156.薬草園、作りました。
マグネの街に戻ると、早速、薬草園にする場所を整備して、持ってきた苗を移植した。
レントンのスキルで成長を促すことが出来るのだが、試しにニアの持っている『雷魔法——植物成長』を使ってもらうことにした。
ニアも今まで使ったことがないから、使ってみたかったようだ。
植え終わった苗に向かって、ニアが手をかざす。
「植物成長! みんな育って! 」
そう言うと、ニアの手から放射状に放電現象が起きた。
綺麗な柔らかい感じの放電が全体に広がる。
すると植えたばかりの薬草が急激に成長し始め、大地を覆っていく。
三倍以上の大きさになり、採取出来そうな感じになっている。
凄い!
これは農業生産の上では、かなりのチートだと思う。
『ドライアド』のフラニーも『トレント』のレントンも同じような事が出来るので、あまり目新しさがない感じだが……
冷静に考えると凄いスキルだ。
これこそ“妖精女神の御業”そのものだから、ある程度は『フェアリー牧場』で解禁して、作物の生育を早めてもいいかもしれないけど……。
フルで解禁したら、“豊穣の女神”とか言われちゃいそうだな……。
カボチャの栽培は、生育そのものや、俺の『促成栽培』や『一粒万倍』のスキルの効果を確認する為の実験でもあった。
だから考えなかったが、今後はフラニーやレントン、ニアの力を組み合わせれば、超短期間で収穫出来そうだ。
というか……稲作にニアの魔法を使えば、すぐに収穫出来ちゃう感じだよね……。
今後の普及を考えると、魔法無しの生育をしっかり確認したいところだが……
ただそうは言っても、『促成栽培』スキルや『一粒万倍』スキルは影響しちゃってるから、すでに普通栽培ではないんだよね……。
どうしようかなぁ……
早く米が食べたいし、もっと作付を増やしたいから……やっちゃうか! チート!
◇
俺は米を食いたいという欲望に負け……完璧なチート栽培をすることにした……。
というわけで、今は、不可侵領域の水田にいる。
種を植えてから一ヶ月弱、『促成栽培』スキルの成長三倍のお陰で、かなりの大きさに育っている。
途中で、あらかじめ作っておいた水路から水を引きれて、今はすっかり水田状態だ。
最初は水を入れても、硬盤層という水を通さない層が出来ていないのですぐ抜けていたが、水を入れ続けることで、だんだんと硬盤層が出来て水が溜まるようになるのだ。
元々上手くいかなければ、陸稲栽培のように畑栽培にしようと思っていたが、一応水田にする事が出来た。
水稲は、田植えから通常四ヶ月から五ヶ月位で収穫出来る。
俺の『促成栽培』スキルで成長が三倍になれば、種子からの栽培で六ヶ月と多めに考えても、二ヶ月で収穫できる計算だった。
だがこの感じなら、何もしなくてもあと半月位で収穫出来そうな感じである。
しっかり育つ事がわかったので、もうチートを使っても良いだろう。
てか、そもそも『促成栽培』スキルでチートだし……。
ということで、ニアに『雷魔法ーー植物成長』を使ってもらった。
このスキルは、共有スキルにはセットしていないので、今のところニアしか使えない。
『波動複写』で俺の『通常スキル』にコピーしてあるが、俺が使うとどんなことになるかわからない。
しっかり魔力調整が出来るようになるまでは、使えないのだ……。
ニアのスキルが発動し、更に成長が促された。
おそらく数日で収穫出来るほど実が熟すと思う。
今から楽しみである。
そして俺の『波動複写』で、種子も複写出来る事がわかったので、種籾はいくらでも作れる。
一気に作付面積を増やせそうだ。
スキルでの成長力を考えると、今からでも十分に作付け可能だ。
不可侵領域の作付面積を大幅に増やすとともに、『フェアリー牧場』にも大水田地帯を作ろうと思う。
次期領主予定のアンナ夫人からは、いくらでも開拓していいし、その分は俺の所有地にしていいと許可をもらってある。
米を大量に作って、みんなに配給し米の良さを知ってもらおうと思っている。
この不可侵領域は、避難民達を連れてくるわけにいかないので、ここの拡張は大森林の仲間達のイベント的な感じでやってもらおうと思っている。
みんな俺のおにぎりを気に入っていたので、おにぎりが食べられると思えば頑張ってやってくれるだろう。
『フェアリー牧場』の方は、一時的に避難民達に手伝ってもらってもいいだろうし、その中でさらに雇用者を増やしてもいいと思っている。
多くの人を雇用出来る事業をずっと考えてるんだけど、手間のかかる農業関係が、一番人を雇用出来る感じなんだよね……。
それから牧場には、米の他にも果樹園を作ろうと思っている。
霊域と大森林に生えている果樹なら、フラニーに頼めば簡単に苗を作ってもらえる。
『マナップル』等の霊果は、苗を作って植えても、霊域や大森林のように魔素が濃くないから、同じような性能の霊果は出来ないと思うが、普通の果物としても充分美味しいと思うのでやる価値はある。
そして霊果ほどでは無いにしろ、何らかの効果が出るようなら付加価値が付くし。
◇
昼食を食べに『フェアリー亭』にやって来たのだが、本日も大繁盛、絶好調のようだ。
満席で入れなかったので、テイクアウトしてオープン準備中の『フェアリー薬局』で食べることにした。
ちなみに正式なテイクアウトはやっていないのだが、たまにお客さんが持ち帰りたいという時には、汁物以外を葉っぱなどに包んで渡しているようだ。
『フェアリー薬局』は歩いてすぐなので、『牛のとろとろシチュー』を人数分入れた鍋と、ソーセージ、パンを人数分持ち帰ることにした。
『フェアリー薬局』では、ハーリーさんがオープンの為の準備をやってくれていた。
霊域で栽培した薬草を大量に持ち帰ってきたのだが……
「え、今採って来たのですか? ……この新鮮さ……それにこの品質……一体どこでどうやって……」
ハーリーさんが衝撃を受けて、言葉に詰まっている……
「私の知ってる秘密の場所に採りに行って来たの。使用頻度の高い十種類は、株ごと持ち帰って薬草園を作って植えといたから。今後はそこから必要な時に必要なだけ、採取出来るようになるわ」
ニアが上手く誤魔化しつつ、薬草園を作ったことを報告してくれた。
「は、はあ……薬草園を作ったのですか……? 」
やはり、普通は薬草園を作るという発想は無いようだ。
ハーリーさんが唖然としている。
自生しているものを採りに行くというのが一般的だからね。
「ええ、近くに使用頻度の高い薬草を植えておけば、必要な時に質の良い薬草が手に入るので作ることにしました」
俺がそう説明すると、
「さすが妖精女神様のご一行ですね。私には及びもつかない発想です。確かに新鮮なものがすぐ手に入ったら便利ですね」
理解してくれたようだ。
『フェアリー牧場』や『フェアリー商会』の雇用者には、一応サーヤの契約魔法による『秘密保持契約』を結んでいるので、大森林の事等も話してもいいような気もするが……
明確な必要性がない限りは、言わないでおこうと思っている。
採取した薬草は早めに下処理をした方が良いようだ。
鮮度が良く、高品質の薬草も下処理をしっかりしないと、効能が落ちてしまうらしい。
ちなみに『波動鑑定』したところ、今回持ってきた霊域で栽培した十種類の薬草は、どれも『最高品質』だった。
昼食後に、ハーリーさんと参加できるメンバーで大量の薬草の下処理をすることになった。
オープン準備で忙しいのに、余計な仕事を増やしてしまった気もしたが……
ただ薬草の下処理は余計な仕事というよりは、本来の仕事なのでオープン準備の一つと考えればいいだろう。
まずは昼食を食べてしまおう。
ハーリーさんも一緒にご飯を食べることにした。
ちなみにハーリーさんは、年の近いネコルさんと、大分仲良くなったようだ。
昼食を食べ終わり、みんなで紅茶を飲んでいると、ロネちゃんがやってきた。
お店を抜けて来たらしい。
「グリムさん、蜂さん達が頑張ってくれて、蜂蜜が採れそうな感じなんですけど、みてくれますか? 」
おお、そういえば蜂の巣箱を設置してから、結構経つからね。
採れてもいい頃かもしれない。
「わかった。みるよ」
俺はそう答え、みんなでこの『フェアリー薬局』の敷地内に設置された蜂の巣箱のところに向かった。
ロネちゃんに、蜂達に巣箱から離れるように指示してもらう。
そして、重箱式巣箱の一段を外してみる。
おお、出来てる!
これはもういけるね。
俺は蜂の巣をひとつまみ崩して口に放り込む。
「うわー……甘い! うま! 」
俺は叫んでしまった。
甘いわ……これはいい蜂蜜ができた!
みんなに、一つまみづつあげる。
「わあ、甘い! すごく美味しい! 蜂さん達ありがとう」
「甘うまなのだ! 」
「甘いなの〜すごいなの〜」
「「「甘い!」」」
「うおーーーーー! 」
ロネちゃん、リリイ、チャッピーを始め他のみんなも、甘さと美味しさに驚いたようだ。
ゆるゆるな幸せ顔になっている。
そして最後にニアの雄叫びも出ていた!
そのニアさんは、顔中蜂蜜だらけにしていた……残念。
それにしてもこれは凄い!
最高級の蜂蜜が出来てしまったようだ。
蜂蜜だけでも抜群だし、これを料理や甘味に使えば、何か凄いものが作れそうだ。
考えてみようかなぁ……。
ちなみに、ロネちゃんの『虫使い』スキルで蜂達がどんどん集まってくるらしく、トルコーネさんが必死で蜂の巣箱を追加したようだ。
現在かなりの数の蜂の巣箱が設置されている。
もちろん一ヶ所に大量に設置してもしょうがないので、この場所に十個と、サーヤの家の庭の一画に十個設置してある。
今後『フェアリー牧場』にも設置してももらう予定だ。
———蜂蜜最高!
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