154.人拐いは、逮捕。
俺はニアに、クレアさんと衛兵達を呼びに行ってもらった。
衛兵達に逮捕してもらう為だ。
しばらく待っていると、クレアさん達が来たので、状況説明する。
最初はどうやって場所を特定したのか不思議がっていたが、俺達はいつも常識外れの行動をするので、今更と思って納得してくれたようだ。
後はクレアさん達に任せれば大丈夫だと思うが、一応俺達も同行することにした。
屋敷の正門から、使用人に主人を呼び出してもらう。
「これはこれは、衛兵隊の皆様、いつもご苦労様です。何か御用でしょうか? 」
三十代の若い男性がこの屋敷の主人のようだ。
いかにも金持ちといった豪華な衣装に身を包んだ、金髪の美形男子だ。
ただこいつは……
とても善良そうな感じがしない。
目の奥が笑っていない……。
「ここに誘拐した子供達を監禁してる事はわかっている。大人しく縛につけ! 」
クレアさんが剣の柄に手を置き、睨みつける。
「何のご冗談でしょうか? 子供の誘拐など……まったくとんでもない話です」
「シラを切っても無駄だ! 別館の秘密の部屋に隠してる事はわかっている! 」
クレアさんがそう問い詰めると、男は一瞬たじろいだが、すぐに取り繕い平気な表情を作った。
「別館に秘密部屋などありません。私の友人が宿泊しているだけです」
あーあ……この人、友人って認めちゃったよ。
もう知らなかったでは済まないよね。
終わったなぁこの人……。
「その友人が奴隷商人なのはわかっている。誘拐した子供達を奴隷として売りさばくつもりなのだろう? 」
男が一瞬びくついた。
こいつ意外と演技が下手かも……。
「お戯れはいい加減によしてください。我が家は代々この街で商いをやっております。誓ってそのような不埒者などおりません。他国から商品を売りに来た者を宿泊させているだけでございます」
あらら、“友人”から、“商品を売りに来た者”に変更されてる……
今さら遅いっつうの!
「あくまでシラを切るつもりならば、力ずくで入らせてもらう!」
クレアさんがしびれを切らしたようだ。
「そのような事が許されるのですか! 」
「黙れ! この者を捕らえよ! 」
「「「はは」」」
男を拘束すると、一直線に別館に向かった。
そして、リンの誘導で目的の部屋に突入する———
———やはりいた!
あの奴隷商人だ!
「悪い奴はやっつけちゃうのだ! 」
「チャッピーもう強い! 負けないなの! 」
おっと……クレアさんが言う前に、リリイとチャッピーが我慢できずに飛び出してしまった。
「お、お前ら……あの時のクソガキ供! なぜここに⁈ 」
奴隷商人が驚きの声を上げる。
「悪い奴をやっつける為なのだ! 」
「子供達助けるなの〜」
「はあ? 子供達? なんの事だ? ここには俺しかいないだろう? 」
奴隷商人は、リリイ達を馬鹿にしたような態度で、大げさな身振りでニヤけている。
こいつ……ほんとに毎度毎度むかつく……。
「シラを切るのはやめなさい! お前が子供達を誘拐し、売り飛ばそうとしている事はわかっている! 」
クレアさんもイラッと来ているようだ。
語気がかなり強い。
「待ってください……子供の誘拐なんて……何の事か分かりませんが……」
またも嫌味たっぷりな余裕の笑みで答えている。
隠し部屋がバレてないと思っているのだろう。
馬鹿な奴め!
「リリイ、チャッピーやっていいよ! 」
俺が許可を出すと、二人はすぐに大きな書棚に向かう。
「お前ら、何を勝手に! 」
リリイ達の向かう方向を見て、男が焦りの声を上げる。
そして、慌ててリリイ達の方に向かおうとするが……
クレアさんが腕を掴んで動きを止めた。
リリイとチャッピーは本棚を横にスライドさせる。
やはり動くようだ。
普通の子供ではとても動かせそうにない大きな本棚だが、レベルが上がった彼女達には余裕のようだ。
———やはり隠し扉があった!
「おのれ! 」
叫びながら奴隷商人がポケットから何かを取り出し、床に投げつけた。
———ボウンッ
一瞬で煙が広がる。
目くらましの煙玉のようだ。
そんなもので逃げれると思っているのだろうか……
男は窓を蹴破って外に飛び出した。
走って逃げれるとでも思っているのか……。
———バンッ
衝突音とともに奴隷商人が、飛び出したはずの窓から部屋の中に戻ってきた。
血だらけだ。
全身打撲に骨折も何箇所かしているだろう。
外で待機していたロネちゃんの
まるで車にはねられたかのような衝撃だったに違いない。
白目をむいて、気を失っている。
衛兵達が拘束して、連れ出した。
そして扉を開けると、そこには拐われた子供達がいた。
「みんなもう大丈夫なのだ! 悪い奴はやっつけたのだ! 」
「助けに来たなの〜! ここから出るなの! 」
リリイとチャッピーがそう言うと、子供達は安心したのか、一斉に泣き出してしまった。
「みんな、もう大丈夫よ。私は衛兵のクレア。助けに来たの。おいで! 」
クレアさんはそう言って、子供達一人一人を抱きしめてあげている。
仮設住宅と孤児院から拐われた子供達は全員無事だった。
良かった……。
屋敷では、本館を含めて衛兵隊による一斉捜査が始まった。
クレアさんによると、この家は、この街でもトップクラスの商家だが、代替わりしてから悪い噂が絶えなかったらしい。
この機会に、他の悪事の証拠も集めようと家宅捜索しているようだ。
拘束された家主は真っ青な顔になっていた。
顔で白状しているようなものだ……。
おそらく他の悪事の証拠も見つかるし、それがなかったとしても誘拐に加担しただけで、奴隷落ちは確実なようだ。
家業の商いも継続は出来ないだろうとのことだ。
使用人はたくさんいるが、家族はいないようだ。
クレアさんによると、妻と子供がいたようだが、若い女にほだされて離縁して放逐したのだそうだ。
その挙句に、惚れた女には相当な額の金を盗まれ逃げられたようだ。
この町では結構有名な話らしい。
まぁ自業自得というやつだろう。
◇
俺達は衛兵隊の馬車に乗せてもらって、拐われていた子供達と一緒に南門まで戻った。
子供達の話によると、奴隷商人に手招きされて行ってみたところ、突然口に布を当てられ樽の中に押し込まれたのだそうだ。
その後すぐに意識を失ったらしい。
どうも何か気絶させるような薬を嗅がされたみたいだ。
そして荷馬車に樽を積んで運んだようだ。
荷馬車の業者をしていたのが、この館の主人らしい。
実行犯としても完全な共犯だったようだ。
あの奴隷商人は、今までこの手口で様々な場所で子供達を拐っていたに違いない。
チャッピーが以前一緒にいた子達も拐われて来たって言っていたからね。
南門まで戻ると避難民達がみんなで出迎えてくれた。
俺達が着くと大きな歓声が上がった。
そして拐われた四人の子供達が、いつも世話をしてくれている人達のところに駆け寄った。
あの子達は孤児だが、ここの人達みんなが心配してくれている。
あの子達は一人じゃない。
……本当によかった。
後の事は衛兵達に任せることにし、俺達はすぐに馬車を出してもらった。
残りの二人を早く孤児院に届けてあげたいからだ。
孤児院に着くと、院長先生とおぼしき老婦人と子供達が外で待ち構えていた。
みんな涙を流しながら出迎えてくれた。
拐われた二人の子供達は、老婦人に抱きついて泣きじゃくっている。
「ニア様、グリム様、そして皆様、この子達を助けていただき、本当にありがとうございました。私は、この孤児院の院長のマイヤーと申します。心より感謝いたします」
老婦人が涙を拭いながら、俺達に挨拶をしてくれた。
六十代くらいだろうか……
白髪で細身の華奢な体つきだが、どこか気品のある人だ。
背筋もぴんとして、なんとなく教会のシスターっぽいような雰囲気。
優しそうな人だ。
「本当に無事でよかったですね」
「ほんと、何もなくてよかったわ。私の友達のスライム達に、この辺をもう少し頻繁に巡回させるから、何かあったらスライム達に声をかけて。あの子達、話がわかるから」
ニアは院長先生と子供達に向かってそう話した。
スライム達が話がわかると言っちゃっているが……
まぁいいだろう。
この街では、みんなスライム達を『女神の使徒』と思っているようだし……。
またこんな事態が起きても困るからね。
しかしあの奴隷商人達、二箇所で人を拐って、よくスライム達の巡回警備に引っかからなかったものだ。
といっても、それほどの数をこの町に投入しているわけじゃないから、スライム達も見きれるわけじゃないんだよね。
逆に何があってもすぐ察知出来るほどスライムを配置したら、スライムだらけの街になっちゃうしね。
まぁそれでも文句言う人はいないだろうけど……。
名前だけとはいえ、今後この街の守護になることだし、もう少し違う面でも何か工夫が出来ないか考えてみることにしよう。
まぁほんとに、何事もなくて良かった。
もうすっかり夕方だ。
別行動しているサーヤ達と合流して、トルコーネさんの『フェアリー亭』で夕食を食べることにしよう!
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