142.フェアリー亭へ、いらっしゃい!
翌日、マグネの街に帰っていた俺達は、朝からトルコーネさんの宿屋にお邪魔していた。
新しい宿屋『フェアリー亭』が、いよいよ明日オープンするそうだ。
元々繁盛していた宿屋だったので、手入れも行き届いており、中の設備もそのまま使えるようだ。
いわゆる居抜き物件なので、改めて準備する物はほとんど無かったらしい。
大変だったのは、看板メニューの一つであるソーセージの準備で、ここ数日はナーナとアッキー、ユッキー、ワッキーは、ずっとソーセージ作りをしていたらしい。
また、追加で霊域から連れてきた烏骨鶏達も、頑張って卵を産んでくれて数は大分増えたようだ。
だが、まだ足りるかどうか微妙な感じのようだ。
ちなみに烏骨鶏は、俺の元いた世界では普通の採卵用品種と違って、毎日は卵を産まない品種だったはずだ。
ここの烏骨鶏達は……といっても烏骨鶏に似てるから勝手に俺が呼んでいるだけで、違う種類かもしれないが……毎日卵を産んでくれる。
烏骨鶏達には、有精卵がわかるようなので、有精卵は交代で抱かせている。
これでかなり個体数が増やせると思う。
雛が孵るのに通常二十日以上かかるはずだが、俺の『促成栽培』スキルで成長が三倍になれば、七日程度で孵るかもしれない。
またその後の生育も三倍の速さなら、あっという間に卵も量産できるだろう。
そんな感じで上手くいけば、将来的には安定して潤沢に供給できるはずだ。
ちなみに霊域と大森林に残してきた烏骨鶏達が産んだ卵も、無精卵については回収し販売している。
ただ現時点では、『フェアリー亭』の需要に耐えられるか微妙な数である。
俺が牧場に保護しているニワトリ達の卵を、トルコーネさんに売ってあげても良いのだが、当面の間避難民達に無償提供する事にしてあるので、それは自重した。
トルコーネさんは、明日のオープン時の卵焼きの売れ行き次第で、牧場の荘園であるラクノ村に買い付けに行くことも考えているようだ。
それから、ロネちゃんの養蜂も見せてもらったが、順調でもう少しで蜂蜜も採れそうな感じだった。
今一番いい時期なのだが、それにしても蜂達がすごい勢いで頑張っているようだ。
今のトルコーネさんの宿は本日で終了なので、明日から俺が使えるようになる。
といっても約束通り、厩舎の部分についてはロネちゃんに使わせてあげることになるが。
この場所をどう活かすかも考えなければならない。
新しく作る予定の商会のお店にしてもいいかもしれない……。
なんかワクワクしてくるね。
いずれにしても、避難民達の仕事を作る為にも何か考えないとね。
『フェアリー亭』の明日のオープン時には、俺達も総出で手伝う予定だ。
新装オープンは、すごくワクワクするんだよね。
昼からの営業でオープンだが、本番は夜の営業だろう。
今度の宿は面積が二倍になったので、一階の食堂・居酒屋部分も五十席以上ある。
かなりの収容人数だ。
当面はネコルさんとロネちゃんとトルコーネさんだけで運営するようだが、繁盛が続くようなら人の雇用が必要だろう。
しばらくの間は居残り組の中でアッキー、ユッキー、ワッキーが手伝う予定だ。
ただ手伝うといっても、子供達なので昼の時間帯だけだ。
◇
翌日になり、いよいよオープンの時が来た。
今日の人員の布陣は以下の通り。
俺はなぜか自分の店のように張り切ってしまい、人員の配置も勝手に決めてしまった。
もちろんトルコーネさん達に確認はしたが……。
キッチン調理担当———ネコルさん、サーヤ
キッチン洗い物雑用担当———ユッキー、ワッキー
ホール接客担当———ロネちゃん、ミルキー、アッキー
ホール会計担当———トルコーネさん
店頭での客引き宣伝担当———ニア、リリイ、チャッピー、俺
店頭にはトルコーネさん手作りの『フェアリー亭』の素敵な看板がついた。
可愛い羽妖精が手を振っているロゴマーク入りだ。
「『フェアリー亭』がオープンしたわよ! おいしいからみんな食べにきて! 」
ニアは、スライムのリンに騎乗して、ビョンビョン弾みながら宣伝してくれている。
「みんな食べに来るのだー! ソーセージ
「来て来てなの〜、甘うま卵焼きなの〜」
リリイとチャッピーは、昨日みんなで手作りした旗を持ちながら、声を張り上げている。
中央通りを通る時に起こるパレード状態のお陰で、リリイとチャッピーもすっかり有名人となっているので宣伝効果抜群だ。
ニアもリンと弾みながら通りを移動しているので、すぐに人が集まって来た。
宣伝開始からわずかの間に、瞬く間にお客さんが押し寄せてきた。
なんと店はすぐに満席となってしまった。
恐るべし有名人の宣伝効果……。
その上、店の前に行列ができてしまった。
これは……まずい……
これ以上行列が増えるとかなりの待ち時間になってしまう……
俺は慌ててニアに念話して、宣伝活動を中止するように指示した。
リリイとチャッピーにも宣伝を止めてもらった。
これ以上集まっちゃうと、待ち時間でクレームの嵐になる可能性があるからね。
中を覗くと、キッチンのメンバーは大わらわだ。
ホールでは、トルコーネさんは会計係オンリー状態、接客や配膳はロネちゃん、ミルキー、アッキーがフル回転状態だ。
かなり頑張っている。
特にミルキーは、良い動きをしていた。
才能があるかもしれない。
昨日の打ち合わせで、オープン初日は様子見も兼ねてメニューをお勧めの三品だけにしたのだ。
もちろんパンなどは普通に出すのだが、料理自体は『牛のとろとろシチュー』と『特製ソーセージ盛り合わせ』『卵焼き』に絞ったのだ。
これが功を奏して、何とか回せているようだ。
店頭にお客さんの案内係りとしてニアを残し、俺とリリイとチャッピーはキッチンの手伝いに入った。
途中からなぜか、俺は『卵焼き』を焼く係に固定されてしまった……。
◇
俺達は、全員無言で椅子に腰かけている。
———全員放心状態だ。
夜の営業時間を早めに切り上げ閉店したのだ。
もうほとんど材料が無くなったからだ。
凄かった……
オープン以来、お客さんの波が止む事はなく、閉店するまで息つく暇もなかった程だ。
俺達は、レベルが上がってステータスが上昇してるから、ハードな労働にも耐えられるが、普通のレベルのトルコーネさん達には相当大変だったと思う。
もっとも、そんなことを感じる暇もなかったかもしれないが。
時間の経過も忘れる程だった。
気がつくと夜になっていたからね。
五十以上の客席が八回転位したんじゃないだろうか……。
今日はメニューが三つしか無かったわけだが、お客さんの反応はどれも最高だった。
特に甘い『卵焼き』が大受けだったようだ。
食べた人がみんなびっくりしていた。
夜の時間帯になってお酒が多く出るようになっても、甘い卵焼きが人気だった。
意外とお酒にも合ったようだ。
そして、やはり『ソーセージ』の塩味や辛さと『卵焼き』の甘さが合うようで、一緒に食べるのが受けていた。
今日一日の売り上げは、五十万ゴルを超えたようだ。
凄い売り上げだ!
今後もオープン直後の好調が続くとは思わないが、リピーターが付いてくれれば安定した売り上げは稼げそうだ。
トルコーネさん一家は、大金持ちになるかもしれないね。
ただ人の雇用を考えないと今後の運営は厳しいだろう。
俺達はしばらくの間放心状態だったが、誰からともなく動き出しみんなで夕食を食べた。
食べながら今日の反省と、明日以降の段取りを話し合った。
やはり問題となるのは卵の確保、そしてソーセージの仕込みだ。
ソーセージについては俺達が卸しているので、俺達の問題だが……。
このペースでしばらく売れるのであれば、相当な量を納めなければならない。
当初の取り決めでは、作った時に出来た分だけという約束ではあったが、看板メニューにしてしまった以上今更そんなことも言ってられないしね。
この量が毎日となると、サーヤの家で、ナーナとアッキー、ユッキー、ワッキーで作るには厳しいものがある。
人を雇って、ソーセージを作るしかないかもしれない……。
なんとなく……これから設立するより商会の最初の事業がソーセージ作りのような気がしてきた……
俺としては、商会の事業にすることは全く考えていなかったのだが……
必要に迫られているので、しょうがないかもしれない……。
ここは割り切って、食品加工の事業を立ち上げてもいいかもしれないね。
この世界で役立ちそうな保存食とか作ったら、かなり売れるんではないだろうか。
それに、みんなに喜ばれると思うんだよね。
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