83.大森林の、小さな家。

 計画もできて、まずは俺の家を建てようということになり……


 すぐに建つ小さな家をサーヤに作ってもらおうと思ったのだが……


「マスター、ぼくに任して! 木の家ならすぐ作れるよ」


『トレント』のレントンがそう言ってきた。


 詳しく聞くと……


 『トレント』は、植物を自在に成長させたり、加工したり、色々なことができるらしい。


 それ故、木の素材の家なら材料さえあれば、あっという間にできてしまうらしいのだ。


 これなら、サーヤに無理に魔力を消費して作ってもらわなくても、簡単に作れそうだ。


 そして大森林の家だし、ログハウスみたいな家でもいいんじゃないだろうか……


 そういえば……


 ……霊域で倒れた木をフラニーにいっぱいもらったんだった。


『波動収納』にあったはず……


 『管理物件』として登録する家は、当然ながらサーヤが作ってなくても、なんの問題も無いらしい。


 俺は『波動収納』から霊域で回収した倒木を出す。


 次々に広場に積み上げた。


 そして俺の思っているログハウスを、レントンに説明した。

 拙い絵を地面に描いて……。


 毎度のことながら俺の絵でちゃんと伝わったか心配だが……

 後はレントンのセンスに任せるしかない……。


 普通の『トレント』は、大きな木に顔がついて、枝が手となり、根が足となって歩くらしい。


 だが、レントンはまだ子供であり、大人トレントとは違う外見をしている。


 背丈も人間の子供ぐらいのサイズだ。


 ズングリした丸太みたいな体に、二本の足があり、その付け根あたりに短根のような小さな突起がいくつもある。

 まるでスカートのような感じに見える。


 そして手は枝のような感じになっているが、指はちゃんとある。


 頭に当たる部分に緑が生い茂っている。


 クリクリ目が結構かわいい。


 手を広げた姿は、大きめの盆栽のように見えなくもない……


 そんなレントンが両手を合わせ術を発動する。


 指を組んで、忍者のようなポーズをとる……


 そうすると……


 俺が置いた倒木が……


 まるでサイコキネシスで動かされているかのように、宙に浮き、皮が自然と剥がれ落ち丸太状態になる。


 そしてどうも……

 あれは……

 ……水分を蒸発させているようだ。


 そして乾いた丸太がいくつも重なり、組み上がっていく。


 接合部分は木が変形し、融合しているようだ。


 これは完全に魔法建築だ……。


 瞬く間にログハウスができてしまった。


 結構かっこいい。


 よく俺の絵でこんなかっこいいのが作れたな……自分で言うのもなんだが……


 レントンは設計士の才能があるかもしれない……


 それにしても、基礎工事とかなくて大丈夫なのかなぁ……


「レントン、これって地面に置くだけで大丈夫なのかなぁ……。基礎工事で地面と固定したりとか必要ないのかい? 」


「大丈夫だと思う。重みである程度地面にめり込んでる。めり込み分を計算して高床にしてあるから」


 うーん……独自の発想なのか……

 よくわからないが……

 でもまぁ大丈夫だと言ってるから信じよう……


「あるじ殿、もし固定に不安があるようでしたら、後からでも私の糸による補強や『マナ・ホワイト・アント』たちの技術で補強できますので、心配ありません」


 ケニーがそう言ってくれたので、俺はもしもの時は頼むとお願いした。


 ログハウスの中に入ってみる。


 ドアは、ある程度の大きさの仲間までは入れるように、かなり大きく作ってある。


 中はかなり広い。

 五十畳くらいはありそうだ。


 そして現時点では……ただの広い空間だ……。


 とりあえず作った家なので、ほんとに中は何もないのだ……。


 これからゆっくり、小部屋に分けて作り込んでもいいかと思っている。


 作ること自体は、サーヤにも、レントンにも簡単にできるだろうし。


 とりあえず今回は外側だけなのだ……。


 ただ……できればトイレだけは作りたいんだよね……。


 ちなみに、この世界のトイレ事情は……


 マグネの街では意外と衛生的だった。


 思ってたよりは全然良かったのだ。


 俺はトルコーネさんの宿屋とサーヤの家のトイレを使ったわけだが、どちらも、とてもきれいだった。


 嫌な匂いもしなかったし。


 さすがに水洗トイレというわけにはいかなかったが……


 いわゆるバイオトイレだ。


 ポッチャントイレではあるのだが、木材のチップや薬草を入れて、かなり短期間に分解されるらしい。


 おそらく強力な分解型の微生物がいるのだろう。


 匂いもほとんどしなかったし……


 椅子の形になってて、ちゃんと座れたのでよかった。


 しゃがむやつだと結構辛いからね……


 ちなみに紙は意外と普及しているようで、トイレにも紙はあった。


 ただ、紙の代わりに使える葉っぱがあるそうで、それを使ってるところの方が多いそうだ。


 下町とかで紙を買う余裕がない者は、その葉っぱを採ってきてお尻を拭くらしい。


 大森林や霊域にいた時は……こっそり人目のつかない場所で……森の肥やしにしたわけだから……


 トルコーネさんの宿屋で最初にトイレを借りた時は、結構感動した。


 そして安心した。


 俺は、あのバイオトイレをこのログハウスに設置できないかサーヤに相談してみた。


 結論から言えば、簡単にサーヤの魔法で設置できるらしい……


 早速作ってもらうことにしたが、一つだけ気になっていたことを聞いてみた。


 いっぱいになったらどうするのか……


 恐る恐るサーヤに訊いてみると……


 トイレは必ず家の壁側に作るようになっていて、トイレの下にあたる部分の外側に取り口が作られているらしい。

 そこから分解され肥料状態になったものを取り出すようだ。


 実際は、大きな箱型の“便受け”という物が設置されていて、それが左右にずらせる形で複数個置いてあるらしい。

 ある程度いっぱいになると横にずらして、そのまましばらく発酵させ完全に分解してから、先程の取り口から取り出し、肥料などにするらしい。


 その間は、もう一つの“便受け”を設置しておくということを繰り返すのだという。


 これで、トイレがいっぱいになるということはないらしい。


 なるほど、素晴らしいシステムだ。


 俺の元いた世界では、いろんな問題で使われていなかったが、人糞は良い肥料になるはずだ。


 取り出した物は、ほとんど匂いもしない状態になっているらしい。


 畑の肥料に使ったり、スライムがいる街ではスライムが処理してくれたりするそうだ。


 元の世界の農業で使っていた完熟した動物の糞の肥料状態なのだろう。

 十分発酵が進んでいると、全く臭くないのだ。


 素晴らしいエコシステムだ。



 俺は、トイレだけは場所を決めて、すぐに作ってもらうことにした。


 バイオトイレに使う素材は……


 『コソウ』という薬草と、木材のチップがあればいいらしい。


 『コソウ』という薬草は、大森林にも生えているそうなので、すぐに手に入るそうだ。


 今、ケニーが採りに行ってくれている。


 木材のチップは、レントンに頼んで倒木の一部をチップ状に細かくしてもらった。




 こうして、俺の初めての家が完成した……


 まだ何もないが、逆にこれから作り込んでいくのが楽しいかもしれない………。



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