72.キンちゃんの、ターン。
———その時、突然、キンちゃんの頭に、天声が響いたのだ———
———新たな種族固有スキル『登竜門』を獲得しました。
———『登竜門』を使用しますか?
キンちゃんは、突然の天声に動揺するが、すぐにそれを振り払う。
今やるべきことは、目の前の敵を倒すこと。
気まぐれな天声を気にしている余裕などないのだ。
「なんか頭に声したし、『登竜門』て意味わかんねし。でもやるしかないし! みんなは、うちが守るし! マジ許さねーし! 友達いじめるやつ、まじボコるし! やってやんよ! 」
キンちゃんが黄金のオーラに包まれなが、魂と身体を震わす。
———「うちは、ドラゴン王にきっとなるし! 『登竜門』ッ! 」
キンちゃんがそう叫ぶと———
まるでヒーローの変身シーンのような、ド派手なエフェクトが展開する。
キンちゃんの全身から水流がほとばしり、斜め上方に滝のような形を作る。
そしてその滝の上には、巨大で豪奢な門が開いたのだった。
その滝をキンちゃんは、本能のままに登り泳ぐ!
激しい水流を全力で遡る!
「「「がんばれー! キンちゃん!」」」
周りの『ライジングカープ』たち、そして他の仲間たちが動かない体に鞭を打って、魂の声援を飛ばす!
それに後押しされた全身全霊の泳ぎで……
……キンちゃんが、今、『登竜門』に飛び込む!
———そして門から現れたのは………
巨大な門をギリギリ通過しながら長くうねる巨体……
……目が眩むほどの光を発する“黄金の龍”だった!
その長く激しく躍動する姿は、西洋の“ドラゴン”というよりも東洋の“龍”という様相である。
全身を黄金の鱗に包まれ、所々にピンクの鱗がアクセントのように、きれいに配置されている。
眩しく、そして美しい龍だった。
それでいて、口から覗く牙や両手足の爪は、見るものを畏怖させずにはいられない、恐ろしさも兼ね備えていた。
“威風堂々”である。
種族固有スキル『登竜門』は、一時的にドラゴンの力を得るというもので、通常は、発現が難しいレアな種族固有スキルだった。
『登竜門』を通って、一時的にドラゴンになった状態を、『
一般に存在するドラゴンの階級は、基本的に下から『亜竜』『下級竜』『中級竜』『上級竜』『
天災級の脅威とされる『下級竜』より、遥かに強い階級なのである。
短時間のみの限定能力でも、まともに戦える者など通常はいないのだ。
「あんた、もう、許さねっし! 瞬殺バイバイだし! 今の
「……………………」
突然現れたドラゴンに、『爪の中級悪魔』は、茫然自失となり、微動だにできない。
まるで蛇に睨まれた蛙のように……
そう……ドラゴンに睨まれた悪魔状態である……
「キンちゃんの『桜吹雪』目に焼きつけやがれだし!」
キンちゃんがそう叫ぶと……
キンちゃんの黄金の体の所々配置されていたピンクの鱗が一斉に剥がれ、鋭利な刃となって舞い上がる。
そして、まるで“桜吹雪”のように渦を巻きながら、いくつもの高速回転の鱗刃となって、『爪の中級悪魔』に襲いかかる。
微動だにできない『爪の中級悪魔』は、渦を巻く“桜吹雪”……高速回転の鱗刃に体をズタズタに切り刻まれる。
この攻撃で、『爪の中級悪魔』の目からは光が消えかけていた。半死状態であった。
この攻撃は、『
『
ほぼ致命傷を与えたが、キンちゃんの怒りはこの程度で収まるはずもなく、一気にたたみかける。
『
このスキルは、自分の全身全霊の魂の叫びを、物理攻撃力に変換するものである。
時に強すぎる想いは、物理的な形状を成し打撃攻撃することさえ可能にするのである。
自由な発想により、様々な特性を帯びたブレスが使えるようになる無限の可能性を秘めたスキルであった。
キンちゃんは一呼吸溜めると……
……全身全霊を込めた魂の叫びを口にする……
「
キンちゃんの魂の叫びは、そのまま
まるで漫画のような“言葉の形をした岩石”は、“
———次々と降り注ぐ岩石は、大地を穿ちながら『爪の中級悪魔』を一欠片も残さず消し去っていく。
靄になる暇さえ与えない怒涛の波状攻撃だった。
———キンちゃんの完全勝利である。
この攻撃は、スキルレベルの低さや手加減がなければ迷宮機能に損害を与えるほどの威力であった。
キンちゃんは、攻撃の瞬間、本能的に範囲を限定するとともに、威力も加減していたのだった。
咄嗟に、この判断ができるキンちゃんは、優れた状況判断能力と戦闘センスを持つ、類まれなる
だが、これを見ていた周りの者たち、特に密かに戦況を見守っていた主人グリムは、肝を冷やしたに違いない………。
安心したのか……
もしくは戦闘可能時間が経過したのか……
キンちゃんは、突然、
種族固有スキル『登竜門』は、一時的に強大な力を手に入れる代わりに、その後は身動きができなくなるほど、全身全霊の力を使いきる技であった。
まさに一撃必殺、短期決戦のみ可能な使い所の難しい技だった……
もっとも、ほとんどの者には圧勝できるために、悩むことはないかもしれないが……。
迷宮防衛に成功し、完全大勝利として戦いは終焉を迎えた。
しかし、勝利したとはいえ、迷宮前にいる者たちは、麻痺により未だ動けない状態だった。
そんな仲間たちのもとに、温かくそして優しい声が届く……
「みんな大丈夫かい? よくがんばったね。今回復するから」
そう……皆が敬愛する主人グリムが駆けつけてくれたのだった……
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