100.ごはん、万歳!
俺達が戻ると、ちょうど昼過ぎだったこともあり、訓練していたみんなも迷宮前広場に戻ってきていた。
いつものように、またみんなでご飯を食べるというか宴会のような感じだね。
ミルキー達やリリイ、チャッピーは軽く食べさせて休ませた。
『レベルアップ疲労』になってるからね。
サーヤは10以上も上がったわけではないので、『レベルアップ疲労』にはなっていなかった。
いつものように、サーヤが食べ物を作ってくれた。
ちなみにナーナは、『レベルアップ疲労』になっているので、『家馬車』と同化中だ。
俺は午後から大森林と霊域を昨日と同じように回ることにした。
ニア達は、皆で一緒に訓練をしているそうだ。
◇
夜になって戻ってくると、またみんな迷宮前広場に集まって夜の宴の準備をしていた。
もうすっかり暗いが、何カ所も火を燃やして灯りを作っている。
午後から大急ぎで、何カ所も回ったが、未だ全域とはいかなかった。
ただ、フラニー、ケニー曰く、主だった所は回ったともいえるようなので、一旦お終いにしようと思っている。
後は時々サーヤの転移で帰ってきて、少しずつ回ればいいかなと思う。
今日の午後訪れた中で面白かったのは、霊域の北奥の細長い大きな湖を訪れた時のことだ。
その湖の手前、南側には、休眠中『トレント』達がいた。
といっても、休眠状態で動く事は出来ず、普通の木状態なわけだが……。
ついて来ていたレントンの仲介で大人『トレント』達から話があった。
彼らは、休眠期は普通の木として植わっているので、動くことはできないが、完全に寝ているわけではないらしい。
時々目覚めているとの事だ。
そして、いろんな植物を通して情報を集めているらしい。
当然、俺のことも知っていた。
そこでお願いされたのが、彼ら休眠中の『トレント』全員を俺の『
その理由は…… 暇だし寂しいからということだった。
俺の『絆登録』メンバーになれば、メンバー同士で念話ができる。
トレント同士だけじゃなくて、他のみんなとも話ができるようになることに魅力を感じているらしい。
確かにその方が楽しいかもしれない。
断る理由も無いし、俺はすぐに『絆登録』してあげた。
結構な数がいた百三十一体。
これでみんなと話ができると大喜びしていた。
トレントは長生きで物知りらしいので、何か面白い話が聞けるかもしれない。
俺は少し予定を早めて、明日マグネの街に戻ろうと思っている。
今朝置いてきた盗賊達がどうなったかも確認したいし、あの悪魔の騒動後の街の様子も気になっていたからだ。
夜の宴会でそんな話をみんなに告げて、明日の朝出発することにした。
大森林や霊域の仲間達は少しがっかりした感じだったが、フラニーの『
実際、今後はマメに帰ってこようと思っている。
夜の時間に帰ってきてもいいしね。
そしてこの夜の宴会では……俺的にはメインイベントがあったのだ!
それは……
今朝盗賊のアジトから没収したお宝……そう……米だ!
俺はケニーにお願いして、大きな鍋を作ってもらっていた。
その鍋でご飯を炊くのだ!
ただ種籾状態なので、籾殻を取る
籾を外した玄米を作らないといけないのだ。
これが結構な手間なのだが……
もしかしてと思い、レントンに訊いてみた。
木材を自在に加工できるレントンなら、同じ植物である籾殻を外すこともできるのではないかと思ったのだ。
当たりだった!
『
レントン、グッジョブ!
こうして玄米が出来上がった。
このお米は、俺が元いた世界で暖かい地域で作っているような細長い米だった。
贅沢は言っていられない。
俺は玄米のまま食べるか、精米した白米にするか迷った。
栄養価的には玄米の方が当然良いわけだが……
久しぶりに食べる米ということで、白米が食べたい気持ちではある……
なんとなく籾摺りよりも、精米の方が難易度が高いような気がする。
……レントンに説明してやってみてもらったところ……
……何とかできるようだ。
でも調整がかなり難しいらしい。
精米機なら五分づきとかいろいろ指定できるが。
とりあえずレントンには、表面をさっと剥がして欲しいとだけ頼んでみた。
出来上がりは……
……なんとなく七分つきから八分つき位の感じだ。
ほんとに薄く表面だけ削れたようだ。
またもやグッジョブ! レントン!
俺の並々ならぬテンションに、周りのみんなが興味津々で見ている。
視線が少し痛いが、そんな事は気にしていられない。
米の為だ!
火加減が難しいが———始めちょろちょろ———中ぱっぱ———な感じで適当にやってみる。
しばらくして……いい匂いがしてきた。
もうしばらくして……完成した!
さてどうか……蓋を開けてみる———
ふわっと、湯気とともに良い香りが広がる———
意外に良くできたんじゃないだろうか……。
少し水分が多かった気もするが、まぁ許容範囲だろう。
俺はレントンに作ってもらっていた“しゃもじ”で、ご飯をすくい上げる。
端からだ。
———おこげがいい具合についている。
そっと……一摘み……口に入れる。
あちちっ、……あまりの興奮で自分が猫舌なのを忘れていた。
若返っても猫舌なのは変わってないらしい。そりゃそうか。
そして、高レベルでも猫舌のままだ。
もっとも、火傷はすぐに治ったようだが……。
ホクホクさせながら、かみしめる……
甘さが口の中に広がる……
「うまい! うぉっしゃー! 」
ついつい叫んでしまった。
みんなびっくりして俺の方を見ている。
久しぶりに食べるからなのか、この米が良いものなのか……
とにかくうまい!
甘みもある!
「ははは、はーははは……」
やっぱり、こんなにうまいと叫んでしまうし、叫んだ後は笑うしかない!
……すっかり自分の世界に入ってしまっていた。
周りを見ると、みんな興味津々だ。
ニアなんかもう待ちきれなさそうだ。
鍋に飛び込んでしまいそうな目つきをしている……やばいやばい……。
俺は皆に、今から振る舞うからちょっと待ってもらうように告げる。
みんなに初めて食べてもらうご飯は、シンプルに塩おにぎりがいいと思う。
そこで、ミノ太が出してくれた塩で握ることにした。
サーヤやミルキー、子供達が手伝ってくれているので、作り方を教える。
そしてみんなに行き渡るように、少し小さめのおにぎりをいっぱい作った。
一番得だったのはニアだ。
小さなおにぎりもニアにとっては、結構なデカサイズだからね。
そしてニアさんの反応は……
「うおーーーー! 」
———はい、お約束の“美味しい雄叫び”いただきました! ありがとうございます!
そしてニアは、無言かつ一心不乱で顔中米粒だらけにしながらガッついていた。
髪の毛までご飯粒でベタベタになってるけど……大丈夫なんだろうか……。
「何なのだこれは!おいしすぎるのだ!うう………」
「たまらないなの!チャッピーたまらないなの!うー……」
「ぼく……お、おいしい!うわーん………」
リリイ、チャッピー、ワッキーは泣きながら食べていた。
他のみんなも大喜びで、おかわりを欲しがっていたが、俺も含めて我慢した。
なぜなら、この米を種籾にする為に、できるだけ多く取って置きたいからだ。
そんな説明をして我慢してもらった。
早くどこかに水田を作って稲作を始めたいが……
霊域にも、大森林にもそれぞれ水田にできそうな場所はある。
大きな川や湖の近くだ。
試験的に作るなら、フラニーに木を植え替えてもらえば、どこにでも作れる気はするが……
どうせなら将来、大水田地帯にするような場所に最初からテスト栽培してみたい。
そうなると大規模伐採が必要になるが……あまりしたくない……。
一つ良い場所が思いついた!
盗賊退治の為に、あの不可侵領域をあちこち行ってわかったことだが、意外に平坦な場所が多いのだ。
多少の傾斜もあるし、小さな山があったり林があったりするが、基本的には平坦な場所が多い。
そして、不可侵領域と呼ばれているように、誰の領土でもない。
そこで俺は大森林の西側の大きな湖、正確には若干南西方向だが、そこに隣接する不可侵領域に水田を作るのが良いと思いついたのである。
そうすれば、あの湖から水を引くこともできるだろう。
今度みんなで水田を開墾したら面白いかもしれない。
一つのイベントとしても良いだろう。
栽培は俺が時々見てやればいいし、普段動物や魔物に食べられないように、スライム達で見回り部隊を編成してもいいかもしれない。
ちょうど近くに、拠点にできそうな盗賊のアジトもあったし。
今度ゆっくり計画を作ろうと思う。
そういえば、今ちょうど春の時期みたいなので、米を作るには良い時期だ。
もし粘土質の土がなくて、水を溜めるのが大変な場合は、
収穫量は格段に落ちるが、米は作ろうと思えば畑で作ることも可能なのだ。
それ専用の品種もあって、陸稲と言われている。
俺が元いた世界でも、もち米等は数少ないが今でも畑で作っている人もいた。
最初は、大きな面積を作るほどの種籾が無いから小さな面積でいい。
時間がかからず水田が作れると思う。
早めに場所を決めて実行に移したい。
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