再建についてである。


 『商人ギルド』以外のギルドは、個人事業主のような人が多く、会員の中でギルド長を引き受けるような者はいないとのことだ。


 ウインさんの陳情は、役人の中からギルド長を選出し行政主導で運営してほしいというものだった。


 ただ役人の数も不足しているので、ギルド長や職員に充てる余裕がないようだ。

 また、そもそもその分野に精通した者でなければ、能力的にも難しいとも考えているようだ。


「今まで存在していたギルドは、『商人ギルド』『薬師ギルド』『鍛治ギルド』『装飾ギルド』『木工ギルド』『飲食ギルド』です。『商人ギルド』以外の五つのギルドの長と職員を役人の中から選定するのは、人数的にも能力的にも難しいと言わざるを得ませんね」


 ユリアさんがそう説明し、少し歯がゆそうな表情を見せた。


「各ギルドをまとめてはどうでしょうか?

『商人ギルド』と『飲食ギルド』を一つにして、『商業ギルド』を作ります。そのギルド長はウインさんにお願いしたいと思います。

 そして『薬師ギルド』『鍛冶ギルド』『装飾ギルド』『木工ギルド』を一つにして、『職人ギルド』を作ります。この『職人ギルド』のギルド長と職員はなんとか役所の方で手配ができないでしょうか?

 これから作る予定の『猟師ギルド』と『ハンターギルド』については『狩猟ギルド』として一本化して、私の方でギルド長と職員を手配します。

 そして今までギルドがなかった木こりたちや個別に農園を持っている人、個別に魚などを獲る人のために買取窓口という意味で『農林水産ギルド』も作った方がよいと思っています。このギルド長と職員の手配については、できれば役所の方でお願いしたいと思います。難しいようなら私の方で考えてみます」


 俺はそう提案してみた。


 今思いついたアイデアだが、話しながら……自分でもいいアイディアだと思ってしまった。

『農林水産ギルド』についても、話しながら閃いたんだよね。

 買取窓口があれば、個別に魚とかを獲った人がお金に換金できて生活が楽になると思う。

 自分で食べるだけじゃなくて、売ってお金にできるって結構楽しいものなんだよね。


 提案後に周りを見渡すと……


 ユーフェミア公爵やアンナ辺境伯をはじめ、みんなニヤっと笑った。

 なんか最近のお約束な感じになってるけど…… これはオーケーってことだよね……。


「素晴らしいですわね。確かに同じ系統の職業をまとめて、その中でサービスを細分化すればいいですものね。 役所から人を出すにしても全体の総数が減りますから、大分負担も軽減されます。ただ能力的に適任者がいるかの問題もありますので、人選については別途相談させてください。場合によってはグリムさんにお願いした方が良い人選ができるかもしれませんし」


 そう言ってユリアさんは、なぜか途中からちょっといたずらに微笑んだ。


「ウインさんはどうでしょうか? 自分の商会を経営しながらギルド長を兼任されるのは、大変なご苦労だと思います。その上『飲食ギルド』まで担当していただくことになります。ご意見があれば遠慮なくおっしゃって下さい」


 俺は、遠慮して空気のようになっていたウインさんに話を振ってみた。


「はい、大変素晴らしいお考えと思います。お見それいたしました。『飲食ギルド』も含むとなるとより大変になるとは思いますが、微力を尽くします」


 ウインさんは少し緊張気味に、それでいて晴れやかな顔でそう言ってくれた。

 嫌々というわけではなく、決意のこもった目をしてくれている。


「『飲食ギルド』が一番揉め事が絶えないはずだよ。飲食は数が多いから競合とかで揉め事が絶えないんだ。既存の者たちが利権を守るために、新規参入を制限しようとする場合もあるからね。

 ギルドは会員同士の揉め事を防止したり、仲裁するのが大きな仕事だが、既得権益を保護して新規参入を拒んだりしちゃ本末転倒さ。

 まぁそこはよくわかっていると思うが……。グリム、あんたも少し手伝ってやった方がいいかもしれないよ。なんてったって大商会である『フェアリー商会』の会頭なんだから」


 ユーフェミア公爵がそう言って、ウインさんを気遣いつつ俺の援助を促した。


「そうですね。わかりました。ウインさん、私もできることがあれば協力します。なんでも言ってください」


 俺がそう言うと、ウインさんはほっとした表情になった。


「はい。では恐れながら……早速ですが『商業ギルド』の理事になっていただきたいのです。英雄である閣下が理事になっていただけるだけで、会員や他の理事の協力も得られやすくなります」


「閣下はやめてください。こそばゆいです。元々、私はテイマーで商人ですから。グリムで構いません。

 理事になること自体は構いません。ただ、私は領都に常駐しているわけではありません。会合等にもほとんど出席できないと思いますが、それでもよければお受けします」


「もちろんです。二つの街の守護に就任されることは聞いております。名前だけでも理事として入っていただければ充分です」


 ウインさんがそう言ってくれたので、俺は快く理事を引き受けることにした。




 

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