108.勝利の、宴。

 俺とニアは、オリ村の人達に囲まれていた。


「妖精女神様、テイマーの若様、私は村長のオイリオと申します。村を救っていただき本当にありがとうございます。代表して御礼を申し上げます」


「いえ、我々は一緒に戦っただけですから。衛兵隊の皆さんが全て段取りしてくれましたし、みんなの勝利です」


「もちろんそうですが、お二人がいなければもっと大変な戦いになっていたでしょう。あれだけの魔物が来てもこの村は無傷で済みました。これは“女神の奇跡”以外の何ものでもありません」


「まぁ…困ってる人を助けるのは当然よ。でもほんとみんな無事でよかったわね。戦ってくれた人達も軽傷で済んだし」


 ニアがそう言うと、村の人達が一斉にニアを拝む……。


 なんかすごく変な感じなんですけど……


 ニアはすごい気持ち良さそうだけどね。


 村中、俺達の噂でもちきりらしい。


 元々、街を悪魔の手から救ってくれた英雄として評判が届いていたらしいし、今回の魔物討伐の話も衛兵達から瞬く間に広がったらしい。

 俺達が倒してきた魔物を回収した衛兵達がその数に驚いたようだ。


 といっても、二カ所合わせても五十体もいないと思うけど……

 七割位は俺達で回収しちゃったからね。


 でもよく考えたら、一度に五十体近く倒すってすごいことかもね。


 この防衛陣地で衛兵隊が倒したのと同じ位の数だからね。


 全て合わせると九十数体になるようだ。


 確かにこの数なら全住人に肉を配れるかも。


 前に聞いた話では、マグネの町の人口は五百人位らしい。

 それに六つの村の住人を入れても配れちゃうかもね。

 魔物一体が大きいから。


 それにしても早く配らないと、腐っちゃうよね……。


 解体するだけでも大変じゃないだろうか。




 俺達は村人の輪からやっと解放され、休憩所に戻ってきた。


 衛兵長に尋ねると……


「確かにそうです。これだけの数を解体するとなると、交代で徹夜でやるほかありません。

 みすみす腐らすわけにもいきませんから。

 今、クレアが段取りをしてくれています。

 街の住民にも声をかけて手伝ってくれる者を、明日の朝一で来てもらう段取りを組んでいるはずです」


 なるほど人海戦術か……それが一番いいかもね。


 俺はまだ解体をする気にはなれないんだよね。

 魔物を倒す事は大分慣れたんだけど、捌くのはちょっと……いまだ抵抗がある……。


 いずれできるようにならなければと思っているが……



 宴の準備をしている村の広場に行くと、サーヤ達は解体の手伝いをやっていた。


 サーヤ、ミルキーは手慣れたものだが、アッキー、ユッキー、ワッキー、リリイ、チャッピーもみんな手伝っている。


 なかなかにグロい……。


 そういえば……忘れないうちに……


 俺はリリイとチャッピーを呼んだ。


「二人とも、今日はよくがんばったね。すごかったよ。よくやった」


 そう言って俺は、解体で血まみれになっている二人を抱きしめた。


「リリイはがんばったのだ! このぐらい朝飯前なのだ! 」


「チャッピーもがんばったなの。ご主人様のお役に立つなの〜」


 二人が誇らしそうに胸を張る。


「でもね、今日は大丈夫だったけど、無闇に魔物に突っ込んじゃ駄目だよ。危険な時もあるからね」


 俺は二人の頭をなでながら、諭すように言った。


「わかってるのだ。リリイは絶対負けないのだ! 」


「わかったなの。チャッピー気をつけるなの」


 と言って二人は頷き、わかってくれたような感じではあるが……


 本当にわかっているのだろうか……特にリリイ…… 一抹の不安を感じるが……


 まぁ頭ごなしに言ってもわからないだろうし、本当の危険は体験しないとわからないのかもしれないけどね……。


 保護者として十分気をつけていくしかないね。


 と思いつつ腕組みしながら、ニアに視線を向けると……


 ジト目で俺を見つめ「甘いわね」と一言発し、飛んでいってしまった……解せぬ……。




 しばらくして、宴会が始まった。


 予想通り魔物肉のバーベキューパーティー、肉祭りだ!


 宴会に参加したのはもちろん人型ポジションのメンバーだけだ。

 他のみんなは『家馬車』の所で休んでもらっている。

 かわいそうだけどしょうがない……。


 料理は串焼きが多いが、ネズミやウサギ魔物などは丸焼きにして、切り分けて食べるようだ。


 俺は最初にイノシシ魔物肉の串焼きを食べた。


 ………うおーー! 美味い!


 超高級なブランド豚の肉より美味しいかもしれない。


 肉汁が凄いし、何より脂身が美味しい!


 これは俺の個人的な見解だが、本当に美味しい豚肉は、脂身が美味しいのだ。


 この肉は凄い!


 俺は何本もおかわりしてしまった。


 まずい……他の肉が食べられなくなってしまう……。


 サーヤが、木皿に入れたモツ炒めを持ってきてくれた。


 サーヤが作ったようだ。


 新鮮なうちに食べてしまおうと、村の女性達とがんばったらしい。


 衛兵隊の野営用の大きな鉄板を使って、この辺で採れる香草とこの村特産のオリーブオイルで炒めたようだ。

 出来上がりに更にオリーブオイルを一かけしたらしい。


 この村で作っている上質のオリーブオイルが香草とよくあって、すごくいい味だった。


 他の肉も結構おいしかった。

 ウサギ魔物の肉も、ネズミ魔物の肉も、そして蛇魔物の肉も、それぞれ独特の味だったが美味しかった。

 でもやはり牛肉と豚肉を食べ慣れた俺にとっては、バッファローとイノシシの肉が最高だったけどね。


 衛兵長が手配してくれて、大きな樽でエールも運び込まれていた。

 そして隣の村で作っている上質のワインも。


 このワインはフルーティーですごく飲みやすかった。

 俺好みの味だ。

 ほとんど、ぶどうジュースといっていいんじゃないだろうか……。

 コンコードグレープ搾りたて100%ジュースのような本当に飲みやすいワインだった。


 リリイやチャッピーは、ワインになる前のほんとの搾りたてジュースをもらっていた。


  二人ともあまりの美味しさに目をまん丸にしていた。


 めっちゃ可愛かったけど……。


 今はミルキーの妹弟達と一緒に、村の子供達と走り回っている。


 楽しそうに遊んでいる。


 遊んでは、時々思い出したように食べて、また遊ぶ。そんな感じだ。

 無邪気でいいね。


 このオリ村の人口は、 五十人ぐらいで、子供も十人位いるのだ。


 チャッピーは少し人見知り気味だが、リリイが良い役割を果たしているようだ。

 あと年嵩のアッキーやユッキーもうまく相手してくれている。

 ワッキーは天然キャラでいい味出してるし。


 ちなみに、この世界の成人年齢は十五歳との事だが、未成年に対するお酒の規制は特にはないらしい。


 ということで、村の子供達の中でも年嵩の子達はぶどう酒を飲んでいた。


 でも俺的には、子供が飲酒するのは微妙なのでミルキーの妹弟達やリリイ、チャッピーにはぶどうのジュースを飲ませたのだ。


 ちなみにニアさんは、美味しいぶどう酒を飲みまくり……真っ赤な顔でフラフラしながら飛び回っている。


 そんな感じのニアにも、みんな妖精女神様といまだに眺めている………解せぬ……。


 サーヤは、お酒が強いようで全く表情が変わらない。


 ミルキーは真っ赤になって寝てしまっている。

 弱いようだ……飲み慣れてないだけかもしれないけどね。



 俺のところに、衛兵長はじめ衛兵のみんなや志願兵のみんな、村のみんなが話に来てくれるの。


 とても楽しいのだが……あまりちゃんと食べられない……まぁいいけど……。



 皆さんとのお話タイムも一段落ついて、やっとゆっくりしていると……


 明日の段取り等に走り回っていた“金髪美人”ことクレアさんが俺のところにやってきた。


「グリム様、今日も危ないところを救っていただき、ありがとうございました。なんとお礼を言っていいか……」


「いえ、私は何もしてませんから。前回はニアが頑張りましたし、今回は子供達が頑張ってくれました。もっとも、暴走気味で私も冷や汗をかきましたが…… 」


 そんな感じで言葉を交わした後、なぜかクレアさんはぴったり俺の横に陣取り、ワインをがぶ飲みし始めた……。


 美人を前にすると、何を話して良いか分からず……微妙に会話が弾まない……。


 その間もワインを飲み続けていたクレアさんは酔いが回ったのか……


 潤んだ瞳で俺をずっと見つめてくる……


 いやいやいや……とても直視できない……


 思わず視線をはずしてしまう……。


 こんな美人に見つめられるなんて……無理なんですけど……。


 なんだろうこの緊張感……


 そしてこの酔っ払ってる感じ……

 ……本人翌日覚えてないパターンに違いない。


 それなのに、そんな潤んだ瞳で見つめるのは本当にやめて欲しい……


 そう思っていると、サーヤが俺の左隣に座り、取り分けて持ってきた料理を渡してくれた。


「旦那様、お料理を持ちました。どうぞ」


「だ、旦那様? ……あ、あなたはグリム様の奥方なのですか? 」


「いえ、まだ違います。旦那様というのはお仕えする意味での旦那様です。私が旦那様の身の回りのお世話をしております」


「……まだ!? ……身の回りのお世話!? ……ブツブツ」


 なんかクレアさんが、口をパクパクさせながらブツブツ言っている。


「クレアさん、私とも仲良くしてくださいね。旦那様のこともよろしくお願いします」


 何故か俺を挟み二人がいろんな会話のやりとりをしている……


 俺は完全な空気状態なんですけど……


 サーヤと話しながらもワインのがぶ飲みを続けていたクレアさんは、眠くなったのか寝てしまった。


 しかし……なぜに俺の肩で寝てる?


 今度は酔っ払ったニアがフラフラしながら戻ってきた。


 そして俺の膝の上で寝てしまった。


 左隣のサーヤは何故か、俺の腕をホールドしている。


 完全に動けない状態なんですけど……


 そんな微妙な状態を助けてくれたのは子供達だった。


「リリイもグリムとくっつくのだ! 」


「チャッピーも一緒に寝るなの! 」


 二人がそう言って、俺にダイブしてきた。


 このお陰で三点ホールドが解け、俺は解放された。


 そして夜も遅くなってきたので、俺達は寝ることにした。


 衛兵のみんなや、志願兵のみなさん、村人の一部はまだ盛り上がっているようだが、俺達はお先に失礼することにした。


 相変わらずクレアさんが、ものすごい潤んだ瞳で見つめてくる……

 あんな美人に見つめられると、どうしていいか全くわからない……

 目をそらすことしかできない……トホホ。


 俺達は『家馬車』のところに戻ってきた。


 夜でも暖かいから、俺は外で星を見ながら寝ることにした。


 他のメンバーは『家馬車』の中で寝てもいいのに、なぜか俺の近くがいいということで外に寝ることになった。

 サーヤが敷物を敷いてくれて、みんなでそこで雑魚寝する……




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