93.空を泳ぐ、魚達。

『マジックスライム』達のステータスチェックを終えると、ケニーが『マナ・アーチャーフィッシュ』達を連れて来た。


 なんと……空を飛んでいる!


 そしてこの子達は皆、熱帯魚が魔物化した“浄魔”のようだ。


『アーチャーフィッシュ』『アロワナ』『グラスフィッシュ』、俺が熱帯魚にはまっていた学生の頃に飼ったことがある種類だ。

 あの『アロワナ』は、細長いから『シルバーアロワナ』だな……種類がいろいろあるんだよね。


 その熱帯魚達が、大きくなって、そして空を飛んでいる……


 なんか不思議な感じだ…… 。


 空を飛んでいること自体は『ライジングカープ』達がいるから、それほどは驚かなかったけど……


 それにしても…… 『ライジングカープ』以外にも空を飛べる魚がいたとは……


 ファンタジー世界らしくて、楽しくていいけどね。


 ところがこれは……


 びっくりするべき事態だったようだ。



 ケニーが、事の次第を説明してくれた。


 この『マナ・アーチャーフィッシュ』『マナ・アロワナ』『マナ・グラスフィッシュ』達は、もともと水中の浄魔で空を飛ぶことはできなかったとのことだ。


 だが、突然、空を飛べるようになり、本人達も驚いてケニーに念話をしてきたらしい。


 そしてフラニーの転移で、ここに呼んだらしいのだが……


 実は……彼らが急に飛べるようになった理由が……


 先程のスライム達と同じではないかと思われるとのことだ。


 それで、俺の前に連れてきたらしい。


 詳しく聞くと……


 彼らは、空を飛んでいた『インプ』を撃ち落とし、その死骸を食べてしまったらしい。


 そして、強く『水中から出て自由に動きたい』『空を飛びたい』と思っていたら、『空泳スカイスイミング』というスキルが身に付き、空中を水中と同じように泳げるようになったらしい。


『インプ』を食べた全員がこのスキルを身に付けたとのことだ。


 魔物化しているからか、『インプ』を食べたからかわからないが、水中にいなくても苦しくないらしい。


 この話が本当なら……


『インプ』を食べたり吸収したりすると……大分得意な能力が身に付くということになる。


 …… 二つの事例があるのだ。その可能性は高いだろう。


 変な言い方だが、『インプ』はある意味おいしい敵ということになる。


 レベルは15程度と弱いのに、そんな特典があるなら……


 ただ、俺は食べる気は全くしないけどね……。


 そしてなぜ彼らは、『飛行』ではなく『空泳スカイスイミング』を身に付けたのだろう……


『飛行』というスキルがあるかどうかわからないが、それを身に付けてくれれば、俺も『共有スキル』で飛べたのに……


空泳スカイスイミング』を『共有スキル』にセットすると……


 ……空を平泳ぎしてる自分の姿しか想像できない……

 ……めっちゃかっこ悪いんですけど……。


 まぁやってみないとわからないが……


 やってみるのが怖い……


 誰にも見られていない時に、こっそりやるしかないな……やるとしても……。


 そんなことはどうでもよかった…… 。


 そういえば、迷宮前広場にいっぱいあった『インプ』の死体は俺が回収してたんだった。


 この死体を使えば、他の者達も空を飛べるようになるんだろうか……


 まてよ……


 この大森林の唯一ともいえる弱点は……対空防御力が少ないことだ。


 空を飛べる者が増えれば、当然対空防御力が厚くなる。


 本来水中から出られなくて、活躍の場がなかった者達が飛べるようになって、対空戦力になるなら……


 ……凄いことになる。


 人材の有効活用というか……


 本来戦力で数えにくかった者が、凄い戦力になるという事だ!


 ケニーの目もキラキラ輝いている……


 彼女のことだから、多分俺と同じこと……

 いやそれ以上のことを考えてるのかもしれない……。


 ケニーと相談したら、やはり同じようなことを考えていたらしい。


 俺の持ってる『インプ』の死体を、湖に住む“浄魔”達に食べさせてみることになった。


 実験という意味も含めてだ。


 俺達はフラニーの転移で湖に行くことにした。


 この大森林には、大きな湖だけで六カ所もある。


 ただ『インプ』の死体はそんなに無いので、今回来た者達がいた西の湖にまず行ってみることにした。



 俺は初めて会う水の仲間達に挨拶をし、事の概要を説明した。


 そして、『空を飛びたい』という強い気持ちも関係しているかもしれないので、そう思う者だけという限定をつけたのだが……


 ……全員が強く希望した。


 結構みんなストレスを溜めていたらしい……。


 俺は『インプ』の死体を取り出し与えた。


 少し様子を見る……。


 そしてケニーから提案があった。


 ……やはり俺の一つ上を考えていたらしい。


 『インプ』というのは比較的どこにでもいる『小悪魔』で、人族の国でさえ人気のない森などには結構いるそうだ。


 もちろん大森林にはいないが、近くには『インプ』がいるエリアもあるはずとのことだ。


 そこでケニーは、レベルの低い仲間達のレベル上げを兼ねて『インプ』狩りに行って、その死体を湖の仲間達に与えたいというのだ。


 なるほど……俺はそこまで考えられなかったが……


『インプ』の死体を大量に手に入れたら……


 ほんとに水中限定だった仲間達が、弱点だった対空防衛力になってくれる。


 まさに画期的だ!


 俺はもちろんすぐに許可を出し、作戦の全てをケニーに任せた。


 ただ、危険がないように十分注意することと、一応遠征部隊を出す時には俺に教えて欲しいとだけを伝えた。


 その遠征に、サーヤやミルキー達を連れて行くのもいいかもしれない。

 レベル上げと訓練に丁度いいんじゃなかろうか……

 もちろん俺やニアが危険がないようにフォローする。


 これはいい!


 一石二鳥の良い作戦だ!


 ケニーによれば、あちこちを放浪していたという『キマイラ』や『ミノタウロス』に聞けば、この近くの『インプ』の生息地がわかるだろうとの事だ。


 その情報に期待しよう……。



 そんな話をして待っていると……


『インプ』を食べた仲間達がスキルを取得しだしたようだ。


 経験者である『マナ・アーチャーフィッシュ』達が、要領がわかるようでアドバイスをしたらしい。


 そのお陰もあって、すぐにスキル取得できたのだろう。


 この『インプ』仮説は当たりらしい!





 

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