80.サーヤの、申し出。
迷宮防衛で頑張った仲間たちを救護していた俺たちは、そのまま暫く楽しい歓談を続けていた。
初めて見る仲間たちも多かったが、俺は一言二言でも、なるべくみんなと話すようにした。
仲間同士も交流を更に深めてくれていた。
そうこうしているうちに、あっという間に夜となり、俺たちはそのまま迷宮前の広場でみんなで休むことにした。
途中から、フラニーが霊域に避難していたカチョウや子供たちを呼び寄せ、さらにいろんな話で盛り上がってしまっていた。
夜の宴状態となり、そのまま寝てしまったというのが実情である………。
ちなみに、子供たちと一緒にトーラの父母の『スピリット・ブラック・タイガー』も一緒に来て、泣きながら感謝されてしまった。
喉をゴロゴロ鳴らしながら号泣する姿は、中々にレアだった。
でも、元気になったみたいで本当に良かった。
◇
朝となり、誰からともなく自然とみんな目覚め、また盛り上がって昨夜の宴の続きみたいになってしまった。
そんな中、サーヤさんから一つの提案があった。
この大森林に、俺の家を建てた方がいいという提案だった。
理由は二つ……
一つは……料理ができる環境が欲しいとのこと。
実は昨日の宴もサーヤさんは、みんなに料理を振る舞いたかったらしいが、設備もなく果物を食べるだけとなっていたからだ。
まあ、やろうと思えば、火をおこして肉を焼くくらいはできたろうが……。
もう一つは……家があれば、その家をサーヤさんの『管理物件』として登録して、今後簡単に転移すなわち『
詳しく話を聞くと………
サーヤさんの使う家魔法系の種族固有スキル『
フラニーの転移は、スキルレベルに応じた距離の制限があるが、自分が同行しなくても任意の者を転移させられるという特徴がある。
これに対し、サーヤさんの転移は、『管理物件』と呼ばれるスロットに登録しておけば、距離に関係なく転移ができる。
スロットの数は、スキルレベルに応じて増えるらしい。
ただ、転移は基本的にサーヤさんが一緒でなければできないという特徴があるらしい。
もっとも、これにはもう一つの種族固有スキルを使った裏技があるらしいのだが。
サーヤさんのスキルにはサブコマンドで、『管理物件登録』というのがあるらしく、現在は十件まで登録できるそうだ。
まるで不動産屋だ……。
距離に関係なく、転移できるというのは、確かに便利だ。
今後、俺がどっか遠くに行ってもサーヤさんの転移を使えば、あっという間に帰ってこられる。
待てよ……?
……ということは………
このスキルを使うためには、サーヤさんと常に一緒に居ないといけないことになるが……
そう思っていたところ……
なんとサーヤさんから俺のパーティーメンバーに入れてほしいとの申し出があった。
今後一緒に行動したいというのだ。
なんか微妙に、モジモジしていたのだが……
ニアとフラニーに後押しされて意を決して、俺に申し出たようだった。
なんとなく、友達に励まされて告白する女学生のような可愛さを醸し出していたが……。
「サーヤさん、パーティーに入るのは構いませんが……家は大丈夫なのですか? ……家妖精だから……その……」
「だ、大丈夫です! 『
旅だって……実は慣れているんです。……亡くなった親友とよく旅にも出たんです。昔は……」
俺の質問に食い気味に即答しながらも、またちょっとモジモジしている。
「そ、そうですか……。ならいいんですが……ミルキーたちは……」
「も、もちろん大丈夫です! 何度も言いますが、私はすぐに家に帰れますし……それにミルキーだって……」
またも食い気味に言葉を重ねるサーヤさんだったが、何かを言おうとしてやめてしまった……
「もう、ハッキリしないわね、グリムったら! いいじゃない! 仲間になって一緒に行動したら楽しいわよ。それに美味しい手料理が毎日食べられるわよー! 」
おお……さすがニア……
美味しい手料理……俺のツボをついてきたか……
「主様、私もできれば……そうしていただけると嬉しいです。
私は立場上、ご一緒することができませんが、このサーヤちゃんが一緒に行ってくれれば、主様にいつでも帰ってきていただけます。どんなに遠くからでも……是非、お願いします」
霊域の代行者である『ドライアド』フラニーもお願いしてきた。
まぁ確かに、そういうメリットはあるよね。
この大森林と霊域『ボルの森』に家を作っておけば、どこにいても一瞬で帰ってこられる……。
ある意味……滅茶苦茶な能力だよね……。
「あるじ殿……恐れながら……私も……是非そうしていただければ…… 。
もちろん、この大森林は全身全霊でお守りいたしますが……たまにでも……帰ってきていただければ……う、う、嬉しいといいますか……。是非お願いいたします」
なんとケニーまでが後押ししてきた。
そして……なぜそんなにモジモジしているのだろう……
触脚がツンツンしているし……
顔も真っ赤だし……
周りにいる他の仲間たちも……
みんな懇願するような眼差しを向けている……。
「わかった。俺はもちろん大歓迎だよ。サーヤさん、じゃあこれからよろしくお願いします」
俺に了承する以外の選択肢はなかった……。
もちろん、決して嫌々ではないし、願っても無い話で本当に大歓迎だけど。
「は、はい! わかりました! これから誠心誠意努めて参ります。旦那様」
サーヤさんの表情が満開の花のように輝く。
てか………だ、旦那様……?
「「「旦那様?」」」
この“旦那様”発言には俺だけじゃなく、周りのみんなも驚いたようだ……。
サーヤさんが頬を真っ赤に染めながらモジモジしている……
「あちゃちゃ……」
「ぬ、抜け駆けとは……」
「や、やられたのじゃ……」
「サーヤ、恐ろしい子……」
なんか周りから不穏な呟きが聞こえてくるが……
ここは無視しておこう……
「だ、旦那様というのは……そ、そそ、そんな意味じゃなくて……私はもともと家妖精ですから……家のことを取り仕切る執事やメイドのような立場からの意味です……ま、まだ……そ、そういう意味の旦那様ではありません……」
「別に……俺に仕える必要なんてないです。友達なんだし……対等な関係でいいじゃないですか……」
「も、もちろん、今はお友達ということで十分です。
でも、家妖精にとっては、“旦那様”という呼び方はある種の神聖なもので……心から“旦那様”と呼べる方に出会うのはとても光栄なことなのです。私が“旦那様”と呼ぶのはとても幸せなことなのです……
なので……是非……できれば……そう呼ばせてほしいのですが……」
まぁいいか……
俺の呼び方も、みんな好きなように呼んでいるし……
「わかった。いいよ。みんないろんな呼び方で俺を好きなように呼んでるし」
「ありがとうございます。それから私のことは、さん付けではなくサーヤと呼び捨てにしてください。友達なのですから……さん付けは……その……他人行儀です」
なんだかサーヤさんがまた頬を染めている。
「わかりました。じゃぁ、サーヤって呼ばせてもらいます」
「旦那様、丁寧語やめてください。他の方と同じように、気軽に接してください。年上扱いしないでください」
……とゆうか……
……年上だし……
女性に対して失礼なので言えないけど……
「わかった……けど……サーヤさ……サーヤだって、俺に丁寧語だけど……」
「私はいいんです。そういうふうに……“旦那様”扱いで話すのが嬉しいんです…………」
うーん……なんだかよくわからない……
なんとなく……もしかしたら……この人……自分勝手……?
周りの空気が一瞬、和らいだ後、また若干ピリッとした感じになっている気がする……
「あちゃーやられた……」
「仕方ないですね……」
「これは作戦勝ちなのじゃ……」
「サーヤ、恐ろしい子……」
またちょっと不穏な発言があるが……
悪意は誰も持ってない感じだからまあいいけど……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます