118.瞬殺の、一撃。

 俺達は手分けして領都に散らばる魔物達を倒していく———


 魔物のレベルはこの前戦った魔物達と変わらないので、今の俺達にとっては危なげなく戦える相手である。


 種類もバッファロー、イノシシ、ウサギ、ネズミの魔物が中心で前回同様だ。


 レベル30を超える蛇の魔物がいるから、やはり追い立てられるようにこの地に来たのだろうか……。


 蛇の魔物には、『支配の首輪』も付いてないし、操られているようには見えないのだが……


 それでも、やはり悪魔が関わっている気がする。


 なぜなら、魔物に混じって『小悪魔インプ』が、かなりいたからだ。


『小悪魔インプ』がこれだけの数いるという事は、やはり悪魔が裏で糸を引いているに違いない。


 だが悪魔に焦点を合わせて『波動検知』をしても、検出できない。


 どうもこの領都内にはいない感じだ。


 俺達は、怪我人や瀕死の住民なども見つけ次第治療しながら、魔物討伐を進めた。





  ◇





 魔物や『小悪魔インプ』を一掃した俺達は、城壁の正門前に集まった。


 みんな回復薬を飲みながら戦ったとはいえ、かなり疲労しているようだ。


「みんなご苦労様。少し休もうか」


 俺はみんなにそう声をかけて、一息つかせた。


 ここから見る限り、門は硬く閉ざされている。


 中の人達は大丈夫だと思うが……


 そんな俺達を見て、物見に立っていた領軍の兵士が声をかけてきた。


「貴様達は何者だ? 」


「私は、グリムと申します。マグネの街から、領都の様子を見にやって参りました」


「君が魔物達を倒してくれたのか? 」


「はい、私と仲間達で倒せる魔物は倒しました。中の皆さんはご無事ですか? 」


「こちらはなんとか大丈夫だ。しかしあの数の魔物を倒してしまうとは…… 君は一体何者なのだ? 」


「私はただのテイマーであり商人ですが、仲間達に腕の立つものが多くおりますので。妖精の力も借りております」


「妖精の力を…………しばしそこで待ちなさい」


 物見の兵士は、そう言うと行ってしまった。


 俺達はまだ要救助者がいそうなので、街をもう一度回ることにした。


 兵士には待てと言われたが、要救助者の救出が先だ。


 どうも潰された家の瓦礫の下で生きている人や、地下室に避難している人が結構いるようだ。


 救助活動の邪魔になるので、倒した魔物や『インプ』の死体は全て『戦利品自動回収』で一括回収してしまった。




 しばらく救助活動して、一段落ついた頃……


 ———げ! あれは……


 突然、城の上空に紫色の大きな魔方陣が現れた。


 すぐに中から大きな人型の物体が現れた。


 どうも転移してきたようだ。


 あの姿は……見覚えがある。


 ———悪魔だ!


 だが今まで見た『中級悪魔』よりも一回り以上大きい。


「あれは……『上級悪魔』よ! 角が三本ある」


 ニアがそう叫んだ。


『上級悪魔』だと……


 俺はすぐに『波動鑑定』する———


 ———確かに……まずい……


『剣の悪魔(上級)』だった。


 そしてレベルは……なんと79


 ニアですら相手できないレベルだ。


 そして魔方陣から、白衣を着た人間らしき者と『白の下級悪魔』が五十体位出てきた。


 どうも城から城壁までの間に、ドーム状の魔法的なバリアが張ってあったらしい。


 透明で見えなかったが、悪魔達がそこに取り付いている。


 そしてそのバリアを壊すべく攻撃をかけている。


 あのバリア障壁が破られたら、中に避難している人達が大変なことになる……


 あの障壁が破られる前に、奴らを始末しないと……。


「俺は『上級悪魔』をやる。ニア、リン、シチミ、フウ、オリョウは、『下級悪魔』を各個撃破、他のみんなは一緒になって今のメンバーのフォローだ。絶対に一人にならないように。サーヤ、しっかり監督を頼む。リリイ、チャッピー絶対に飛び出しちゃ駄目だよ! 」


「「「はい」」」

「リリイは了解したのだ! 」

「チャッピーもわかったなの! 」


 それにしても敵まで距離がある。


 領城を中心にして張られたバリア防御壁に乗った形になっているので、城壁の正門前にいる俺達からすると、かなり上空にいる。


 城門も閉ざされているから、中に入るには乗り越えなきゃいけない。

 それ以前にバリア防御壁があるから入れないかもしれないけどね。


 やばい、『下級悪魔』はともかく『上級悪魔』の剣撃で、防御壁にヒビが入ってきてるようだ。


 このままでは間に合わない。


 なんとかしなければ……


 何か手はないか……


 あの距離だと届きそうな攻撃手段がない……


 ……………………………………………………


 …………ああ! そうだ! 一つ絶対に届く方法があった!


「オリョウ、『魔法銃』を俺に貸してもらえるかい?」


「ご主人、流石なわけー。思いっきりぶっ放しちゃってって感じなわけ!」


 オリョウには、俺のやろうとしてることがわかったようだ。


 そう……俺は『魔法銃』の試し撃ちを思い出したのだ。


 雲を切り裂いて、成層圏まで達する勢いだった魔法の弾丸レザー、あれなら『上級悪魔』に届く。


 俺は心を落ち着けて、狙いを定める。


 万が一外した時のことを考えて、魔力を最小限に……


 といっても、 魔力の調整がまだ十分にできない俺は、最小限ので……という程度だが。


 ……呼吸を整え精神を集中する。


 角度的には下から打ち上げるので、周辺被害は出ないはずだ。


 後は命中精度だけ、俺の集中だけだ。


 おお、さらにヒビが入っている……


 いかんいかん、集中集中……


 再度集中し、俺の精神を確実にあの『上級悪魔』にロックオンする。


 ———よし! 今だ!


 シュッ———

 バンッ—————————

 ——————————————————


 試射の時同様に、高密度レーザーのような魔力弾の軌道が雲を穿ちながら、はるか上空に達する。


『上級悪魔』は…………


 ………消失している!


 うまく当たってくれたようだ。


 ———瞬殺完了!


 よかった。間に合ったようだ。


 そう思った時だった———


  ———『下級悪魔』達が一気に城内に落ちた。


 バリア障壁が保たなかったようだ。


 やばい! 急がないと———


「みんな行くよ。さっき言った通りニア達は、『下級悪魔』の殲滅。サーヤ達は怪我人の救助を頼む! 」


 俺はそう指示すると、城壁を飛び越し内側から城門を開いた。



 城壁内には領軍の兵士が思ったよりも少ない。


 これしか残っていないのか……


 俺はまっすぐに城の中へ向かう。


 何体かの『下級悪魔』と白衣の人間らしき者が入っていったからだ。


 城内を進んでいる内に『聴力強化』で強化された聴覚が女性の悲鳴を拾った。


 俺は声の方にダッシュする———




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